第376話 思い出の風景

理沙は、前を見ながら「でも、バスよりは簡単ね。人が歩いて居ないから。」と、にっこり。


愛紗は「バスは、そこ、怖かったです。直前って見えないから」

大岡山でも、直前横断をした人が事故にあったりした。



理沙は「鉄道もそうだけど、区切られてるからね。軌道はあるんじゃないかなぁ」


路面電車などは、よくある事故らしい。人ではなく、車と。



理沙は「ディーゼル機関車でも、箱型のはよく見えるけど。バスと同じで」




線路の左に、停止表示と駅名。




と。


理沙は再度確認する、仕業表。「豊後三芳、通過!」


左手で、指差して。



愛紗も「豊後三芳、通過!」と、確認する。



速度は20。


ゆっくりゆっくり、の

トロッコ列車である。



エンジンはアイドリングで、慣性だけで転がっていて。



理沙は「こういう観光列車は楽ね。ダイヤが合っても無いようなものだし」


愛紗は「そこはバスも同じです」と。にっこり。

朝などは、乗り継ぎなどで時間に追われるが

観光バスは緩い。



理沙も、愛紗を見上げて微笑んだ。




友里恵は、沿線の風景を眺めて和んでいた。

長閑な里。


緑豊かで、建物はそんなになくて。



「昔の大岡山みたい」と、そんな風に・・・・思った。

友里恵は、幼い頃はそんな農村の家で生まれ育ったので

どこかしら、のーんびりしてる。



お母さん、お父さんも

おじいちゃん、おばあちゃんがいるから

子供の相手も、狭いアパートとかでしなくてすむ。


何より楽なのはお母さんで・・・・

まだ若くて遊びたくても、マンションの部屋で

むずがる幼な子に苛立たずにすむ。


子供ものんびりできるのだ。




お庭でお菓子食べて、こぼしても


おばあちゃんがにこにこ「アリさんが来るわよ」



友里恵は、なーにか、わからないので「アリさん、来るかなー」と。


じーっと、お菓子のこぼれた地面で待っている。



忘れた頃に、アリさんが来て。


「おばーちゃーん。アリさん」と、友里恵はおばあちゃんを呼びに行って。



おばあちゃんは「どれどれ・・・・おー、来たねぇ。お菓子は美味しいのかな?」


なーんて言って。


長閑に、友里恵は育つ。


アリさんといっしょに生きているって、思う。




これが、団地のお部屋なんかだと

アリさんが来たら困る(笑)。


ので、お母さんは怒ったりするから・・・。


それはお母さんが悪いわけではなくて

不自然なところに生きているのが、悪かったりする。



そんなところで暮らすのは、経済とか、社会とか。

そういう不自然な理由だから。


なので、納得のできないヘンなルールで縛られる

窮屈な生活をしないと、社会が軋んでしまう。




鉄道のような仕事に必要なのは、実はそういうルール、ではなくて

自然に。思い遣りを持って育った人、なのだったりする。



安全も、実は事故にあわないように、との

人と社会への思い遣り、なのだから。







客車のパティは、放水警報(笑)解除で


とりあえず、安堵「ふぃー」 


汗汗(^^;



客車の席を見ると・・・由香も、菜由も


さきいかをくわえたりして、ビールで酔っ払っている(笑)。



「あーあ・・・・しょーがねーなぁ」と。


パティも同じである。



「愛紗、友里恵は?」と、パティは寝てたから気づかない。



「・・・どこ行った・・・ああ、機関車ね!」パティは編成の先端を見ようとした。


窓の外は、稲穂がゆらゆら・・・の、大分の春である。







機関車に乗っている友里恵は、思い出に耽っている。にこにこ。

楽しい事も、思い出させる旅、いいね。と・・・。


機関車は重いので、結構、乗り心地はいい。



豊後三芳駅の、小さなホームが見えてきた。


レールは、土の中に沈んでしまっているように見える。

木のままの枕木。


どことなくローカル線。

大きな木が生えていて・・・。



理沙は「ホーム、安全よし!」


誰も居ない。



右手は、編成ブレーキ弁に添えている。

操作盤のすぐ上にある、鍛造のようなハンドルだ。

手を添えるあたりは、触れられているのでぴかぴかに光っている。



ホームは、編成から見て左側。

理沙の座っている運転席から近い方なので、よく見える。




愛紗も「ホーム、安全よし!」




友里恵も「ホーム、安全よし!」と・・座席から伸び上がって見た。

線路のそばにある、可愛らしい花が、ゆらゆらと揺れている。





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