第118話 9767A、品川、定時!

同じ頃・・・・深町は東京駅、丸の内口改札から入り

北通路を、新幹線ホームに向かって歩いていた。

慣れると5分くらいだが、中央や、南通路を通ると

観光客が居るので、時間が掛かる。


そこで、旅慣れた人はこの北通路を使う。

八重洲口まで行ってしまえば、ドトール珈琲もあるし

日本食堂にも行ける。


「あの、オムライスは美味しかったなぁ。シチューも。」と

かつて、東京大学の面接試験の時、帰りに買って

母へのお土産に、とした洋食のことを思い出した。


思い出したらお腹が空いてきたが、少し控えて。


新幹線ホームへの改札へ。


北通路からの改札はないので、中央通路への連絡線を歩く。

狭い通路だけれども、東京ばななのお店があったりする。


乗換え連絡改札は、中央通路まで行かなくてもあるので

そこが、メリット。


帰りの新幹線は、18:35分だけれども

入線するのは18時頃。


品川基地で清掃したままの列車が来るので、ホームで清掃待ちをしなくて済むのが

気に入っている。


こだま767号、名古屋行き。

次が三島行きなので、そちらの方が空いてはいるが

時間が、ちょっと惜しい。


これで帰っても、帰宅できるのは19時半くらいだから。


「もう、慣れたけどな」

それでも、路線バスの乗務よりは楽だ。



前日の乗務終了20時

本日の乗務開始5時


なんてのは、普通だった。


乗務終了とは言っても、その後に料金箱を格納し

乗務日報を出すのに30分は掛かる。


自分のバスでなければ、清掃もしなくてはならない。



朝は朝で、開始前30分には来ていないと点呼が受けられない。

その前に、点検をしなくてはならない。

自分のバスならば、前日に点検を済ます事も出来るが。



まだ、家が近い深町は良かった。

その為に、会社を選んだのもあるが。





「眠れないのは本当に辛かったなぁ」

夜8時くらいになると、眠くなって目が霞んできたりすることもあった。

運転手の中には、眠気覚ましに珈琲を飲んで

胃が悪くなったり。

糖尿病になって、網膜症になったり。



古参の運転手に多かった。彼らの多くは、定年後も嘱託で残り

ダイアの穴埋め乗務をしていた。

元指令で「組長」と呼ばれていた

凄みのある人でさえ、そうしていた。

それは、一重に「使命感」なのだろう。



自分たちのダイア、だから。




いつだったか、深町が大学線で待機していた時・・・・


和田が乗務する筈の下り急行が、来なかった。


「どうしたんだろう」と、深町は気になって無線で尋ねてみた。



「本社、こちら658」



「658、どうぞ」




「大学線、下り急行は13:00ですね。まだ車両が見当たりません。」


時間は12:57である。



せいぜい3分前には来ていないと、まずい。



バスロータリーにはしかし、学生の姿は無かった。


午前で帰る人がいないのだろう。



それで深町は「誰も乗らないから、休みですか?」と言うと


「組長」は


「ダメだー。それじゃ欠便になるぞ。途中で待ってる人もいるだろう!」

と、結構な剣幕で怒鳴られてしまった。




そのくらい大切なものなのである。ダイアは。


「公共の」


それを意識する一瞬、だった。











回想しながら、中央エスカレータを登る。

ちょうど6号車で、18時前に来れば

まあ、一番で座れる。


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