第445話 サマー・サンバ

庄内駅でひとやすみした愛紗たちは、次の下り、由布院ゆきで

戻ることに。


伯母さんは「じゃ、愛紗は明日の夜帰るのね。」と、笑顔で。



愛紗は「うん。それから、会社に話して。その後青森に行って見るつもり」



伯母さんは「そう。うちは、いつでもいいから。来たくなったら来てね。」



愛紗は、にっこり「うん、ありがと、伯母さん。いろいろ。」



菜由は、いろいろ・・・普通に心配してしまう。

伯母さんだって、後継者?として愛紗の事をすこしはアテにしていたのでは?

とか。



バス会社だって、そう簡単に・・・退職?と出来るのかどうか。



国鉄だって、そういう女の子を

アルバイトとは言え、入れるのかどうか。



国鉄にもバス会社があるから、協力関係にあるバス会社大手にいる愛紗を

転入させるのかどうか。



そのあたりは、高卒・新卒で入った橋本理沙とはだいぶ、状況が違う。


年齢も21歳であるし。





でもまあ、それは心配しても仕方ない。




とりあえず、やってみよう。



そう思っている愛紗の、気を削ぐような事は言わない方がいいかな、と思って

菜由は黙っていた。





大分の方から、赤いディーゼルカーが昇ってきた。



由布院、と電光表示で前面、上に。オレンジ色なのが

作られた時期を感じる。



静かに、1番線に停まる。3両編成だ。



夕方なので、結構込み合っている。


由布院あたりまで、通っている人がいるのだろう。




愛紗は、空気ばねで、ゆらゆら・・・ゆれているディーゼルカーの

開いたドアから乗った。



伯母さんに「明日、行きがけにまた寄るわ」




伯母さんは「うん、ありがとう。また明日」



にっこり。



菜由も、列車に乗って。




愛紗が、元気になれて。

バスガイドだった頃よりも、自然な笑顔で。


それだけでも、いい旅をしたんだなー、って思う。



だから、この先の心配とか、そういう事は言わないようにしようと思った。



赤いディーゼルカーは、室内が白。

ところどころ、木材で作られた手摺りとか、肘掛とか

面白いデザイン。

運転席は、電車みたいにきちんと囲われていて、客室から遠い。

ガラスの向こうの運転手さんは、なにか映画の映像みたいにも見える。


制服の運転手さんは、白い手袋で指差し確認をしていた。







「わんわんわん」と、友里恵は

ももちゃんのお家のほうから、駆けてきた。




由香は「ホレ」


パティ「ハハハ、ぱとらっしゅー。」



友里恵は息弾ませて「はふはふはふはふ」



由香「なんかAVみたいだな」



友里恵「はふはふ・・ああん・・・はやく」



由香「そこまでにしとけ」


友里恵「この川ってまんなかで割れてんだね」




パティ「水路になってますね」



カルガモちゃんたちが、ぷかぷか。



友里恵「かわいー」



パティ「ハイ」



由香「ほんと」



土手を歩きながら、橋のたもとに。



「ここもYだ」と、友里恵。



由香「なにが?ああ、道か」


ケーキ屋さんの横に、金鱗湖に行く道があって。


パティ「Xかな」


よく見ると、橋の向こうにもうひとつ路地があって

X型。



友里恵は、腕を回して「X攻撃!」



パティ「ハハハ。ちょっと前かも。バレー部」



由香「坂倉さん」



パティ「ハイ。さかまゆ」



友里恵「日本人なんだけどさ、パティはアメリカーンだから。見た目。

さかまゆ、って言っても自然だね」



由香「あたしらが言うと「さん」「ちゃん」とか「さま」とか。日本語メンドクサイね」



パティ「ニホンゴ、ワカリマセーン」



友里恵「便利だなぁ、それ。国語の時間にも言わなかった?」



パティ「ニホンゴ、ワカリマセーン・・・・言うと、ひっぱたかれます」




由香「ハハハ」



友里恵「列車だとバレナイけどね」



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