第441話 かわいい・あいしゃ

「ライブですか?」友里恵は

KKR由布院のフロントで、キーを受け取って

フロントの脇のエレベータ、ではなく

バーのとなり、温泉の入り口にある

簡素な、業務用エレベータへと歩きながら。


ライターさんは「そう。わたしみたいなオバサンでもねしてるけど。

今は、ケータイで送れるから。

旅の映像をライブで送って。

あなたたちみたいな、若い女の子なら

読者も、編集部も喜ぶわ」と、にこにこしながら。


こちらは、裏通りなので毛足の短いカーペットだけれども

その感触を靴に。


エレベータ・ホール。


△ボタンを押す。 



すっ、と扉が開く。




「さ、どうぞ」と、由香。



ライターさんは「ふだん、どんなお仕事?」




由香は「あたしと友里恵は、バスガイド、パティは国鉄のCA」



ライターさんは、明るい笑顔で「なお、喜ぶわ。みんな。」




楽しげに、エレベータは4階へと登る・・・・。




「豪華なホテルねここ」と、ライターさんは

すこし驚いたよう。




エレベータが4階に着くと、ふかふかのカーペットは綺麗。



友里恵は「いつも、旅ってどういうホテルに泊まってますか」



ライターさんは「列車だと、いきあたりばったりで駅前のビジネスとか。そういうの。

ここのKKRってビジネスと変わらないのね、値段。

びっくり」



パティは「国鉄共済ですからー」と、にこにこ。

職員である。





エレベータ・ホールの前には、なぜかビールと珈琲の販売機があったりする。


回廊になっていて、中庭は2階のお屋根。そこが緑地になっている。

見下ろすような回廊に沿って、お部屋が並んでいて。



窓からの景色も、ゴージャスだ。




由香は「面白そうね」


友里恵「うん」



ライターさんは「まあ、ここ一本で・・・と言うのは難しいけど。わたしの場合。

あなたたちみたいな、特徴のある子なら・・・いいかも」



と、にこにこしながら回廊を回って、406。




「ここね」と、ライターさん。




友里恵は「あ、じゃ、あたしらは隣だから」と・・・。



407へ。




そこで、ひとやすみ。








庄内駅の愛紗と菜由は・・・。



改札に向かう。



「あ、伯母さん」と、愛紗はにっこり。「ただいま」



愛紗の伯母は、にっこり。「ああ、おかえり。楽しかった?」



愛紗は「うん。あのね、ホテルのお勘定」




伯母さんは「それはいいよ。後で。今晩も泊まるんだし・・・そのあと、ウチに

住むんでしょ」


と、にっこり。




愛紗は「あのね、それはとっても嬉しいの。で・・・あたしね。旅してて

機関車乗りの子に会ったの。その子、25歳で。

アルバイトから始めて。


わたしも乗ってみたいな、って思って。

その子の故郷の、青森で

アルバイトから始めてみたいと思うの」



と、一気に言った。




菜由は、愛紗が変わったなあと思った。けど、伯母さんが穏やかなので

不思議に思った。



伯母さんはにっこり「そう、あなたが決めたんなら、それはいい道よ。

がんばってみなさい」と。


愛紗は「うん!ありがとう、おばさん」と、先に立って駅の方へ

弾むように歩いていく。




菜由は、その後姿を・・なんとなく見ていた。



伯母さんも、同じく「菜由さん、あの子・・・の、お友達でいてあげてね」




菜由はびっくり「あ、はい。」



伯母さんは「愛紗はね、回りにずっと気を遣ってて。自分のしたい事も

しないで。

でも・・・やっと、この旅をしてて。

何かが言えるような子になったの。


あなたたちのおかげ。ありがとう。」



菜由は・・・・「はい」と言ったきり。



そういえば・・・そうかもしれないな、と。

どことなく、演技しているみたいに可愛く振舞っていたように見えた

時もあった。



わがまま言って。



好きにして、泣いて笑って。

そういう経験が、無かったのかな・・・・。なんて。




18歳になって、親元を離れてバス会社に来て。

ガイドとして働いている間に、気持を・・・立て直していたのかな。




好きな人が出来たり。



告白しようと、まちぶせしたり。


そのひとに、近づきたくて。




そういう、女学生の頃にするようなことを・・・・ようやく、できる気持になったんだね。




そんな風に、菜由は思った。





「これから、青春なのね。愛紗・ちゃん」と、にこにこ。

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