第301話 由布岳さんはデカパンさん

急行「球磨川」4号は、ほぼ定刻に人吉駅に着いた。


まゆまゆは、業務室から出て、鍵を掛けた。


この瞬間は、車掌になったような、そんな気がして嬉しい(^^)。

まだ、車掌補である。


「先は長いな、真由美ちゃん」と、自分に言って。


裕子の姿を探した。


ホームに下りる。


がらがらがら・・・ごー。と、12シリンダエンジンの独特の音が響くスレート屋根。



クリーム色の、少し煙に煤けたボディ。窓のところは赤く塗られて。



裕子は、最後尾にいるだろうと思って、まゆまゆは

とことこ歩いて。



最後尾から2両目で、車内にいる裕子を見つけて。



デッキから乗り込む。


裕子は「ああ、お疲れ様、私は折り返しだから」と、簡潔に。


にっこり。




まゆまゆは「じゃ、お先に失礼します」と言うと


裕子は「ハハ、あんた、5月になったら20歳だろ、あたしと同い年だよ。」と。



まゆまゆは「でも・・・なんとなく」



裕子「なんとなく、か。かわいいなぁ、まゆまゆは。やっぱさー。

そのままお嫁さんになった方がいいよ。その方が高く売れるって」


まゆまゆは「そうですか?」



裕子は笑顔で「そうだよー。いいトコのお嬢さんなんだから、何も

こんな仕事しなくたって。図書館のお姉さんとかさ、市役所の事務とか。

上品な仕事いっぱいあるじゃない。」



まゆまゆは、そういわれると、なんかわからなくなった(^^)。

なぜ乗務員になったのか。



「ま、いっか。明日もあるから。帰って寝な。」と、裕子。



まゆまゆは「はい」と、にっこり。お辞儀をして。



裕子は、シートの忘れ物を捜しながら。「じゃね」と、手を振った。









特急「ゆふDX」は、湯平を過ぎてトンネルに入る。


「トンネルの中だと、なんか夜みたい」と、友里絵。


由香は「そろそろ夜だよ」



パティは「あー、帰って来たーって思います。ここ抜けると」



列車は、トンネルを抜け、川沿いの国道を見下ろす位置にある線路を

左カーブ。


谷間に、セメント工場が見えたり。


道路沿いに、ラーメン屋さんがあったり。


すこしゆっくり進み、丘を登ると


南由布駅。


田んぼの中。


4月の半ばでも、もう、稲が青々と茂っている。




夕暮れの、由布岳が車窓右に。




友里絵は「なんか、デカパンのおじさんの頭みたい」


由香は「バカボンはあんた」



友里絵「だよーん」



パティ「ベシが好きべし」



ともちゃんは「うなぎいぬかなぁ」



さかまゆちゃん「えー、なんだろ。ケムンパスかな」



菜由は「おお、マニア受け」


愛紗は「え、なんだっけ・・・デコッパチ」



友里絵「それはア太郎」



愛紗「あ、そっか」



みんな、楽しく笑う。



陸橋を潜ると・・・大きな左カーブの向こうに製材所が見えたり。


由布院の、瀟洒な黒い駅が見えてくる。



「ラブラちゃん、いるかなー」と、友里絵。



パティ「あの、駅の向こうの?」


友里絵「そうそう、来るときね。ちょっと遊んだの」



パティ「フフ、犬好きなの?」


友里絵「ねこ派だけど」




駅は左カーブの途中。


1番線に向かう・・・・・。



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