第354話 ゆふいんの森 博多ゆき

博多から来た「ゆふいんの森」は・・・・1番線、駅舎のあるホームに停まる。

金曜とあって、ざわざわ・・・と、観光客が降りていく。

外国の人も多い。

もっとも、外国の人は平日に来るほうが多いのだが

由布院は、軽井沢のようなブランド・リゾートになっている。


車体の高さがある、ハイデッカー。空気ばねなので

ゆらゆら、と揺れている。


友里恵は「来るとき乗ったっけねー」と、由香に。



由香も思い出す「大分駅で、キミが飛び乗っちゃったんじゃん」



愛紗は、なんだか遠い日のこと・・みたいに思い出している。

一週間経っていないんだけど。



それから・・・久留米で新幹線に乗り換えて。

その時、鹿児島のおばあちゃんと知りあって。

指宿に行って。

麻里絵さんに出会って。

池田湖に行って。

立ち往生のバスを緊急移動して。

「はやとの風」で、恵さんに出会って。

「いさぶろう・しんぺい」で、まゆまゆちゃんに出会って。

湯前線に行って。

熊本に行って。

南阿蘇に行って。

「あそBOY」で、さかまゆちゃんと、ともちゃんに出会って。

「あそ」で、パティに会って。


由布院に来て・・・・。



「思い出すと一瞬かな」と、思ったり(^^;



いろんなこと、あったな・・・なんて。



由布院駅は改札口がない、ヨーロッパの駅みたいなタイプなので

自由に入れる。


1番線ホームから降りた人たちが、いなくなって。


ドアをあけたまま、プラスチックの黄色い鎖を引いて

中で、お掃除をしている。



東京駅で、よく見かける新幹線のお掃除みたいだけれども

それよりはのんびり。



30分はあるので、ゆっくり、綺麗にしている。



窓を拭いたり。テーブルを拭いたり。

座席の下をお掃除したり。


午前の列車なので、そんなに・・お弁当とか、御菓子とかの箱は

出てこない。



そんな姿を見ていると、愛紗もバスガイドをしていた時

夜に車庫に戻ってから、そのお掃除をするのが・・・嫌だったのを思い出す。


朝早いから、もう眠いのだけれども・・・・。

次の日は、さすがに乗務はしないけれど

午後あたりに、また・・次の乗務の準備だったり。



運転手よりはマシだけれども。




そういうところが分業になっている鉄道は、いいのかな、なんて思った。


CAのさかまゆちゃん、ともちゃんは

お掃除まではしない。




「まあ、成れれば、のハナシだけど」


知り合った彼女たちがCAだからと言って、愛紗自身がなれるとは限らない。

それは道理だ。



でも、試してみないで諦めるのは止めよう。そう思えるようになったのは

良かったと思う。



「もう、批判する人は誰もいないんだし」








「ゆふいんの森」は、ビュフェ営業だし

ハイデッカーだから、ワゴン営業はしていない。


その分、ワゴンの積み込みとかはないので楽な仕事だったり。



お昼の、上り列車。金曜なので

これに乗る人は、主に・・・外国へ帰る人たちだったり、

福岡から、本州に帰る人だったり。


用事で行くなら、大分から電車で行った方が早いので

「ゆふいんの森」で行く人は

旅を楽しむ人たち。



タイヤのついたスーツケースを持っているのは、日本の人が多い。

外国の人は、だいたい

荷物は送ってしまっているらしくて、手荷物はバッグふたつくらい。


タクシーとか、お宿のバスで

駅に来たり。


もっとも、大方は観光バスで

お宿から直接、空港に行ってしまうらしい。




「ゆふいんの森」に乗る人は、外国のツーリストでも

割と、旅に詳しい人だったりもする。



由布院駅の待合室は、美術館ふうになっているので

そんなツーリストが、いろんな言葉でハナシをしていて


菜由は「国際的だなぁ・・・、ところで友里恵は?」



パティは「ラブラちゃんに会いに行ったよ」と、駅の向こうの大きな小屋のところで

来たときみたいに、ラブラちゃんとじゃれていた。




3番線ホームにある、黄色いディーゼルカーは豊後森ゆき。



理沙は、とことこ・・・と。事務室から出てきて。

黒いスーツ。帽子は取っているけど。


菜由に気づいて「あのねー。豊後森まで移動だから。

あの黄色いので一緒に行こう?」



「ゆふいんの森」に乗務するのではなくて


豊後森まで移動で、そこからトロッコ列車を牽引するらしい。



菜由は「あ、一緒に行けるんだ。初めてね」



理沙はにっこり。「

「ゆふいんの森」

が出てからね。だから、乗ってて?」





上り「ゆふいんの森」のお掃除が終わって。

おおきなビニール袋を持って、お掃除のおばさん、おじさんが降りていく。



駅のアナウンスが入る。



若い女の子の駅員さんがマイクで

「ゆふいんの森、博多ゆきは間もなく改札を致します・・・・。」



この駅が面白いのは、列車が出る度に

改札を、並んで受けるところ。


列車の数が少ないから、と言うところもあるけれど


古くからの列車ファンには懐かしい、上野駅などの

夜行列車の待合い、みたいな・・・そういう風情を思い出す風景だったり。


ひろーいホールに、針金で列車名看板が吊ってあって

そこに並ぶのだけれども



九州だと、大きな駅のホームに吊ってある

列車名表示板に似た、金属の表示だ。

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