第502話 He hit me
愛紗は、はた、と気づく。
「わたしも・・・お父さん、か、お母さん、に・・・・」
ひっぱたいてもらいたい、のかな?(^^;
なんてーーー。
そんな子供っぽい趣味はないけど・・・・。
だいたい、お父さんに甘えた記憶も無かった。
お母さんにも。
「もしかして・・・ホントの親じゃないのかな」(^^;
黄色いディーゼルカーが、風を捲き起こして
愛紗のヘンな想像を、吹き飛ばした。
友里恵が、ちょこちょこ、と
開いたドアから乗って、線路の向こう側の
伯母さんの見えるドアのところに立った。
愛紗も、後から乗って
伯母さんが、手を振るのを見ていて「伯母さんがお母さんなら」
なんて、想像したり(^^)。
「でも、伯母さんには子供も居るし・・・・」とか思って。
・・もしかすると、わたしは拾われた子・・・・。
なんて(^^)。
ひとりで、にこにこしたり。
・・・・でも、そう思うと・・・。
いろんな記憶が、意味を持って見えたり。
幼い頃、夜行列車に乗って
上野からどこかに行った記憶とか。
宮崎に住んでいた筈なのに。
愛紗、と言う名前が
なんとなく音楽に関わる名、なのに
両親とも、音楽に詳しいワケでもなかったり。
ーーーそれらが、ミステリーに見えてきたり。
黄色いディーゼルカーの運転士さんが、ホームに下りて。
大分の方から、すれ違いの列車がやってくる。
赤いディーゼルカー、3両。
運転士さんは、運転席のドアからホームを見て。
笛を吹く。
乗降、終了!。 指差し確認。
運転席に乗って。ドアをかちゃり、と閉じる。
客席ドア・スイッチを閉じる。
つー・・・・。と、電子ブザーが鳴って。
片開きのドアが閉じる。
ぷしゅー・・・・・。
1番線に赤いディーゼルカーが居るので、伯母さんが見えない。
友里恵は、車両越しに伯母さんを探している。
運転士さんは、時計を見て「庄内、発車、定時!」
信号現示確認。「出発、進行!」
汽笛を
ふ
と。鳴らして。
逆転機を左に。
主幹制御器を引く。 1。
ぐい、と、動き出すのをいなして。
先ほどから1、に緩めてあったブレーキを解放する。
しゅ、しゅ。
空気が抜ける。
ゆら
と、黄色いディーゼルカーが動き出す。
「あーん、見えない」と、友里恵は
動き出した車両の後ろの窓のところに駆けて行った。
ゆっくり、ゆっくり・・・・。庄内駅は遠ざかる。
すこしづつ、思い出になっていく。
かったん、かったん・・・・。
赤いディーゼルカーも遠ざかり、駅のホームに
伯母さんが小さく見えた。
手を振っている。
なんだか、愛紗も泣きたくなってきた。
分岐していた線路が一本になって
黄色いディーゼルカーは、すこし加速して。
床下のエンジンが、回転を上げて。
川沿いの景色が見える。
ふれあい温泉、ヨーグルトン乳業。
つい、一週間前・・・歩いた川の畔。
みんな、思い出。
♪ぴんぽーん♪
車内放送が、やさしげなお姉さん声で。
ーーつぎは、天神山ですーーー
バスみたいな運賃表示が変わる。
後ろをずーっと見ていた友里恵は、カーブの向こうに伯母さんの姿が見えなくなると
「あーあ、行っちゃった」と、振りかえって。
「天神山ってスキー場があったね」
由香は「それは山梨だろ」
友里恵「あ、そーだっけ」と、気持の切り替えが早い子(^^)。
「高校生の頃、スキーにね」と、話す友里恵。
話してると、淋しくないから、なのかもしれない。
由香「一緒に行ったじゃん」
友里恵「アレ、そーだっけ」
由香「そーだよ」と、にこにこ。友里恵が淋しさを紛らわすために
おしゃべりしてるのが、よく判ってる。
にこにこ。
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