第494話 さよなら、由布院

友里恵たちは、3番ホームで待っている

ドアの開いた赤いディーゼルカーに乗った。


ゆら


空気ばねなので、ゆらゆらする。



「太ったかなぁ」と、由香。


「♪ふとっちょだーって、可愛いもん♪」と友里恵。


パティ「ふつーは、そうみたい」



由香「ふつーって?」


パティ「やせてる子よっか、ふくよかな方がかわいいって」



友里恵「そーだねぇ。ブタさんカワイイし。♪ハナペチャだーって」


由香「ブタさんはたしかにハナぺちゃ」



友里恵「なんで?」


由香「遺伝でしょ」


友里恵「難しい言葉」


由香「中学じゃん」


友里恵「そだっけかぁ」



由香「がんばれ、高学歴芸人」



友里恵「中卒だよ」



パティ「ハハハ」



まだ、発車時刻までは間がある。



土曜のお昼、とあって

大分ゆきの単行ディーゼルカーは、空いている。


キハ220型は、新しいので

綺麗。



作りは凝っていて、ベンチ・シートは木材の上にクッションが張られていたり。



友里恵は「枕かわいいねー」と。背もたれの上のところの、頭が当たるとこ。

ファブリックの模様が、ファンシー。

黒い生地に乗っていて。



由香「枕っていうのか、それ」



友里恵「枕営業ー」



パティ「ナンデスカソレ」



由香「箱根の方言」



パティ「?」



友里恵「枕営業ってのはねー」


由香「ヘンなこと教えるな!」


と、ひっぱたくマネ。



友里恵「いたーいナニすんの」



由香「懐かしいなそれ」



と、いいながら・・・・ゆらゆら揺れてる車両。



ところどころに、木のボールが持ち手のようにくっついている。




友里恵は「これ、おもしろーい。取れないのかな?」と、捻ってみる。


由香「よせよ、壊すぞ」




ぽろ



なんて取れたら面白いけど、ボルトでしっかり止まっている(^^)。




乗客はまばら。




友里恵「まるっこいと撫で撫でした

大分に遊びに行く子・・・とか、お買い物のおばちゃん、とか。



運転士さんが、鍵を開けて運転席ドアから入ってくる。

計器類を点検して。



♪ぴんぽーん♪


ーーこの列車は、大分ゆきですー


カンタンな、録音のお姉さん声のアナウンス。


料金箱が動いて、運賃表が全部 0 になってから


つぎは

南由布


と、一番下に表示された。




友里恵は、ホームにまた下りて、リトルちゃんの小屋の方を見たり。



小屋で寝ているのか、姿はみえず。



お家の向こうには、田んぼと、お山。長閑な田舎らしい風景で

観光地になっている、線路の駅舎側と


対称的に、手の入っていない自然な風景がある。




友里恵は、車両に乗って「寝てる」



由香「そっか。でも、また見掛けたら泣いちゃうだろ」



友里恵「そだね」と、窓の向こうの大きな犬小屋を見た。

プレハブの勉強部屋くらい大きい。



由香「犬好きだよね友里恵」


友里恵「ネコ派なんだけど」


由香「トムとジェリーだろ」



パティ「アレはネズミでしょ」


友里恵「おとなりにブルちゃんが居て」


パティ「そうそう。ジェリーとおっかけっこしてて

トムが、お昼寝ブルちゃんにぶつかって」



由香「懐かしいな」



パティ「今でもやってるんじゃないかなぁ」



ツー・・・。

ドアの電子ブザーが鳴って。




ドア・エンジンに空気が入って

開き戸が、からから・・・と、閉じる。





運転士さんは、逆転機を左に。


がこん


車両が揺れて、ギアが入る。



ブレーキハンドルを緩めて。



信号を確認。  出発、進行。指差し確認。左手で信号を。




主幹制御器を 1。



エンジンが床下で、がらがらがら・・・・と、音を立てて

回転を上げていく。



ゆら、ゆら。

と、左右に揺れながら。




窓の向こうで、リトルちゃんが気づいて。「ばう、わう」

小屋の上に乗っかって。

しっぽを振ってる。



友里恵は「あ」と、言って手を振って。「またくるからねー」と。

笑顔だけど、涙が落ちる。




かったん、かったん・・・・走り始めると、窓の景色は流れて。



リトルちゃんも、さようなら。




友里恵は、通路を歩いて後ろの方へ。




後ろの窓へ。




カーブしている由布院駅のホームが見える。



リトルちゃんは、こっちを見ていて「わん、わん」


黒い由布院駅と、ホーム。  背景に由布岳が見える。



遠ざかる風景・・・・。



さよなら、ゆふいん・・・・・。友里恵は、感じている。



由香は、その背中を眺めている。  旅、っていいなぁ。

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