第194話 7237D,湯前、定発!

「下りははやいですよーぉ。」と、真由美ちゃんはにこにこ。


「転がっていくもんね」と、友里絵。


「いつも、おやすみの日は、なにしてるの?」と、菜由。



真由美ちゃんは「たいてい・・・お洗濯したり、お掃除したり。」



愛紗は「ひとり暮し?」


真由美ちゃんは、かぶりを振って「いえ、子供部屋のまま」



菜由は「お父さん、お母さんも安心ね」



真由美ちゃんは「はい、父などはかえって心配してるくらいで」



友里絵は「ボーイフレンドも来ないから?」


真由美ちゃんは「はい」と、ちょっと恥ずかしそうに肩を竦めて。

細い肩は、少女そのまま。

実際、まだハイティーンなのだ。


「お休みもまちまちですし。お友達とも会えないですね。」



愛紗は「バスもそうね」



友里絵は「それでーぇ。手近で済ませてしまうパターン。」



ははは、と、みんな笑う。




「さ、そろそろ乗るか」と、菜由。



はい、と、真由美ちゃん。


いこっかな、と、由香。



駅の改札には、だーれもいない。



木造の古い駅は、出来た頃と変わらないような感じで

この辺りは、戦争も関係無かったのだろう。




「それで、今日は突然、お話が出来る事になって。うれしかったです。」と、真由美ちゃん。



由香は頷いて「そうだよね。乗務もひとりだもんね。しっかりしてんなー。」



真由美ちゃんは「いえいえ・・・ローカル線ですから、それほど忙しくもないですし。

乗り継ぎ時間が無いから車内発券、などと言うケースは無いです。

それなので、新人のわたしは、まず、この辺りから慣れて・・・と言う事らしいです。」



友里絵は「そうだよねー。バスガイドも、最初は近所で。箱根とか伊豆とか。

ディズニーランドとか」



真由美ちゃんはにこにこ「ディズニーランド、楽しそう。行ってみたいなー。」


由香は「まあ、乗務員も行ってもいいんだけど、お客さんが帰ってくるまでなら。」


友里絵「退職するまでに、お客さんで行こうかなー、なんて思うけど。

バス代タダで」



みんな、ははは、と笑う。



「国鉄はタダでしょ?」と、友里絵。



真由美ちゃんは「はい。職員証で乗れます。」




駅の改札は、ステンレスのパイプで

なんとなく懐かしいタイプ。

そこから、構内踏み切りを渡る・・・と言っても

列車が来るワケもないので、のどか。




踏み切り板は、本当に木材のままで

黒く煤けていて、蒸気機関車が走っていた頃の

車軸油が沁みこんでいるかのようだ。



そこから、島式のホーム先端に渡り

スロープになっているホームへと登る。



一応、バリア・フリー(^^;であるが

車椅子で登るのはかなり大変っぽい。




愛紗たち5人のほか、乗客はいない。

まあ、火曜日の午後。観光シーズンでもなく

イベント列車が走る日でもないので、旅をするには最適な日である。



「今日は、人吉でお泊まりなのですね」と、真由美ちゃん。



愛紗は「はい、KKRね」と。



真由美ちゃんは「食堂でおばあちゃんが働いてます!」


友里絵は「へー、国鉄一族!」


真由美ちゃんは「へへ」と、ちょっとはにかみ笑い。




コンクリートのままのホームは、あちこちひび割れてはいるけれど

まだまだ使えそう。



「じゃ、高校を卒業する時、国鉄への就職枠で入ったの。」と、菜由。



「はい」と、真由美ちゃんは、真面目な顔。



友里絵は「いいなー。国鉄枠って、うちの高校は少なかったし。」



由香「それに中退だし」


友里絵「うるさい」(^^)



