第331話 理沙の夢

同じ頃・・・・KKR由布院、303号。


理沙は、夢を見ていた。


幼い頃・・・・祖父の大きな手。

手をつないで歩いた、弘前の町。


カクハ、と言うデパートのある街並みは古く、木造のお店が並んでいて

どこの窓も、ぴかぴかで。


弘前城公園のお堀に、桜の花弁が舞って、綺麗だったこと。


お城公園で、おそばが美味しかったこと・・・。



それから、祖父の運転する蒸気機関車に乗った事。


弘前機関区に、一緒に行って。



機関区のひとが、みんな可愛がってくれて。


大きな黒い機関車がいっぱいあって。

熱くて。

煙が香ばしくて。


黒い機関士の服を着た祖父は、かっこよくて。


59622 と、プレートにある機関車に、抱き上げられて、乗せられて。



熱い、炎が燃え盛るボイラーが、ちょっと怖くて。


でも、助士さんが優しくて。助士さんの席に乗せてくれて。


スコップで石炭を、じゃり、じゃり・・と。くべていて。


そのたびに、炎が噴出してきて。


「出発進行!本線1」と、祖父が言い


助士さんも同じことを言って。



足もとが、ぐらり、と揺れて・・・。


ごと、ごと、ごと・・・・と。



みぎ、ひだり、みぎ・・・と、揺れたこと。



見慣れた弘前駅が、景色になって流れて行って。


祖父は、天井から生えたレバーを引いて。


丸い、大きなハンドルを回したりして。



機関車は、ゆっくり、ゆっくり・・・


走りながら。



弘前の街並みを走って。

左にカーブして。



低い、家がぽつぽつと建っている

田んぼの中を走って。


撫牛子を過ぎて・・・・。



平川を、鉄橋で渡るころには・・・・りんご畑がいっぱいで。







それから・・・・。


その、弘前機関区で働くようになって。


青い整備服の胸に橋本、と

白い布に墨書で書いて、縫い付けて。


それを着て、毎日機関車を磨いたり

機関庫を掃除したり・・・。


18歳だった。



沢山の整備服や、手ぬぐいの洗濯。

それだけでも一日掛かってしまうくらいだった。


「いやー、理沙っコが居っと、綺麗になってえーべさ」と、区長さんも

言ってくれて。


嬉しかったっけ。





そのうち・・・・。

奥羽線もディーゼルが増えてきて。




わたしは、ディーゼルの免許を取った。



機関士になれた。


嬉しかった。でも、最初は入れ替えが殆どだった。




本線を、回送で走れたのは、今でも覚えているけれど

川辺ー五所川原の間だった。



祖父が、9600でよく走っていたところ。


そこを、空の貨車を引いてDE10で走った。



とても感動した・・・。



りんごの花の季節で、カーブするたびに

花の香りがした。



エンジンの音が大きかった。





それから、しばらくして・・・・。


奥羽線も電化、になる事になり


線路沿いに、コンクリートの電柱が立つようになって。



なんとなく、淋しかった。




電化の前の日。


D51 1号機が、綺麗に飾られて

奥羽線を走った。


祝 奥羽本線電化 と


花に飾られて。



祖父は、すでに天に召されていたけれど


私は、その記念列車を、撫牛子駅で見送った。



「おじいちゃん・・・・・」と


思い出の蒸気機関車の姿を見送った。



煙が、たなびいて・・・。



香ばしかった。





「もう少し、早ければ。

私が、蒸気機関車の機関士になれたかもしれない」と・・・・

そんな風に、思った。




九州に来たのは、そんな理由だった。


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