第509話 むかいのはる

むかいのはる、と


ひらがなで書かれている駅名板。


向之原駅である。


友里恵は「原だよね」



由香「腹か」



友里恵「減ったなぁ」


由香「おばQかよ」



友里恵「さいきんやらないね」



パティ「ハイ。どらえもんくらいか」



由香「おばQの最後ってどうなったんだっけ?」



友里恵「さぁ」



由香「アンタが覚えてるとは思わん」



友里恵「じゃ聞くな」


由香「大口、菊名、綱島」



友里恵「東横線かい」



パティ「ハハハ」


菜由「最後はさ、帰って行くんじゃなかったっけ。んで、パーマンが来る」



友里恵「パーマンもやらないね」



由香「そだね」




菜由「原=はるって読むの」



愛紗「方言かな」




パティ「ひがしこくばるとか」


友里恵「そのまんま東」



由香「なんだっけ、宮崎県知事」



友里恵「は、辞めて、国会議員だっけ」



由香「都知事と同じ、青島です」



パティ「なつかしいデス。それも夕方・・・」



理沙「よく見てるね」



パティ「野球部を引退してからヒマで」



由香「たまーに高校へ行って、後輩をしごくとか」



友里恵「しこしこ?」



由香「そっちへ持ってくなって」



友里恵「ハハハ」



向之原駅は、割と都会・・・の感じ。



友里恵「なんか御殿場線みたい」



由香「ああ、あったね、なんとか高校前とか」



友里恵「もうちょっと北の方で、木造の駅の。お団子が売ってて」



由香「そんなとこあったっけ」




学生たちも、今日は土曜なのでめいめいに、楽しそう。

穏やかな表情。



菜由も、その子たちみたいに・・・・自分の子が育ってくれると

いいなあと思う。



まだ、子供がいる訳でもないのだけれど。




数分、停車していただろうか。

大分から来た列車、赤いディーゼルカー数両がホームの対面に入ってくる。



駅長は手を上げて、白い手袋。



信号が青に変わる。



運転士さんは、信号を確認。




出発、進行。





ぷあん、と


電車みたいな汽笛を鳴らして、赤いディーゼルカー、1両。


走り出す。



こっとん。


こっとん。



長閑な風景が、後方に流れていく。


すこしづつ、都会の風景に近づいていく。



楽しかった旅、だった・・・と、愛紗は思う。

ひとりだったら、こんなに楽しくなかったな、とも。



もし、ひとりだったら・・・・シーガイアの予約を間違えていた時に

指宿へ行こうとか、思わなかっただろうし。



由布院か、大分か。

そのあたりのバスの営業所を見て、伯母さんの家で

ごろごろして(^^)。


駅を手伝って。



コミュニティバスの運転手にでもなっていたのかな、なんて・・・。



そういう人生もいいとは思うけど。





偶々、理沙に出会って


ディーゼル機関車に乗せて貰って「機関士」に

興味を持った。 のだけど。



旅は面白い。いろんなことを感じ取れる。


いままでの愛紗だったら、やってみたい、と感じても

回りの人の気持とか、想いとか・・・・



そういうものを気にして「やってみたい」と言えなかったけど

旅先で、友達だけだと素直にそれが言えて。



はじめて、かもしれなかった。自分のためになにかしてみたいと思ったのは。



そのくらい・・・旅に出る前の自分は気詰まりだったのだろう、と自身思う。

ニュースで見たプリンセスみたいの気持が、少し・・解ったみたいな気もしていた。


あの子も、そうかもしれない。






レールの響きが、いろんな事を思い出して、忘れさせて。

風景と一緒に、飛び去っていく・・・・。




旅、いいなぁ。









線路は平地に降りて、回りはたんぼ。

今は青々とした稲穂が実っている。4月である。


そこに駅。



誰が乗るのか、と思うくらいな・・・・見渡す田園地帯。



友里恵「田園地帯に家が建つ」



由香「懐かしいな」



友里恵「めし、ふろ、ねる」




由香「関白宣言か」




パティ「オマエを嫁に~♪」




友里恵「ねる、ねる、ねる」




由香「それしか楽しみがない」




友里恵「ハハハ」



理沙は「ここだっけ、折り返し休憩の駅」



パティ「そうでしたっけ?」



理沙「まあ、あたしは無いけど、深夜勤務」






長閑な田園風景の中に、信号所っぽい駅。

交換設備が必要なのだろう。



振り返ると遠く・・・・もう、由布岳は見えない。



あー、終わっちゃったな、と、愛紗は思った。



こんど、いつこれるのかな。


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