ゆらゆら、空気バネで揺れる車両は

ゆりかごのよう。




真由美ちゃんは「まあ、家系が・・・・国鉄だと。枠外でも入れますから。

わたしはそのタイプかも。」


愛紗も、その話は聞いた事がある。

自分も、親元に居れば・・・入れたかもしれないのだけれども

そういう進路は選ばせて貰えないと思っていた。



深町も、高卒時に父が急病にならなければ

国鉄への就職も可能だった、そんな話も聞いた。

運もあるのだ。




友里絵は「いいなー。あたしもそういう親ならなー」

由香「こればっかりは選べまい」


ははは、と、みんな笑う。


真由美ちゃんは「その代わり、自由がありますね。都会だし」


愛紗も、その言葉にはなんとなく頷ける。



菜由は「女の子だから。お仕事もいいけど。お洒落して遊んで、楽しく暮して。

ステキな恋をして・・・そういうのもいいね」


愛紗は「なんか、似合わないかも」



菜由「やっぱ?」



真由美ちゃんは「いえ、そんなことはないです」と、にこにこ。



友里絵は「そーだなぁ。あたしも・・・別に仕事なんてなんでもいいって。」


由香「そーだよね。専門職にならないでガイドになっちゃったし」



真由美ちゃんは「わたしは、なんとなく今の仕事に就いてしまったので・・・

でも、役場の事務員とかでも良かったのかな、なんて思う事もありますね。

台風の時とか」




友里絵は「あー台風ねー。こっちは、すごいって聞いたけど。」



真由美ちゃんは、すこし真面目に「人吉は盆地ですから、山に降った雨が集まって来るの


で、この球磨川も氾濫します。肥薩線もよく、通れなくなりますね。」




友里絵は「そーれは考えてなかった」



由香「あんたが考えてるとは思ってなかった」


と、みんな、ははは、と笑う(^^)。



菜由も、愛紗も経験者なので・・・・「そう。九州はねー。それが普通って感じ。

台風とかで騒がないと言うか・・・。」



真由美ちゃん「はい。そういう時は、『役場に勤めなくてよかった』と

正直、思います。」




「真由美ちゃんは正直ね」と、愛紗は微笑む。


真由美ちゃんはにっこり「ちょっと恥ずかしいですけど・・・両親には言えませんね。こういうお


話。」










ーーー人吉ゆき、発車いたしますーーーー。と、

来たときの運転手さんが、静かに言って。


ドアががらり、と閉じた。



汽笛が、ふあん、と鳴る。


やさしい音。



下りなので、転がす程度に1ノッチ。

ブレーキは解放。


エンジンは、がらがらがら・・・と言ったまま。


少し走ると、すぐに固定段。2速、3速。


エンジン・ブレーキでもないが、クラッチ解放よりは抵抗がある状態で

坂を安全に下っていく。



時折、排気ブレーキ。



このあたりは、バスにちょっと似ている。










友里絵は「そーだよね。こういう話ってさ、あんまり差し障りのある人には言えないね」


由香「キミは無神経だけどな」



みんな、笑う。



真由美ちゃんは「なので!きょうは女子会で楽しいですー。

だれかとお話したくって。」






友里絵「言えない事も多いしねー。ホント。便所の悩みとか」



由香「せめてトイレって言え!」


友里絵「済まん」と、笑う、わはは。



真由美ちゃんは「はい。乗務中は無いですけれど、どうしても困った時は

仕方ない、と言う事になっています。肥薩線には無いでけれど

デザイナーズ・トレインで。トイレの出入り口がよく見える車両は

恥ずかしいそうです。あの車両に当たると、乗務終了まで・・・。」




愛紗は「バスもそうですねー。特にドライバーは。止められないし。

路線ならなんとかなっても、観光とか高速は大変だと聞きます」



友里絵は「男ならいいけどねぇ。そこらの瓶にしちゃうとか」



みんな、笑う。

だーれもいないので。


・・・でも、運転士さんには聞こえるゾ(笑)。




友里絵は「瓶があふれたら大事件」


由香「アホ」と、張り扇!はないので平手で。

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