第193話 湯前駅にて

駅の前には、牛乳屋さんが一軒あるだけで

広場。


バス停はあるみたい。



「なーんにもない」と、菜由。


「静かでいいね」と、愛紗。



「朝夕は、通学で賑わうそうです」と、真由美ちゃん。



友里絵が、牛乳屋さんの前の自販機を見て


「あ!阿蘇牛乳ってあるよ!」大岡山でも、スーパーに、時々ある事があって。

なんとなく、懐かしくなって買っていた愛紗。


ちょっと濃い目で、甘みがある。



小さいパックが、自動販売機で売られているのは

珍しい。


「地元だなぁ」と、由香。


友里絵は「阿蘇って向こうでしょ?」



由香は「あっそ」


友里絵「かっくん」と、ずっこけポーズ。




北の方の、遠い山・・・あれが阿蘇?



「街は、道路の方ですね。行ってみますか?」と、真由美ちゃん。



菜由は「どうしよっか?」


愛紗は、駅の時刻表を見て「その次が2時間後だと・・・一寸長いかな」



友里絵は「そだね、じゃー、さっきので帰ろうか。十分乗ったし。

人吉で、なんか食べて」


由香「また食うのか」


友里絵「だーってぇ。育ち盛りだもん」



由香「誰が育つんだよ」



友里絵「あたしー。」



由香「ぜんぜん成長しとらんなあー。ドラえもん好きだし」




真由美ちゃんは「わたしも好きです。よく見てました。ちいさい頃」



友里絵「ね、かーいいよねー。」





愛紗は、自分の携帯をふと見ると、深町からのメールが入っていて。


内容は・・・。



「お手紙ありがとう。僕は、あなたのお母様にお会いした事はありませんけど・・・

スティービー・ワンダーが好きなミュージシャンは沢山いますから(^^)。

どなたか、ステキな方がいらっしゃるのかもしれませんね。」



と。




愛紗は「そうか。何も、あの人だけって事もないものね」



思い込みって、そんなもんかな。

なんていう風にも思った。



でも、なんとなく・・・「あの人がお父さんなら、それはそれでよかったかな」

なんて風にも思ったけど、違ってて。

安堵したような、そうでもないような。




だーれもいない、湯前駅。



みんなで、駅の前のベンチに座って、牛乳を飲んでいたり。


「なんか、遠足みたい」と、友里絵。


「あの子たち、もう着いたかな」と、由香。



菜由は「愛紗、どうかしたの」



愛紗は「ううん、別に。旅っていいなぁ・・・って。そう思ったの!」

思い込まなければ、結構自由に居られるのかもしれないな。

なんて思う。


涼しい風が、吹きぬける。



真由美ちゃんは「バス路線では、宮崎の側に続いているんです。」



それも、過疎地域の雇用創出のために

鉄道を沢山作った時期があった。


景気が良かった時代で、都会でお金が余るから

それを投資したり。


税金を使って、地方を都市化しようとした時代。



結局、利用者がいない鉄道は無駄になって廃止されたりする。

それは、産業創出が出来なかったから、なのだ。



今は、新幹線で似たような事をしている。




「妻線か」と、菜由。



真由美ちゃんは「はい、そうですね」



友里絵「妻線って、どの辺り?」




由香「宮崎の方でしょ?」



友里絵「それはわかるけどさ」



愛紗「宮崎市より、少し北じゃない?」






「あっちかなー」と、友里絵は東の方を見て、背伸び。



「背伸びしたってめーないよ」と、由香も背伸び。



山を越えて、向こう側。



「結構遠いね」と、友里絵。




菜由「そりゃそうだ」




友里絵は、阿蘇牛乳のパックを平らにして。駅の水道で洗って。



由香は「なにしてんの?」



友里絵「なんか、思い出の品」




由香「ああ、そっか。ここで、みんなで一緒に居たって、思い出になるものね」



友里絵「忘れちゃうと、ただのゴミになっちゃう」



由香「そうそう。おかーさんが捨てちゃったりして。」



菜由「おかーさんにはゴミにしかみえないもんね」



真由美ちゃん「アクセサリーとかもそうですね」


愛紗「あるねー。そういうの。子供の頃買ったおもちゃとか。」





のーんびり、駅前で過ごして。




運転士さんが戻ってきたのか、ディーゼル・カーのエンジンを吹かす音が聞こえた。

なぜか、エンジンを止めないのが


愛紗には、ちょっと不思議に思えたけど、鉄道のディーゼル・カーは

そういえば折り返しでもエンジンを掛けたままだ。


バスは、こまめにエンジンを止める人が多かった。

燃料代の節約もある。

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