第15話 【牛頭の化け物】
俺たちはすぐに剣戟音の発生源を発見した。
そこには地面に倒れ込んだ九名の騎士と、剣を振るう金髪の女騎士。
そしてそれと対面する異業の化け物の姿があった。
その化け物は牛頭の巨躯、ゆうに人の倍はあるだろう。
人の背丈もあろうほどの大型の斧を片手で軽々と振り回している。
そして振り回し、加速度をつけた斧を女騎士へと振り下ろす。
ガキンッ!!
金属同士が激しくぶつかり合う音が空気を震わせた。
女騎士は両手で構えた大剣で、牛頭の化け物の斧をなんとか受け流していた。
あれは……ミノタウロス?
Aランクがなぜこんなところに?
いや、いまはそんなことを考えている場合じゃないか――。
「せ、先生!」
アンジュは険しい顔で俺を見つめ、そう叫ぶ。
――ああ、わかっている。助けようと言いたいんだな。
「アンジュは後方支援を頼む。絶対に前にでるな!」
アンジュではミノタウロスの攻撃には一撃たりとも耐えられない。
「は、はい!! ――それでは強化魔法を」
アンジュは俺に杖を向ける。
「猛れ猛れ、業火を忍ばす山の如く――【
アンジュの詠唱に呼応し、杖の魔石が光り杖の先端に魔法陣が出現する。
そして魔法陣から光が発せられ、俺の身体にまとわりつく。
瞬間、身体中に力がみなぎるのを感じた。
――見事なものだ。
アンジュの唱えたのは初級魔法ではあるが、効果は初級のソレを大きく上回っているのが、自身にみなぎる力から感じ取れる。
そして、
「【
◇◇◇◇◇◇
【
【
〈
◇◇◇◇◇◇
目の前に生成した宝箱を短剣で斬りつけ、短剣に属性を付与。
黒狼の短剣に風がまとわれた。
いくぞ――。
俺は剣戟が響く向けて駆け出す。
女騎士はミノタウロスの斧を防ぐのに精一杯のようだな。
防戦一方で身動きが完全に封じられている。
間に合えばいいが――
そう思った瞬間、女騎士の大剣がついに弾かれた。
ミノタウロスはこの機を見逃さない。
斧を直ぐさま振りかぶり、追撃の構えを見せている。
対して女騎士は……体勢を崩され、避けられそうにない。
まずいな――。
「アンジュ!」
俺の声とほぼ同時、いや、それよりも一寸早く、アンジュは詠唱を開始していた。
「【
アンジュの魔法がミノタウロスに向けて発動。
ミノタウロスの動きが見た目でもわかる程度に遅くなった。
だがまだ間に合わない――
「【
◇◇◇◇◇◇
【
【
〈
◇◇◇◇◇◇
ミノタウロスの斧の軌道上に宝箱を作成。
直後、ミノタウロスの斧が宝箱を破壊した。
ミノタウロスの動きはさらに遅くなる。
しかし、いくら動きが遅くなろうとも、ミノタウロスの力は健在だ。
大質量の斧の攻撃を無防備な状態で喰らえば大ダメージを受けることは必至。
この隙に――
俺は女騎士の下に辿り着くと、そのまま横っ飛びで体当たりするように女騎士に飛びつく。
そして俺たちは、揃って地面に倒れ込んだ。
直後、ゴウン! ミノタウロスの斧が大気を押し分けながら俺たちの頭上を通過する。
「す、すまない……」
女騎士は抱きつくような姿勢のまま俺に謝罪する。
「問題ない。だがまだ安心するには早い。動けるか?」
ミノタウロスは依然としてゆっくりとした動きではあるが、追撃の構えを調えている。
「ああ、もちろんだ」
「俺があいつの動きを止める。そのうちに逃げろ!」
俺は女騎士にそう告げると、ミノタウロスと相対するように立ち上がる。
突然の弱体化に、トドメの妨害。
ミノタウロスは完全に俺を敵視している。
その証拠に、殺気あふれる瞳で俺を真っ直ぐに睨みつけていた。
この状況では【
正面から戦うのはあまり得意ではないのだがな……。
まあそうも言ってはいられないか――
俺はミノタウロスの右足に向かって飛び込む。
そして、短剣で斬りつけながらミノタウロスの後方へと通り抜けた。
風をまとった黒狼の短剣は、その刃に鋭利な風の刃を形成し、ミノタウロスの足を安易と切り裂く。
そしてすぐさま反転。再びミノタウロスの右足を狙って飛び込む。
だがミノタウロスも黙って的にはならない。
俺の狙いが足だと勘付くと、俺の飛び込みに合わせるように蹴りを入れる仕草をみせる。
だが遅い――。
二重の弱体化のおかげで、ミノタウロスの反撃は安易とかわせる。
ミノタウロスの蹴りを交わしつつ、そのまま足を切り裂く。
二撃目が深く入ったことに加え、ミノタウロスが蹴りの体勢であったことで、自らのバランスを崩し倒れかけるミノタウロス。
――そのまま倒れろ!
しかし、俺の願いは届かず、すんでのところでバランスを取り戻されてしまった。
そして次の瞬間、
「グォオォオオォオッッッ!!!」
ミノタウロスは地を震わすほどの、雄叫びにも似た叫びをあげた。
あまりの音量に頭をかかえるように耳を塞ぐ。
一体なにが――?
これほどまでの叫びは、俺も初めての体験であった。
そして、すぐさま顔をあげる。
しかし、俺の視界には俺の理解をさらに超える光景が映し出されていた。
俺が叫び声に怯んだ一瞬のうちに、俺の眼前へと迫り、斧を振りかぶっていたのであった。
まずい――!!
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