第237話 回75M、2番、進行!

そのうちに、鹿児島本線上りホームが空く。

上り特急「有明」として、この編成が使われる。


番線信号機が青を現示。


運転士はそれを確認し、出発番線に進入する。


2番、場内、進行!

ここまでが回送仕業である。回75M仕業、等と表記される。

現在では、トレインナビに表示されるので間違える事はない。

タブレット端末のような、大きな画面にGPS表示を伴って

信号の位置、到着番線、時刻、等が全て把握可能なので

コンピュータ・ゲームのようである。




列車最後尾の車掌室ーー。


ゆらり、と動き出して「あ、動いた」と、真由美ちゃん。


恵は「あーあ、やっと終わった」


真由美ちゃんは「きょうはA番だったんですね」


恵は「そう」

こんなに早い時間に終わるのは、A勤務と言って

早い時間の出勤ー夕方終わり。


その間で、列車乗務ー休憩ー乗務を繰り返して

乗務時間が6時間あれば良い事になるが・・・・。

そう、上手く乗務時間が合わない。


特急列車で3時間通し、休憩して折り返し3時間。

そういう楽なダイヤは、年齢を重ねてきてからの人の乗務で

若手は、大抵細切れの積み重ねで

待機時間が長い、仕業が多かったりする。


その辺りは、貨物列車の車掌、機関士の方が楽である。


恵は「あの子たち、バスガイドだってね」と、マジメな表情でホームの方面を見ながら。


真由美ちゃんは「はい。なんだか・・・・愛紗さんが大分に引っ越そうかと言うので

下見を兼ねて有給消化・・・みたいな感じらしいです」



恵は「いいわね。バスガイドって暇な時期なのかな」と。

乗務員室窓を開けて、制帽が飛ばないように負圧領域に頭を置いて。


ホーム、注視。


安全、よし!

信号、よし!


左手を、非常ブレーキ紐に置いて。

まず使う事はないが、一応規則である。


非常ブレーキには封印がしてあるので、これを引いてしまうと

報告書を書く事になるし、事故扱いになってしまうから

滅多に引きはしない。


ホームの旅客が、触車、と言って

列車に触れた場合くらいだが・・・・。



まず、ない。



その他、快速運転、急行等で

運転士が停車駅を通過してしまう場合、などだが・・・。

今は、そのトレイン・ナビがあるので

ほぼ起きない。



恵は「愛紗さんって、ドライバーよね」


真由美ちゃんは「はい。」



恵は、ホームを見ながら「なんで、九州に帰ろうとしてるの?」



真由美ちゃんは「なんだか・・・・向こうだと危ないんだそうです。ひとり乗務だし。」


恵は、なんとなく理解「そうね・・・バスはね。終点が山の中とか、あるだろうし。

電車の車掌でも、時折聞くもの。酔客に絡まれ易い、女子車掌」


真由美は「・・・・そうですね」



ホームに近づき、回75M仕業の終わり、停止位置確認が来る。



車両の外に腕を伸ばし・・・「停止位置、よし!」


ぴたりと停止する。



しかし、ドアの開く時間は決まっているので

直ぐには開けない。




特急なので、それほど混乱はないが・・・

普通列車で、都会だと

席に座りたい人が、押し合いになってトラブルになったりもする。



真由美ちゃんは「それで、国鉄に転職しようかな、って。」


恵は「いいわね。女子が増えたら。わたしも楽しいわ」と、にっこり。


「・・・・でも、そんなに気弱だと・・・車掌もやっていけるかなぁ」

と、ちょっと心配。


バス・ドライバーと違い、車室で直接乗客の相手をする事もあるから。



真由美ちゃんは「でも。私でも今のところ・・・。」

と、やや不安げに。



恵は「そうね。まだ真由美ちゃんは特急のCAと車掌補だから。

それはこれからよ。運転士を目指すか、車掌を目指すか。

それとも駅員にでもなるか。

旅行センターなんていいかもね。真由美ちゃんかわいいし」


と、にっこり。


ただ、乗務員の仕事は

なんとなく独特の魅力があるのだった。


使命感、責任感、みたいなものだろうか。



そのうちに、ドア扱い時間が来て。


恵は時計を見て 「ドア、開!」と。


乗務員室扉にある、ドアスイッチを上げた。

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