第446話 思い出のなか

由布院ゆき、赤いディーゼルカー

キハ220型の、運転台のそばの貫通路のところに立って

愛紗は、レールを眺めていた。



別段、愛紗に・・・「こうしたい」と言う意志は、無かった。

これまでもそうで・・・まわりが「こうしたら?」と

言われるままに、そうしてきた。


また、それで・・・回りの思うように、出来てしまったので

ずっと、そのままで来た。



それだけだった。



でも・・・・なんとなく。

婚姻とか、そういうところまでは・・・・


そういう気持があって、初めて「まわり」の意志に沿わない事をした。


けれども、何をしたい?と言う自分の気持は・・・いままで無かったから。



いきなり作れ、と言われても・・・無理(^^)。




なんとなく、バスガイドになって。

バス会社で、運転手さんが辛そうだから、助けてあげたいと

思っただけだった。




でも、それは・・・それまでの愛紗の人生で初めて「できない」事だったから。

凹んでしまった。



それだけのことだった。



友里恵や、菜由や、由香が気にしているような

葛藤とか、別にないのだった(^^)。





ふかーい意味は何もない、中身もない(^^)。



それに「意味」を見出そうとする人に、いろいろな・・・・カタチに見える。



見ている人の気持が投影されているだけ、だった。




でも・・・友里恵ちゃんたちの気持には応えたいと思ったから。

何か、カタチを作ろうかなと思った。

それだけだったりもする。




なりたいもの。



ホントは、何も無かったりする(^^;





かたこん、かたこん・・・・・軽快な、新型気動車キハ220は

すいすいと急な坂を登って行った。




♪ぴんぽーん♪



ーーまもなく、湯平、湯平です。

お出口は右側、前のドアからお降りください。

料金は、運賃箱にお入れください。

定期券のかたは、運転士にはっきりとお見せ下さいーーー



録音だけれども、優しげな婦人の声。

九州に帰ってくると、いつも聞ける。


なんとなく安堵する愛紗。



ふと、思いだす。



大岡山営業所のこと。


なにげなく、出逢ったタマちゃん。


眠そうに、バスの最後部シートに寝ている時の愛らしいところ。


タマちゃん、かな・・・・。



あざらしちゃんではないけれど。


のーんびりしていて。声を荒げたりすることもない人。



だからか、愛紗も菜由も・・・ほかのガイドたちも

甘えていた・・・ような。





その人は、もう・・・バス・ドライバーじゃないから。



大岡山に行っても、会えない。




旅で忘れていた事を、思い出す。











その頃・・・275列車・機関士の理沙は

リラックスして、ブレーキハンドルを握っていた。



残業が無くなって嬉しいのは、ふつうの感情である。



そういう顔は、25歳なりの女の子。



綺麗なスーツでなく、ナッパ服のような機関士の服。木綿の丸い帽子。

だけれども、理沙はその服が大好きだ。



祖父も、同じ服を着ていたから。




列車は、まもなく・・・小野屋駅である。

山間の駅だが、農協の穀物倉庫があるところを見ると

昔からの穀倉だったのだろう。

大きな倉庫が幾つも。



数年前までは、庄内駅のような

昔ながらの木造駅だった。


近年、綺麗に建て替えられた。



かたたたん・・・かたたたん・・・・。

凸型の機関室、エンジンが1基なので

理沙からすると、後ろが重い、感じがする。







由布見通りから、橋を渡って。

友里恵は「ケーキ屋さん、並んでないね」



パティは「もう、売り切れかしら」



由香「ああ、朝だねー並ぶの」



友里恵は「ロールケーキだっけ」


パティ「ハイ。最近ですね、名物になった。10年前はなかったです。」

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