第300話 ありがとう

特急「ゆふDX」は、向之原を発車する。


床下のターボ・チャージャーが金属音を発する。



ジェット機のような、きーん・・・と言う高い音だ。



排気エネルギーで回すので、回転数は10000rpmを超える。


吸気側を、単に扇風機のような羽で押すだけだから、空回り半分。


圧力が上がると、空気は熱くなる。PV=nRTである。


それを冷やすのがインタークーラだ。


それらのおかげで、重い鉄道車両も動かす事が出来る。


流体クラッチ、トルク・コンバータの恩恵である・・・。




車体が、ぐぐぐ・・・と、押し出される。



ゆっくりゆっくり。



上り坂なので、少しゆっくりメ。



でも、着実に動いている。



駅舎のある1番線側で、駅員さんで挙手、挨拶をしている。


車掌さんに、だろうか。



それを見ても、来た時みたいに暗鬱な気分、バスを思い出して・・・

と言う感じにならない愛紗は

「来て良かったな」と思った。


みんなが、優しい。


友里絵、由香、菜由。仕事や家庭をとりあえず、休み(?)にして

付き合ってくれた。



そして・・・国鉄のみんな。

友里絵ちゃんの誘いに、休日なのに付き合ってくれたり。


いい人たち。


わたし、しあわせだ・・・・。と、思う愛紗。



「ありがとう・・・・」と、思う。



菜由が、そんな愛紗に「どうしたの?」



愛紗は、ううん、と、かぶりを振って「ありがとう、って思ったの」



友里絵は、敬礼をして「母さん、行ってきます!」


由香「♪~いっつもー心に~・・・」


菜由「ありがとう」


ともちゃん「なつかしー」


パティは「ナースでしたっけ」


さかまゆちゃん「そうそう。お巡りさんのもあったの」


愛紗「懐かしいでしょ」


と、友里絵が一緒だと、楽しい。深く考えなくていい(^^)。


いい子ね、友里絵ちゃん・・・・。




左の車窓に、大きな夕陽が映る。


友里絵は「おぉーぉぉぉ~」


由香「太陽にほえろ!」


菜由は「列車で吠えるなよ、ケージに入れるぞ」


由香「ハウス!」


友里絵「わんわんわん」と、お座り。



パティ「かわいいわんわん。よしよし」


と、友里絵をなでなで。



友里絵は「あ、庄内だね」



伯母ちゃん、いるかなー・・・と、左の窓を覗いた。



「ゆふDX」は、信号停止。


行き違いらしい。




駅の中の、出札に居るみたいな

愛紗の伯母さん。



「お茶してるのかな」と、友里絵。



パティは「日野さんの伯母さん」



愛紗は「そうそう。わたしもね、こっちへ帰って来て

この辺りに住もうかなって思うの」



パティ「いいねー。のんびりできますね」



ともちゃん「駅員さん、いいですね。」


さかまゆちゃん「理想かもしれないです。」




友里絵の気持が通じたのか、伯母ちゃんは駅舎から出てきて。


友里絵は、ともちゃんとさかまゆちゃんの間に立って

窓を、コンコン。



伯母ちゃんは気がついて、びっくり。


何か言ってるけど、聞こえない。窓開かないから。



友里絵は「た・だ・い・ま」と、一言づつ言った。


伯母ちゃんは「お、か、え、り」と、にこにこ。



愛紗は後ろで手を振った。



菜由は、会釈。


由香、お辞儀。



そのうちに信号が青になり・・・

運転士さんは、信号現示確認。



本線、出発進行!


停止位置にしていたブレーキ・ハンドルを1にし


変速段。


車体が、ぐ、と前のめりになる。



マスター・コントロール 1ノッチ。

ブレーキ0ノッチ。


エンジンが、ごー・・・・・。

ターボ・チャージャーが金属音。きーん・・・・・。




ディーゼル特急「ゆふDX」は、庄内駅を走り出した。


伯母ちゃんはにこにこ、手を振っている。



友里絵も手を振って。


跨線橋を渡り、右カーブしながら駅を離れる。

左手に、保線区の建物が見える。


ふるーい、モルタルの2階建て。



だんだん、勢いが付いて


「ゆふDX」は、線路を上り始めた。







裕子が「じゃ、仕事に戻るね」と

業務室から出て行ったので


まゆまゆは、ふたたびひとり。



かたたん、かたたん・・・


急行「球磨川4号」は、八代に向かって

鹿児島本線を下っている。



かーん、かーん、かーん・・・・



踏み切り警報機の音が遠くから近づいて、離れていく。



最初は高く聞こえて、離れるときは低くなる。


「音楽みたい」と、まゆまゆは思う。



「旅する仕事って、いいな」なんとなく。



「運転手さんか・・・裕子さんすごいなぁ」と、思う。



真由美には、遠い道のり。

車掌に登用されて、それから運転士に登用される。


その間に大過なく過ごさなくてはならない。


運転士になるなら、試験もある。



「お兄ちゃんは貨物だったからなー。」

貨物の車掌は、客扱いが無いので

気楽かも、なんて思った。



もっとも、女の貨物車掌って前例が無いのだけど。



貨物の車掌車は、トイレが無い(^^;と言う事情もあって。


「旅客の車掌は、トイレに行っておけ。貨物なら、溜めておけ」


と言う教訓がある。



冬場など、寒いのでマメタンストーブを持って乗る。


ややもすると、マメタンがストーブから転がり出る事があって

消火に使うわけ(^^;



女子には無理だろうと思う(笑)。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る