第403話 professional
友里恵たちを乗せた、豊後森行き普通、単行キハ31は
ゆっくり、ゆっくり。
軽快に日田駅を走り出す。
駅の前は平地だが、走り出すと築堤の上になるという・・・面白い地形で
さすがは盆地である。
友里恵は「ひたぼんち」
由香「さかさに言うなよ」
友里恵「ザ・ぼんち」
由香「懐かしいな」
友里恵「エー地点からっ♪」
由香「歌わなくていい」
パティ「ハハハ。
「はぐれ刑事」
に出てたひと」
友里恵「詳しいね、18歳なのに」
パティ「ハイ。再放送で見ました」
由香「あー、あるね!4時頃から放送してたっけ」
友里恵「早起きだー」
由香「夕方だよ」
友里恵「わかるけど」
由香「なら言うな」
パティ「ハハハ。由布院でもやってたねー。夕方」
由香「よく見てるね」
パティ「ハイ。部活無くなったあと、ヒマでしたし」
友里恵「そっかー。女子野球部ってでも、珍しいよね。」
パティ「ハイ。一応、全国大会もあって」
由香「熱湯甲子園」
友里恵「熱湯×熱闘〇」
由香「鋭くきたなー、中卒芸人」
友里恵「誰が芸人やねん」
由香「ハハハ」
楽しく話しながら・・・・久大本線普通、キハ31型単行は
ひとつひとつ、駅に停まって。ていねいに。
豊後三芳駅が見えてくる。
運転士さんが排気ブレーキを掛けると
車内には
しゅー・・・・・
と、空気が漏れるような音が響く。
排気ブレーキ、マフラーに蓋をして排気圧でピストンの上下に制限を与えるタイプの
インヒビター、である。
昔からディーゼルエンジンにはよくついているタイプ。
なぜ排気かと言うと、吸気側にはスロットルが無いのもあるし
排気は圧力が高いので効果が大きいから、と言うのもある。
そうして、速度が落ちた所で機械ブレーキ、普通の
ディスクブレーキだったり、制輪子ブレーキだったり。
それを掛ける。慣性質量が大きいので、摩擦ブレーキをいきなり使っても
停まらない。
それだけに、先を読んで運転する必要がある。
非常ブレーキの場合は別だが。
豊後三芳駅のホームが見え、運転士は「ホーム、注意!」
乗客らしき人が数人。
長閑な田舎の駅だけれども・・・たまーには乗る人もいるのだろう。
主幹制御器は既に0ノッチ。
制動弁ハンドルは、常用最大位置。
しゅー・・・・
速度、20。
機械式ブレーキが掛かる。
ブレーキシリンダ圧力計が、ぴょん、と跳ね上がる。
きー・・・・きき・・・・
ブレーキ圧を緩めながら・・・キハ31は静かに豊後三芳駅に停車する。
停止位置表示が、ホームの屋根から下がっている。
・
・
・
その頃、豊後森駅の機関士・理沙は
「駅長さん、鉄道電話掛けていい?」
駅長さんは、日焼けした顔に皺を作って笑い・・・「いいよ、どこかけんの?」
理沙「青森」
駅長「故郷きー?」
理沙「いえいえ、友達がね、機関車乗りになりたいって言って。
弘前機関区に入れないかって、バイトで」
駅長は、笑顔のまま「へー。理沙ちゃんのボーイフレンドきー?」
理沙「違う違う、女の子よ。かわいいこ」と言って、両手を振って。
駅長「変わってるなぁ、女で機関士・・・あ、ごめんき」と、頭下げて。
理沙はにちゃっ、と笑って「それはいいの。確かにヘンだもの。女機関士なんて。
なんか、TVの取材とか来そうだし」
駅長はハハハ、と笑って「確かに。あのー、なんだっけ。♪風のなかのスーバルー
っての」
理沙「でも来ないねぇ」
駅長は「ななつ星に乗務するときに来るき」
理沙は思っても居なかった「あ、そうか・・・ディーゼルだものね。あれ」
駅長「それはいいけど、その女の子。バイトで良ければ大分でもあるね。」
理沙「そうだと思うけど。機関車に乗りたいって言うの。大分だと、今からじゃ
電車でしょ?」
駅長「そうだねぇ・・・。熊本行って、蒸気に乗るとか」
理沙は笑って「それならアタシも行きたいよ、蒸気機関車。なりたかったんだもん。
機関士」
駅長さんも笑って「そっか。おじいちゃんが機関車だったからき」
理沙、頷く。
駅長さんは「普通に国鉄受けて・・・そう、貨物に回るとか。」
理沙は「その子21歳なの。だから、今から定期採用受けて入れるか気にしてるみたいな
の。国鉄も人余ってるでしょ?」
駅長さんはすこし考えて・・・「そっか。それなら、貨物の機関庫・・・だねぇ。
鹿児島とか小倉とか。どっちも女の子は採用するかなー?」
理沙は頷き「それで、弘前ならアタシの顔が利く、ってワケ」
駅長、頷き「さすが。」と、笑う。
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