第293話 おにいさま・・・。

大分ゆき下り「ゆふ3号」は・・・。友里絵たちを乗せて

快調に下っていく。


三重町は、山の中の小さな駅、と言う感じだけれども

なぜか、特急も止まるし国鉄バスも出ている。



「石仏があるんですね」と、ともちゃん。



愛紗「あ、臼杵でしょ?」



ともちゃん・さかまゆちゃん「ハイ」と、同時に言って

顔を見合わせて「ハハハ」と、笑った。



友里絵は「なんか、だーるまさんみたいなのがあるんでしょ?」


菜由「まあ、そんなもんだけど。崖に彫ってあるのね」



由香「彫るの多いね?」



友里絵「ポルノ?」


由香「それはあんたが好きなの」


友里絵は、ハハハ、と笑い「そんなのみないよーだ。」


さかまゆちゃんははずかしそう(*^^*)。


友里絵のケータイに着信「あ、まゆまゆちゃん。お兄ちゃん、やっぱ、結婚なんて

早いって。特急組の予備に回るかも、って」



さかまゆちゃん「すごいですね」


ともちゃん「ベテランでもなかなか・・・」


パティは「まゆまゆは、淋しくなるね」と。ホントに淋しそうな表情。

やさしい子。



友里絵「なんで淋しいの?」



パティ「ハイ。そうなると・・・あんまり、お家に帰って来れなくなるでしょ」


菜由は「今も、あんまり帰ってないって言うし」



友里絵「ああ、お兄様・・・・」と、ひざまづく仕草。



由香「禁断の愛か」



友里絵「なにそれ、虫刺されのくすり?」


菜由「ムヒ」




ハハハ、とみんな笑う。「そっちかい」




友里絵は「ねーぇ。パティがそのメイドさんルックでやってみて」



パティは「こうですか?」とひざまづいて。首を12度傾けて。


「ああ、おにいさま・・・・。」大きな青い瞳うるうる。ブロンドの髪が掛かって。

かわいい。




さかまゆは「パティはさーぁ、女優になったら」


パティ「ムリムリ」



ともちゃん「マリリン・モンローみたいな」


パティ「ハハハ・・・あ、中判田につきますね」



カーブをいくつか過ぎて・・・。森の中に入って。



♪チャイム♪



ーまもなく、中判田ですーー降り口は左側ですーー。




森から抜け出たカーブの途中、小さな駅で。


回りはなんにもない。




友里絵は「なんでここに停まるんだろ、特急が」



由香「行き違いじゃない?」


島になっているホームの反対側に、赤いディーゼルカー、一両。


ツー、と。電子ブザーが鳴って。ドアが閉じて。


がらがらがら・・・・と、走り出した。



菜由は「大分、もうすぐだね」


愛紗は、帰って来たな、と・・・。旅の感慨に耽った。

いろんな事があったっけ・・・。



旅って、いいな・・・・。








お兄ちゃんは、機関区から直接、寮に帰った。

新幹線口から、歩いてすぐそばで


こちら側は静かな住宅地。



歩きながら、少し思う・・・・。



「真由美が・・・・誰かの嫁になる、って日もあるんだろうけど。」



なんとなく、それを想像すると淋しい。「まあ、兄ってそうなんだろうけど」


妹が、可愛くて。

それだけなんだけどなぁ・・・。


誰かのものになってほしくないなぁ。なんて思ったりもする。



もうちょっと、このままで・・・。



「なんたって、真由美の大事なとこはオレが最初に触った」


なーんて事は思わない(笑)。








まゆまゆちゃんは、制服のままで、人吉行きの急行「球磨川4号」が待つ

ホームへ。



ごーぉ・・・と、エンジンが回っている。煙がたなびく急行ディーゼル・カー。



クリーム色のボディ。窓枠が赤で。

前から見ると、鳥の羽みたいなデザインに見える。




「それにしても、あんなきっかけで。」

恵さんにしよう、なんて・・・・。お母さんもいいかげん。


ちょっと、怒っている(^^)。



ムネさわったくらいで。


あたしなんか、お兄ちゃんに大事なとこを触られてたんだから!



なーんて、思わないけど(笑)。




最後尾の車掌室に行くと・・・。スリム。浅黒く日焼け、さっぱりしたレイヤードカット。

すこし赤い髪。


「ああ、裕子さんだ」と、まゆまゆ。




「こんばんはー」と、まゆまゆ。




裕子は「なに?ああ、添乗か、ドウゾ」と、車掌室のドアを開けて

「待てよ、ここだと丸見えだから、立ってなきゃなんないから・・・業務室行けば?」


急行、この時間はワゴンサービスが無いので、がら空きだ。

すりガラスだから、客室から見えないし。椅子もある。



機転の利く、裕子だ。


「ありがとうございます」と、まゆまゆ。


裕子は「なーに、お互い様だよ。まゆまゆもさーもうじき20歳だね。試験受ける?」



まゆまゆちゃんは「まだ、考えてません」


裕子はにこっ、と笑って「そうだねー。そのままお嫁さんに行った方が幸せかもね。ハハハ



と・・・・「鍵は持ってるでしょ?」



まゆまゆ「ハイ」。車掌室キーと共通である。


それは、乗務の時に携行している。







「それじゃあ、ありがとうございます」と・・・・まゆまゆちゃんは。


2号車の業務室へ、と・・・ホームを歩いた。

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