第149話 ティラミス

お部屋に戻って。


由香が「ゆりえー、フランスパンちょうだい」


友里絵が「あいよ」と、スーパーの袋から出して。


由香は、それを少し貰って「端っこ好きだよね、友里絵」


「いいよ、端から取って」と、友里絵。



由香は、その端っこをすこしかじって「んー、おいしい。コーヒーないかな」



友里絵は「粉ある」と、バッグの中からCOOPレギュラーコーヒー

モカブレンド、と書いた袋を出して。



由香は「これ、どうやって飲む?フィルターないの」



友里絵は「お湯入れて、上澄みだけ」



由香は「粉飲んじゃうよ」



友里絵は「大丈夫だよ、そのまま出るから」


由香は「きたねーなぁ」と、笑う。「食ってんだから今」


友里絵は「ビスケットとクリームチーズ食えば、ティラミス」


由香「オマエが食え!」と、テーブルにあったスーパーの袋を投げた。(^^)。


友里絵は「なんだよー、パン食ったくせに、金払え」と(^^)。






菜由は「まー、いいからさ。あたしはお風呂行ってくるね」


愛紗は「うん、あたしも」



由香「あれ、ドン引き?」


菜由は「違う違う。お腹空いてないし。お風呂のんびりはいろうかな、と思って。」


友里絵「あーなるほど。いつも4人一緒でなくてもいいね。

自由コードーってあるもんね。ツアーでも。」



由香「ほんじゃ、いってきまーす」



友里絵「いってらっしゃいだよん」



由香「あ、そっか。だよーん」



友里絵「だよーん」と、だよーんのおじさんの顔真似(^^)。





菜由は、愛紗と一緒に階段から降りて。


「鍵、大丈夫かな」なんて心配性(^^)。



菜由は「大丈夫だって、あの子たちだってガイドだもん。

同い年でしょ?」



愛紗は「そっか。」




なーんとなく、愛紗自身が・・・失敗を気にするタイプだから。

誰かに任せるのも怖かったり。


バスのドライブでも、そうだった。対向車が近くに来ると怖いとか。



そんな時、指導運転士の斉藤はこう言った。


「大丈夫。センターラインを右ミラーが越えてなければ、対向車とは

当たらない。向こうがセンターラインを超えなければね。」



ついつい、左に寄りすぎてしまう愛紗だった。

特に、大型(9m~)は、車幅も大きいから

自分の右側がどのくらいあるか、掴んでいないと

対向車がバスだったり、トラックだったりすると

当たりそう、そんな気がした。








月曜の午後とあって、まだお風呂は誰もいない。


陽射しが高く、明るいお風呂場。


緑のお湯が、ちょっと南国ムード。



「いいね、静かで」と、愛紗。


「うん」と、菜由。



浴衣は、新しいのに変えられていたので・・・・ノリの効いた。

それで愛紗は思い出す「あのお部屋」


今朝、急いで出てきたので・・・・パンツが干してあったり(笑)。



菜由が「どうしたの?」



それを話すと「ははは!まあ、お掃除のおばさんって女でしょ?」



愛紗は「あ、そうか・・・でも男だったら恥ずかしいなぁ」




菜由は「却ってモテちゃうかもね」



愛紗は「まさか」と、言いながら。


お湯を掛けて、温泉へ。



菜由も。



「あーいいお湯」


「ほんとね」



大きな窓には、錦江湾。


まだ日が高く、5時近いとは思えない。3時くらいの感じ。



のどかーに、白い貨物船が、どこか、南の方へ・・・・ゆっくりゆっくり。



かもめが舞っている。



歌を口ずさみたくなる。


♪かもーめー♪・・・・とか。(^^)。



「愛紗、声もきれいね」と、菜由。



「歌手になれば?」とも。




愛紗は「まーさかー、それはいくらなんでも」



菜由は「でもさ、愛紗の名前って・・・ミュージシャンのおじさんが付けたんでしょ?

確か」



その辺りは、愛紗も良く知らない「そうらしいね。」



「たしか、スティーヴィー・ワンダーが、赤ちゃんに向けて作った歌の題名だと・・・。」




菜由は「そうそう、懐かしいね。『可愛い愛紗』」



愛紗は思い出して、恥ずかしくなる「ヤダなぁ」



菜由は「ごめん。でも、可愛かったなー、あの頃」



大岡山駅でバスの中で昼寝をしていた深町を起こして

「市民病院行きは何時ですか?」と

尋ねた18才の愛紗。


目の前に時刻表があるのに。



「でも、深町さんはにっこりして『このバスだよ』と。

お昼寝を中断して、バス停に付けてくれたんだ」と、愛紗。



菜由は「そうそう、その後に、深町さんが「かわいいアイシャ」の話をしたんだよね」



愛紗は「もういいって、その話」



菜由は「ごめんごめん」



走りながら、自分をかわいいと言われたと思った愛紗は

真っ赤になって、俯いて。

何もいえなくなって。


市民病院に着いて、すぐに


バスを降りて駆け出したんだった。



そのまま乗っていけば、車庫まで乗っていけたのに。




・・・今では、懐かしい思い出。




「菜由だってさ、お姫様ドレス着て、事務所に来たんだよね」と、愛紗。



菜由は「あー、あの事。なんか、着てみたかったんだ。どこにも行く時間ないし。」



愛紗「それだけ?」



菜由は「いやー、あのー・・・・」と。



菜由自身も、ちょっと深町をターゲット(笑)にしていた時もあって。


菜由の故郷、の話になって。


「とってもいいところだよね」と言う深町に



「新婚旅行にいいですね」と、言う菜由自身・・・なんでそんなことを言ったのか。

思い出すと恥ずかしくなる。




愛紗は「わたしたち・・・・故郷が懐かしかったのかな。

寝る時間もあまり無くて。昼間も夢を見てたのかも・・・。」



菜由は「そうかもしれないね。」




思い返しても、ちょっとヘンな女の子だと自分たちを思う。





「でもさ、新人のガイドたちにも・・・いっぱい居たよね。そういう子」と、菜由。



「そうそう。『おなかすいたー』とか言う子も。


おにぎりあるよ、って言われると


『あったかいのがいい』って甘える声出す子とか。」


と、愛紗。



菜由は「そのたんびに、深町さんはどっかに連れて行ってあげたり。

他のドライバーでもそれで、キレちゃう人も居て。」


愛紗「いたねー。そういう人。『なんであいつが』って。」



別に深町だけが、新人のガイドに人気だった訳でもないのだけれども。

ただ、変わってて目新しいと言うだけで。



「野田さんとか細川さんとか、にこにこしてて」と、愛紗。



菜由は「ドライバーでもさ、滝さんなんてそれで『兄貴!』って呼んでたね。

深町さんの事」


愛紗は「それだけでもないんだろうけど」


腰が据わっていて、物怖じしない。

所長が相手でも、平気。


そういう辺りは確かに、変わった人だった。



それが、若いドライバーには頼もしいと思えたのかもしれない。



ちょっと、任侠の世界に似ているところもある。

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