第135話 コント赤信号

「乗れるかなぁ」と、菜由は思う。

定員オーバーだと・・・なんて

かつての職業柄、そんな風に思ったり。


でも、おじさま方がみんな、集まってきても

10人ちょっと。


「なら、大丈夫か」なーんて。心配しながら。


マイクロバスの、真ん中あたりの席に、4人。



さっきの、おじさんが「お嬢さん方は、どちらから?」



友里絵が「はい。相模です。箱根のふもと」



細面のおじさんが「それは遠くから・・・ご旅行ですか?」



由香が「はい。久々に休みが取れて。4人一緒も最後かな、なんて。」


マイクロバスの運転手も、国鉄職員だ。

前の、運転手用ドアから乗り込む。


その辺りは、乗用車感覚で

一番前の席は、コンソールがあったりして。


トヨタ・コースター。AT車なので

殆ど乗用感覚であるけれど、普通免許では乗れない。





大岡山にもあったな・・・なんて、愛紗は思う。




さっきの、駅長さんタイプのおじさんが「お休みか、いいねぇ。仲良しなんだね。」



友里絵が「はい。あたしたち、みんなバスガイド。・・・と言っても、この子は

もう引退して奥さん。

となりの上品な子は、ドライバー。」


と言うと、駅長さんは「ほー。ドライバー。これは勇ましい。大型ですね。」


愛紗は「お恥ずかしいですけれど。」と、会釈。



細面さんは「いやいや、立派なもんだよ。それは、国鉄だったらCMに出てもらうよ。」



由香が「あ、CMって言うか、ポスターにはなりまして。」


それは、愛紗ではないけれども

女子ドライバーの募集広告に、誰だったか、当時居た人で

比較的若くて美人(笑)を写したものが使われた。



もし、愛紗だったらCMにもなるかもしれないな、などと菜由は思う。




トヨタ・コースターはゆっくり発進する。


エンジンは普通のディーゼル4気筒、2t車トラックと同じようなものなので

至って軽快。


ATなので、がらがらがらーーーーと、ゆっくり走るところは


鉄道のディーゼルカーみたいだ。





ギアが自動で変わるあたりも、ディーゼルカーのようだ。







マイクロ・バスは、海岸沿いを長閑に走り

大きな通りを右折。


もと来た道を通って、駅前へ。


駅前のロータリーに入って、バスの降車場へ。


「それじゃ、皆さん、よい旅を。」と、駅長さんふうのおじさんと

細面さんは、別れ際に名刺を菜由に差し出した。


「旅先で、何か困ったら・・・。」と。



駅長さんふうの名刺は、鉄道管理局長、とあった。

細面さんは、運転区長。


菜由はびっくり。「え!」と、挨拶する間もなく

バスを降りてから「大変失礼を致しまして」と、深くお辞儀をした。


局長は、いやいや、と、にこにこ。


区長さんもにこにこ。「こっちに引っ越してきたらー。国鉄にいらっしゃい。」



なーんて、朗らかに。



マイクロ・バスの扉が、ツー、と。

可愛らしい機械式ブザーの音を立てて、閉じられた。



友里絵と、由香、愛紗はその名刺を見て「えー。じゃ、みんな・・・偉い人?」



びっくり。




友里絵「屁なんていっちゃったよ」


由香「地だから仕方ない」



友里絵「痔だってよ。きたねーなあ」


由香「その痔じゃないって!」



友里絵は「分かってるって!」


と、にこにこ。



由香は「おのれーぇ。このぉ、中卒女・・じゃ、ないのか。」と笑いながら。


指宿駅の入り口で。


マイクロ・バスの後ろ姿を見送った。









「さて、列車は・・・と。今だと、10時のに乗れるね」と、愛紗。




周遊券を、リュックから取り出して・・・と。


「あれ?」



周遊券がない!





菜由が「どうしたの?」




愛紗は「周遊券がない」



友里絵は「えー。・・・バッグ、部屋に置いて来たから。その中じゃない?」


携帯用のリュックに、要る物だけ持ってきたから。


今朝、急に出発した時。点検をしないで出てきたからだった。



「いつも、失敗しないようにしてたのにな・・・・。」と。




「どうしよう?」と、由香。




友里絵は「よし!ここは、あたしに任せなさーい。」



駅員さんは、幸い、昨日の駅員さん。



友里絵は「あのーぉ。次の山川行きに乗りたいんですけどーぉ。

周遊券をKKR指宿に置いてきちゃったんです・・・西大山で降りるんだけど。」



駅員は、にこにこ。「あ、昨日の面白い子ね。うん。券持ってるのは知ってるから。

それじゃ、これで」


と。「改札通過証 指宿駅」と、白い紙にスタンプされたものを渡して。



「これをね、下車するときに運転士に渡して。あそこは無人駅だから。

その間にKKR指宿に連絡しとく。向こうのフロントに周遊券、見せてくれれば

大丈夫だから。」と。駅員さん。



「さーすがぁ、ありがと、駅員さん。お土産買ってくるねー。」と、友里絵。



駅員はにこにこ「何にも無いよ、あそこ。無事に帰っておいで」




友里絵は手招き「みんな、おいでー。」



由香は「度胸あんなぁ、あいつ・・・・。」(^^)。



愛紗も「真似できないね。」

ちょっと、深町さんにも似てるなぁ、その感じ・・・と、思ったり。



菜由もびっくり「普通は、切符買うんだけどね。後で払い戻せるけど。」



コントやったのが、良かったのかな(^^)。



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