第359話 野矢、定時。閉塞進行!

速度が落ち、停止寸前に機械ブレーキを掛ける。


きー・・・ききき。


ブレーキ・バルブから空気が抜ける。


しゅー・・・しゅ。



友里恵は「面白いね。ブレーキの掛けかた」



理沙は「うん。一旦掛けて、緩めて。停まる時に、きゅっ、と」



友里恵「どうしてそうするの?」




理沙はにっこり「空気ブレーキって、加減が難しいの。掛けたままだと効きすぎちゃう」



友里恵「バスもそうだね、そういえば。観光バスなんて、そうしてるね」



理沙は「よく見てるね。そうそう。その通り。空気だから、圧力を逃がしてあげないと

効きすぎるのね。上手くブレーキすると、停止位置にぴったり停まるの。

遅れてると難しいね。ぎりぎりまでブレーキ掛けないで、すーっ、って止める。

難しいよ」



友里恵「ふーん。面白そう」




理沙は「そう?ゲームでやってみれば。KKR由布院にあったね、ゲームコーナー。

けっこう似てるよ」




友里恵は「そっかー。理沙ちゃんは今夜はどうするの?」



理沙は「トロッコ引いて、日田まで行って。

折り返して豊後森から大分まで客車引いて帰るの、同じ機関車で。」




友里恵は「明日は?」



理沙は「お休み」




友里恵「そっか。あたしたち、今夜KKRに泊まって、明日帰るの。「富士」で。

今晩、一緒しない?」



理沙は「いいけど、邪魔じゃない?いろいろあるんじゃない?愛紗ちゃんとか」



友里恵は「愛紗はー。もう「ふっきれた」って。理沙ちゃんのおかげ!」




理沙「そう?わたし、何か言ったの?」




友里恵「そーじゃなくて。心構えがね。愛紗は足りなかったって自覚したのね。

自分の都合で事故なんか起こしたらタイヘンだから、自信ないなら辞めた方がいいって

気が付いたんだって」



理沙は、その言葉に「そう・・・・なんか、言っちゃったかな。私、青森の田舎者だから。

何か言ったつもり、ないの。自分がそう考えてるってだけで」




友里恵「ううん、いいの!ホントにそうだもの。愛紗の場合は、事故だけじゃなくて。

バスだと、お客さんにセクハラされたりするから。可愛い子は辞めた方がいいって。

会社も」



理沙「そう。そうだね。それは。確かに。運転って、やっぱり男の仕事なんだよ、きっと」





愛紗は、さっぱりとした気持で・・・野矢駅の風景を眺めていた。


ホームにある花壇。階段を昇った上にある駅舎。

駅前広場にある、路線バス。


そういうものを見ても、風景にしか見えなくなった。


こだわりなく、楽しい旅になった。



野矢駅は、切り通しの中にあって。道路はすこし高くなってて。






停車時間が終わり・・・・


運転士さんは、ホームにあるバックミラーで

安全確認。


乗る人もいない、金曜のお昼。



乗降、終了。ホーム、安全よし!。


白い手袋で、ひとつひとつ確認して。




ドア、閉!。




ツー・・・と、電子ブザーが鳴って。


引き戸が、がらっ、と閉じる。


ぷしゅー・・・・空気シリンダーに空気が入る音。



野矢、定時。閉塞進行!


運転士さんは、指差し確認。


青信号である。


ノッチ1。


ブレーキ・ノッチ0。



計器板の、赤いブレーキ表示が消える。



ブレーキ空気圧計が0に。すぅ、と落ちる。



エンジンが、がらがらがら・・・・・


ターボ・チャージャーが唸り始める。



きーーーーーん・・・・。



ターボ・ディーゼル・インタークーラ・システムが

250psを発生する。


変速段、トルク・コンバータの圧が上がり


ゆっくりと、車体が動き始めた。



屋根から、黒い煙が出始める。


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