第9話 オシ24
7号車、食堂車は
それなので、1970年代へ
時間旅行したみたいな、楽しさを味わえる。
豪華列車のダイニングカー、みたいな
贅沢さと違って
物が無かった時代の、憧れは
こんな感じだったのかな、と
思わせる感じだ。
面白いのは、テーブルクロスが
ビニールで、お皿が滑らないように
なっている事。
実利優先なのだ。
見た目を気にして、綺麗な布を使えば
クロス引きの奇術のように、急停車したら
目茶苦茶になってしまうので
それは、あくまでも国鉄。
流石な所、なんて
バスの運転手から解放された愛紗は
でも、急停車も出来ない、衝突も出来ないなんて
路線バスは、大岡山みたいな
江戸時代の街道なんかを走ってたら危ないと
今、振り返ると思う。
「もう、いいか。忘れないと」と
笑顔になって、レモンスカッシュを楽しむ。
スパークリングの爽やかな刺激。
列車は、横浜を発車して
緑豊かな切り通しを走る。
以前は畑ばかりで、[ポーソー米油]なんて
タンクが建っていた。
東北へ行くと見かける[テレビはナショナル]なんて看板を思い出し
懐かしく思う人もいるだろう。
少しは乗客が増えたのかもしれないが。
この列車、16時30分では
今は早すぎるらしく、東京駅から乗る人は
そんなに居ない。
旅行ファンか、出張の人くらい。
新幹線の最終でも、博多には
この列車より早く着いてしまうから
そちらでビジネスホテルに泊まった方が
楽だったりする。
小倉到着は朝9時、だ。
格安飛行機が増えて、九州くらいなら
飛行機を選ぶ企業も増えた。
博多あたりなら、A寝台と変わらないのだ。
ただ、空港で待たされるし、気候に左右されるから
台風シーズンは難しい。
♪
軽快なオルゴールで、車内アナウンスが入る。
車掌さんの声も、通勤電車の
鼻に掛かった声でなく。
あれは、わざと歪ませて
声を通り易くする技術で(本当だ)。
エレキギターのそれと同じである。
特急なので、あくまでも落ち着いて
格調高い。
ーこの列車は、寝台特急
富士号、西鹿児島ゆきです。
東海道線、山陽線、日豊線を経由いたします。
博多、鳥栖、熊本方面には参りません。
お乗り間違いにご注意下さい。
ただいま、横浜を定時に発車致しました。
これから、停まります駅と、停車時刻、
ご旅行についてご案内させていただきます。
次は、熱海に停まります、18時20分の
予定ですー
と、アナウンスは慣れた感じで続く。
ご旅行、なんて言葉に
とても感動する愛紗だった。
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