第28話 【異変の原因】
一夜明け――
ミズイガルム村から戻ったアンジュたちと再び合流したのだが……合流早々に俺は責め立てられていた。
「置いていくなんてひどいですにゃ」
「そうですにゃ!!」
サシャは冷静に、ミシャは元気よく俺を責め立てる。
どうやらミズイガルム村でサシャとミシャに合流出来たらしい。
そして、俺が何も言わずに早馬で先行したことを怒っているようだ。
「二人とも許してやりなさい。ヒュージ殿の判断は適切だった。仮に同じ状況であれば私でも同じ判断を下したと思う」
エミリアはそんな二人を優しい口調でたしなめた。
「すまなかったな。エミリアの言うとおり、ああするのが最善だと思ってな」
俺もエミリアの話に乗りながら謝罪。
すると二人はしおらしい表情で、こう言った。
「わ、わかりましたにゃ」
どうやら姉さまと慕うエミリアの言葉が効いたようだ。
そしてエミリアはすかさず、
「二人の発言は、ヒュージ殿の身を案じてのものだろう。あまり気を悪くしないで欲しい」
二人のフォローを入れる。
そしてエミリアは真剣な眼差しで俺とアンジュをみつめながら、こう続けた。
「――ヒュージ殿、アンジュ殿。今までの二人の助力に、改めて感謝を申し上げる。本来であれば、褒賞を与えたいところではあるのだが……状況が状況ゆえに今すぐには難しい。私たちが生きて王都に戻れたならば、その時には必ず報いる。すまないが、それまで待っていてはもらえないか?」
「……だめです」
アンジュはボソッとそう呟いた。
「――え?」
予想外の返答であったのか、はたまた聴き取りにくかったのか。エミリアは素っ頓狂な声を上げる。
そしてアンジュはエミリアを真っ直ぐと見つめ返し、気持ちの込もった口調でこう話す。
「だめです! エミリアさんはいますごく困っています。私にはわかります。それにナタリー姫もきっとすごく困っています。確かに、私なんかの力では役に立てないかもしれません。ですが、このままさようならなんて、私には出来そうにありません! ……目の前で困っている人がいれば助ける、それも冒険者の仕事です!」
たまらずたじろぐエミリア。
「い、いや……だが……ヒュージ殿たちをこれ以上巻き込むわけには……」
「ここまで巻き込まれて、素直に引くわけにもいかないだろう。それにこうなったアンジュはテコでも動かないだろう」
それに相手はリカルド国王……つまり俺たちは反逆者だ。
今更引いたところで、何も知りません……ではすまないだろうな。
アンジュは真剣な眼差しでエミリアを見つめ続ける。
そしてエミリアはその眼差しに屈した。
「……わかった。二人とも、すまないな」
こうして俺たちは一連托生の関係となった。
☆
監視はエミリアたちに任せ、俺とアンジュは、ラザリーと合流するまでの三週間で可能な限りの情報を集めることになった。
そして俺たちはミズイガルム村に戻り、冒険者ギルドを訪れた。
「あ! ヒュージさん、探したにゃー」
受付に腰をかけると、すかさずミーアが声を掛けてきた。
「どうした?」
「『グラウスの火釜』からオークが消えた件の原因がわかったにゃ」
「ほう?」
「どうやらAランク
「それは確かか?」
ミノタウロスという強力な
だが、果たしてそれだけで全てのオークが消えるだろうか?
原因の一端であることに間違いはないのだろうが……。
「確かにゃ。王都の冒険者ギルドに報告した時に聞いた話だにゃ。もうすぐ冒険者に向けての注意喚起が出されると思うにゃ。情報提供してくれたヒュージさんには先んじて報告しておきたかったのにゃ」
「――そうか。わざわざすまないな」
「それで今日はどうしたにゃ?」
「クエストの報告をしたい」
俺は風吹草を受付卓に置く。
最初に採取したものは、
これは俺が王都に出向いていた一週間のうちにアンジュに採取しておいてもらったものだ。
そしてミーアは風吹草を手に取ると、まじまじと眺めて、
「……確かに風吹草だにゃ。受領するにゃ」
そしてこうも続ける。
「それから、監視砦のミスタ兵長からクエストの依頼書が届いているにゃ。これも既に達成しているから報酬を受け取れるにゃ。ギルドカードを出して欲しいにゃ」
「ミスタ兵長……ああ、あの老騎士か」
俺はそう言いながらギルドカードを取り出し、ミーアに手渡す。
ミーアはギルドカードを受け取ると、机上の装置に差し込んだ。
「クエスト達成状況を入力したからギルドカードをお返しするにゃ。それと――クエスト二つ分の報酬、金貨一〇枚にゃ」
ミーアは机に備え付けられた金庫から金貨を取り出し、受付卓に置いた。
その枚数にアンジュは驚きの声をあげる。
「え! 一〇枚も!?」
風吹草のクエスト報酬が金貨二枚。
対して、ミスタ兵長の依頼は金貨八枚。
当初の五倍以上の報酬が得られたのだ、アンジュが驚くのも無理もない。
「ミスタ兵長の依頼は緊急依頼だったから、かなり上乗せしてもらえているみたいにゃ」
するとアンジュは瞳を輝かせ、
「冒険者ってすごい!」
アンジュの『冒すご』が冒険者ギルド内に響き渡る。
そして集まる視線。
大半は奇異の視線のようだが……。
「……アンジュ。もう少し声のトーンを落としてもらえないか?」
俺はたしなめるようにアンジュに語りかける。
ナタリー姫の件もある。
あまり目立つのは得策ではない。
そして、アンジュも俺の意図を理解したのか、
「あっ……す、すみません! つい……」
肩を落としながら謝罪した。
「――これから気をつけてくれればいい。では行くぞ」
そして俺たちは報酬を受け取り、冒険者ギルドを後にした。
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