第533話 日出、通過!

高台の線路、その山側が温泉。

海辺に国道があって、広い道路の向こうは海岸。

イメージしやすい、南の島・・・みたいな。


寝台特急「富士」は、速度を上げて進んでいく。


パティは「いいですね、この列車で一晩過ごして」


友里恵は「来る時も東京から乗れば良かった」



由香「うん、楽しかった」


お酒を少し、頂きながらだと白身のお刺身は、より、美味しい。


愛紗は「乗ってくると思わなかったけど」


来る時・・・友里恵と由香は

豪雨で飛行機が飛ばないと思って。金曜日の夜、乗務が終わってから

新幹線に飛び乗って東海道線の寝台特急「富士」を追ったのだった。

浜松で追いついて。

浜松駅の駅員さんに、こだま670号の車掌さんが連絡してくれて。

指令さんが寝台特急「富士」の車掌さんに無線してくれて。


乗り継ぎを待ってもらったのだった。




菜由「飛行機が飛ばないか、と思ったけど、飛んだ」



翌日の昼には、雨は上がって・・・

菜由は普通に、飛行機で来たのだった。




それは、下り1列車「富士」で・・・・。

今乗っているのは上り2列車「富士」。



別府を過ぎ、海岸沿いを走り

トンネルをくぐる。


入り江に沿った、緑豊かな沿線を

カーブしながら列車は進む。


結構な速度だ。


日出、と言う小さな駅をすぎると

ローカル線みたいな雰囲気になる。



友里恵は「結構揺れる」と

麦焼酎の瓶を押さえて。



由香は「カーブだからなぁ」と。お刺身のお皿を押さえたり。

でも、もうほとんど残っていない。



赤い電車とすれ違った。



びゅん


と、音がしそうなくらい、速い。





線路は、海を見下ろす高台を走っている。

海沿いは、砂混じりの道路。


のんびり、バスが走っていたりする。




「ここの岬にね、温泉があるんだって」と、友里恵が

すこしお酒が回って。



由香「タマちゃん情報か」




友里恵「そう。さっきの駅からね、バスが無くって4km歩いたって」



パティは「そういう旅、楽しいですね」



菜由「ひとり旅?」




ロビー・カーはひとが少ない。

土曜、と言う事もあるし・・・・食堂車で夕飯の時間、と言う事もあるだろう。



椰子の木もゆらゆら。

友里恵はちょこちょこ、そこに歩いていって「ほんものだよ、これ」と

根っこに触れてみて「水があるもん」



菜由は「旅する木、か」




パティも不思議そうに「ずーっと旅してるの。」と、葉っぱを撫で撫で。



「季節わかるのかな」なんて、ふと。




いつも乗っている観光列車には、そういえばこういう、生きている木は

無かったりする。


愛紗も「この車両が出来たときから乗ってるのかな」と、ふと

壁にあるプレートを見ると「昭和50年」とか見える。



友里恵は「しょーわ50年って、何年だっけ」



由香「50年だろ」



友里恵「そうじゃなくって、せんきゅうひゃく・・・」




由香「西暦って言えば」



友里恵「うるさい」




パティもハハハ、と笑って「+25ですね」



友里恵「そうすっと・・・1975年かー。すごい長生きだねー。椰子の木さん。

えっと、何歳?」



由香「40歳くらい?」



友里恵「すごいなー。ほんと。お父さんだね、ほとんど」




列車は山間いを走り始める。


理沙は「どこかしら東北っぽく見える」と、車窓を見て。



緑が深くて、人がいる気配がなくて。



愛紗も、うん、そうかな・・・と思った。



どこかで見たことがあるような景色だな、とも思う。

見たことがあるはずもないのだけれども。



単線の、欄干の無い橋がふたつあって

川の上でカーブしていて。



向こう側を、青い電車特急が傾きながら曲がっている。


汽笛を鳴らして。




こちらは、ゆっくりと・・・のんびり曲がっていく。



川沿いは、自然のままで草が生い茂り

深い淵の中は何も見えない。



がごーん・・・がごーん・・・と、大きな音が淵に響く。

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