第6話 【妖魔の杖】
「アンジュ、ちょっと杖を貸してくれないか?」
「杖を……ですか?」
アンジュは不思議そうな表情を浮かべながら俺に杖を手渡す。
その杖は木を削り出してつくられた初心者用の杖。
魔法の発動を行いやすいように非常に簡素なつくりだが、その分威力は低い。
「この杖に思い入れはあるのか?」
「いえ、特にはありませんが……」
「ならば少々手を加えても問題はないな」
俺は右手を体の前に出して、
「【
すると宙に浮かぶ小さな宝箱が俺の前に現れた。
「あ、また宝箱! でもこの前のよりも小さい!」
アンジュは興味津々、といった具合で宝箱をのぞきこむ。
「これは俺のユニークスキルで、なんでも収納できる便利なスキルだ。今回は小物の収納だから小さい宝箱だが、もっと大きなものを出せばアンジュほどの大きさのものでも収納できるぞ」
そう話しながら、【
そして宝箱の上蓋を閉じると、すっと宝箱が消える。
「消えた!?」
宙をキョロキョロと見渡すアンジュ。
そんな様子を
「【
俺はアンジュの足元を手のひらで示しながらスキルを使用した。
◇◇◇◇◇◇
【
【
〈妖魔の杖〉を生成しました。
◇◇◇◇◇◇
俺の脳内に【
それと同時に、手のひらで示した地面に宝箱が出現した。
「ほら、開けてみろ」
アンジュが宝箱を開け、中に入った杖を取り出す。
その杖は大きさこそ変わらないものの、杖の中には魔石が埋め込まれていた。
「その杖は妖魔の杖といって、杖の魔石が使用者の魔力を増幅して放出してくれる。素材にしたのがBランクの魔石だからそこまで強力なものではないが、それでも当面の間は充分こと足りるだろう」
「魔力が……増幅……?」
「まあ説明するよりも試した方が早い。もう一度ホワイトラビットに魔法を使ってみたらどうだ?」
アンジュは少し考えたのち、
「…………はい!」
そして付近を徘徊しているホワイトラビットに向けて、
「灯せ灯せ。全てを払う火炎のごとく! 【
瞬間、杖に埋め込まれた魔石が強く輝く。
杖の先端に小さな魔法陣が二重に出現し、火炎球が放たれた。
それは先ほどのそれよりも二回りほど大きく、轟音をあげながらホワイトラビットへと突き進んだ。
火炎球はホワイトラビットを直撃し、火炎に包み込みながら吹き飛ばす。
そして地面に倒れたまま動かなくなるホワイトラビット。
「え……」
あまりの出来事に言葉を失っているのであろうか。
アンジュは杖を構えたまま固まってしまっていた。
「――どうだ?」
「す、すごいです!!! ――こんなことまで出来るなんて、さすが先生です!!」
「気に入ってくれたのならうれしいよ。それにアンジュが強くなってくれれば俺も助かるからな。せっかく組んだのだ、期待しているぞ」
「は、はい!」
「だけど一つ忠告だ。集中しすぎて俺の声が聞こえていなかったのは問題だ。どんなに集中している状況であっても、
「……はいです!」
「よろしい。では次は俺の武器もつくっておくか。【
「先生の武器……ですか?」
「ああ、ブラックウルフとの戦いで刃こぼれしてしまってな」
「す、すみませんです……これから稼いで弁償を……」
「いや、かなり使い込んでいた短剣だ。どんな相手でもいずれは刃こぼれしていたさ」
もらった給料の大半は宝箱の素材に費やしていた。それでむたま足りない分は現地で狩りをして素材を集めた。
俺の懐は自分の装備を整える余裕がなかったのだ。
というのも、『私腹を肥やすくらいなら冒険者へ還元せよ』。それが前国王の理念で、俺も賛同していた。
故に特に不満はなかったのだが、自らが冒険者になるとわかっていたならもう少し装備にこだわっておけばよかったか――。
宝箱に短剣とブラックウルフの牙を収納。
そして再び合成する。
「【
◇◇◇◇◇◇
【
【
〈黒狼の短剣〉×二を生成しました。
◇◇◇◇◇◇
俺は宝箱から短剣を取り出す。
その短剣は鉄と牙、そして魔石が溶け合ったように黒く輝いている。
アンジュは興味深々に覗き込む。
そして驚いた表情で、
「――!? 先生! これって!!」
「そうか。アンジュには珍しいか――本来、
「はい、私もそのように教えられてきました」
「だが俺の【
「……鍛冶屋……ではないと思いますが、さすが先生です!」
アンジュの『さすが先生』は口癖なのだろうか? 事あるごとに『さす先! さす先!』と騒いでいるが……今さら突っ込み切れない。
俺はとっさに話題を変え、
「そういえばアンジュには何かユニークスキルはないのか? もしあれば教えておいて欲しい。今後、パーティーを組むのであれば知っておきたい」
「父に授けてもらったスキルが一つだけあります」
ユニークスキル。それは魔法や剣術といった技能とは別のもので、個々人がもつ特殊な固有スキル。
と言っても、全ての人が持つわけではなく、冒険者のうち一割といったところだろうか。
そしてユニークスキルの所有者は自らが定めた者にユニークスキルを継承させることができる。
故に、優秀なユニークスキルは政略の対象となりやすく、高い身分の者がユニークスキルを継承していることが多い。
「ほお。それはどんな――」
瞬間、
「ガサガサッ――」
複数の葉擦れの音が茂みの奥から聞こえてきた。
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