タビスルムスメ

深町珠

第1話 寝台特急「富士」西鹿児島ゆき

愛紗は、研修を終えて

とりあえず、1週間の休暇。

後、転属先を探すつもりで





東京駅14番ホーム。




駅のアナウンスが入る。



土曜だけど、夕方なので

そんなに忙しくもない。



隣の新幹線ホームの方が、むしろ忙しそう。




駅のアナウンスが入る。




「まもなくー、14番線、寝台特急富士号、西鹿児島行きが参りますー。白線よりお下がり下さいー。」




16時。



30分発なのに、長く止まるのは

長距離列車だから。



愛紗は、しかし

大分のおばさんのところまでだから


12時少し前には着く。



列車はその先、午後4時まで走るのだが。




こんなのどかな列車が好きなのは、なぜか解らないけど



上京の時も、この列車で来た。




後ろ側に、入れ替え機関車の四角いEF65が連結されて。


先頭には、牽引する機関車が連結される。




先程より、有楽町側の線路に待機している。


EF66ー54と書かれた銀色のプレートが

先頭に付いている。



クリーム色と青の、ブルー・トレインに似合いの機関車。




「えーと、10号車はと」 愛紗は、さっきまで

東京駅の1階にある、日本食堂でご飯を食べていた。


列車食堂をしている会社のメニュー。



広い食堂は、のんびりしていて

食券を置いておくと、2回持ってきたりするところ。



そこで、ハッシュドビーフとか


軽いものを食べて。



「明日の朝は、瀬戸内で食堂車かなー」



朝の爽やかな風景を眺めて、揺られて頂く朝食なんて

とってもゴージャス。




「やっぱり、旅はこうでなくちゃ。」



今まで沈んでいた気持ちなんて、どうでも良くなったし


3年の間、縛っていた気持ちが

解けた。


そんな感じ。




無理しなくていいんだ。



そう思うと、さっぱりした。




それが、本当の自分。



そんな気がした。





結構なスピードで、列車が入ってくる。


少し伸びた髪は、今はそのまままとめずに流して。



少し大人っぽく見えるかな、なんて


車窓に写して楽しんだ。







10号車は、後ろの方。


星のマークがついた、個室寝台である。

割と人気があるが、そこそこ取れるのは

この車両を知っている人が少ないのもある。




紺色の車両。


窓の下にステンレスのストライプ。


大きな、星のマーク。


SOLO COMPARTMENT CAR


英語表記が、デザインを思わせる。





ドアが、折り戸で

空気が抜けて、ばたり、と開く。



階段はなぜか、手前がホームより低くなっていた。


昔は、ホームが低かったのだろう。






冷房が入っていて、驚くけど

窓が開かないから、そのくらいで普通。


観光バスを思い出すけど


もう、遠い思い出に感じられたのが

不思議。



この列車に、お風呂がないので



駅の北側にある、銭湯へ行ってきた。



その辺り、旅慣れたバスガイドの

経験。



もう、戻る気持ちも失せた。



そう思うと、いい思い出になった。





そんな気持ちでデッキを上り、硝子の扉に

星のマーク。



ウキウキと、ドアの下を踏むと

空気の動作で、ガラス扉が開く。




左手、海辺の方は大きな窓、右手は個室で

壁とドア。


明かり取りの丸い窓が、船のようで

クリーム色の壁は、ビニールっぽい。



10号室を探し、扉を開くと


紙片がはらり。



人が入ったと言う知らせの紙で

車掌さんがそれを見る、と言う

昔ながらの方法。



以前は、冷水機の折りたたみ紙コップを使っていたが

もったいないので(笑)


今はこんなの。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る