第440話 275レ、庄内、定発!

湯平から庄内へ向かうと、すこし上り勾配。


4ノッチ。



エンジンの回転数が高まる。機関車なので、そこそこ・・・と言う感じ。

船のエンジンのようだ。


カーブすると、後ろに客車が連なっている事が腰に伝わる。


そこが楽しいと機関士・理沙は思う。



「速度、45!」メーター・パネルで確認する。

丸いメーターに針、アナログ、と今では言われるデザインだ。


機関車が作られた頃は、デジタル、と言う言い方は殆ど無かった。

電卓が出てきたくらい、である。それと腕時計。



液晶の黒い文字が表示される、簡素なものだったが。



緩い右カーブ、崖を切り開いたような線路・単線。

右上が崖、下が民家や工場があったり。



ヨーグルトン乳業、なんて名前のかわいい工場があったりする。



その下が大分川である。



川の向こう岸には、田畑が広がり

その向こうは森。山が見える。


その山の中には豊肥本線が走っているのだろう。



九州の夜は遅い。18時をすぎても夕方、と言う感じだが

西に位置するため、である。




ノッチを戻し、理沙は慣性で列車を走らせる。


その方が、乗り心地もいい。



主幹制御器 0ノッチ。




かたたたん・・・かたたたん・・・と、機関車がレールの継ぎ目を渡る音が

響く。



重さがあるので、ごとごと・・と。




森林鉄道のような、湯平ー庄内間である。





機関車がポイントを渡り、側線が幾つかある

保線区のある駅、庄内である。




理沙は、静かに列車を止めた。




長い編成なので、駅舎側の1番線ホームに着く。

普通は、大分ゆきのディーゼルカーは

2番線なのだが。



長いホームの真ん中へんに、編成が停まる。





委託駅員が居るので、洋子も文子も楽である。

ホームに下りて、改札はするけれど。






愛紗と菜由は、ホームに下りて。機関車のところへ

すこし急ぎ足。



「停車時間のうちに・・・」と。




機関車、DE10 1205の左側運転席に乗っている理沙は

右側に回って、窓から顔を出して。



愛紗は「ありがとう、ここで下ります」


すこし、息が弾んでいる。



理沙は「ごめん、今夜ね、残業になっちゃったから。

ごはん、先に食べてて。8時過ぎると思う」



菜由は「解りました。ご苦労様です」




どういう理由かを尋ねている暇はないし、聞いても仕方ない。

乗務員の残業、超過勤務は

なかなか「任務」みたいなところがある。




4号車、最後尾で車掌・洋子が笛を吹く。



理沙は「あ、発車だ。それじゃ、またね」と、理沙は笑顔で

運転席に戻る。





列車無線が聞こえる。




編成のドアが、ばたり、と、閉じて。




運転席に戻った理沙に「275列車車掌です、機関士どうぞ」



理沙はハンド・マイクで「275列車機関士です、どうぞ」




洋子は「275列車、発車!」



理沙も「275列車、発車!」




出発、進行! 庄内、定時!



遥か前方の出発信号機は青である。




左手で指差し呼称。理沙は、主幹制御器を1ノッチ。


編成制動弁を0ノッチ。


すこし、遅らせて。

機関車単弁を0ノッチ。


ぎしり、と動力が伝わる。



ゆっくりと、機関車が動き出す。




ふぃ、と汽笛を鳴らして、理沙は275列車を大分に向かって走らせた。




かったん、かったん・・・・

軽快に、ブルーの客車は走り始める。



ディーゼル機関車が、煙をあげていく。


ゆらゆら・・・・。




ごー・・・・と、エンジンの響き。




かたん・・・・かたん・・・・



2号車。文子がデッキから、手を振っている。


3号車。


4号車。




車掌室窓から、洋子がホームを安全注視。



愛紗と菜由に手を振って。笑顔。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る