第360話 さよなら蒸気機関車

理沙は「友里恵ちゃんも運転、するの?バス」


友里恵「うん。したことあるよータマちゃんの」



理沙は「タマちゃんって・・ああ、お友達か」


友里恵「なんだと思ったの?」



理沙「ほら、あの・・川にいたあざらしちゃん」



友里恵「ハハ。まちがえちゃうね。誰だったかな。まちがえてたな。

ま、それはいいか。車庫でね。バスを運転させてもらって」




Y-DC125は、軽快に加速する。

すぐに固定1段。切り替わりも軽い。


かこん、と言う感じ。


昔のディーゼルカーは、ぐっ、と言う感じだけど。





♪ぴんぽーん♪


録音の声が流れる。



その、音声ボタンも、黒い、丸い。バスのスイッチとよく似ている。



運転士さんの右側についていて。





「この車両は、豊後森ゆきですーーー次は、豊後中村、豊後中村ですーーー」と。




エンジンの音が静かになる。



かたこん、かたこん・・・・と。軽快に、滑るように走る。




理沙は「バスを動かせるんだー。すごいね」と、笑顔になる。



友里恵は「そう?そうかなー。えへへ」と、ちょっと嬉しい。



理沙は「わたし、バスは運転してないもの。免許もないし」




友里恵は「あたしも免許ないけど。」と、にこにこ。




運転士さんは、信号を確認している。



白い手袋。指差して。




理沙は「機関車も乗れるね、それだったら」と、面白いことを言うので



友里恵は、考えてもいなかったので「えー?、でも、乗れたら面白いね」


機関車かー。

思ってもみなかった。


近くに、機関車乗る人、いなかったから。


でも・・・乗ってる人にとっては、いつもの毎日なんだな。

なんて。



友里恵は「どうやったら乗れる?」




理沙は「九州だったら、若手が少ないから乗れるかもね。

私は、アルバイトから始めたけど。登用試験受けて。


その、指宿で会ったって言う局長さん、区長さんに

頼んでみれば、入れるかもね。偉い人の知り合いって、大事だもん」



友里恵は「なーるほど。コネか。ハハハ。いいかもねー。」


なりゆきでバスガイドをしてたけど・・・・。それも、なんとなくだし。

長い人生だから、いろいろあるものね。



「でも、どうせだったら!蒸気機関車乗ってみたい」と、友里恵。



理沙は、にっこり「そう!あたしもそう思って九州に来たの」



友里恵は「なんか、いいよね。あの感じ」



理沙も「うん・・・」と、にこにこ。

思い出す。奥羽本線の、さよなら蒸気機関車。


D51-1号機の、さよなら列車。


もうすこし、生まれるのが早ければ

理沙が、その列車に乗務できたかもしれなかった。

それだけが、心残りで・・・・・九州まで来てしまった。








黄色いディーゼルカーは、ふんわり、ゆらゆら。

揺れながら、谷あいを進む。


かたこん、かたこん・・・。



友里恵は「このクルマは、クラッチ踏まないの?」



理沙は「クラッチ・・・は、踏まないね。変速段の時は、自動だし。

クルマのトルクコンバータと同じで。

固定段の切り替えの時も油圧だし」



友里恵は「ふーん。ハンドルもないし。楽だね」



理沙は笑って「そう、楽ね。重いし、大きいけど」



シートは、黒い生地に

赤とか、緑とか。可愛いポイントの模様がついていて。



友里恵は「この生地、「富士」のシートと同じだ」



理沙は「ホント?、あ、そうだ。同じ頃に作ったのかな。」




パティは「理沙は、青森から来る時は「富士」で来たの?」



理沙は「そう。東京からはね。青森からは「あけぼの」で。」



友里恵は「お相撲さんみたい」



パティは「あけぼの、むさしまる、こししきー♪」と歌う。


友里恵は「こにしきだよ」


パティは「そーだっけ。アハハ。」



すこし、標高が下がって、里の風景。


田んぼが見えて。

稲が、青々と茂り

もう、夏のような風景の4月。


高台の単線を、黄色いディーゼルカーは進む。



豊後中村に到着する。

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