少し変わった日常で
星結白熊
第1話 幼馴染に起こされるなら
視界は真っ黒に染まり目の前は闇で覆われていた。
しかし恐怖はなくむしろ心地よささえ感じていた。
普段はあまり見ることのない景色、自分の意識が覚醒しているのを本能的に理解した。
何もない世界は素晴らしく、このままずっと居たいとさえ思えた。
しかし、そんな至福の時を邪魔するかのように大きな音が桁増しく鳴り響いていた。
「--------!」
そんな音を無視してぼうっとする
「------きろ!!」
音が大きくなあっていく、静かにしていてほしい
「-いーーーかげーーきろ!!!」
煩い!放っておけ視界は真っ黒に染まり目の前は闇で覆われていた。
しかし恐怖はなくむしろ心地よささえ感じていた。
普段はあまり見ることのない景色、自分の意識が覚醒しているのを本能的に理解した。
何もない世界は素晴らしく、このままずっと居たいとさえ思えた。
しかし、そんな至福の時を邪魔するかのように大きな音が桁増しく鳴り響いていた。
「--------!」
そんな音を無視してぼうっとする
「------きろ!!」
音が大きくなあっていく、静かにしていてほしい
「-いーーーかげーーきろ!!!」
煩い!放っておけ!!
誰にも届かないとわかりつつ叫ぶ。
ただ、終わりの時は近い。
「星!いい加減に起きろ!!!!」
温さをくれていた至高の一品を取り上げられる。
守られていたものが無くなり外気にさらされる。寒い
布団を取り上げ、そのまま勢いよくカーテンまで開けられ、重たい瞼には猛毒に等しい朝日が差し込み、目に飛び込んできた。
「ふっざけんな!!!!!」
朝から今日一番の大きな声を怒りと一緒に吐き出した。
「おはよう。素敵な朝だね」
俺の幸せを奪った諸悪の根源は、それはそれは素敵で爽やかな笑顔を浮かべていた。
「お前はいったいどんな権利があって、俺の幸せな時間を妨害した!」
「家が隣の幼馴染として!」
ノータイムで答えられたが、ラブコメなんかの物語の定番だし、納得しかけた自分がいた。
だが、しかし
「それは、かわいい女の子だから許されるんだよ!」
俺を起こしに来た隣の家の幼馴染は物語のように美少女ではなく、髪を金色に染め上げ耳にピアスを開けたイケメンだった。
「ところでお前、なんで俺のこと起こしたの?何にもないよな、今日?」
世の中でいうところの春休みの期間中。
新学期が始まる前のつかの間の休養期間である。
本日の予定は何もなく、起床は昼まで寝る予定だったのだ。
現在時刻は8時、学校が始まれば遅刻確定の時間だが、今は春休みまだまだ寝ていいはずの時間である。
それを、その至福の時間を
「もう一度、聞くぞ朝陽」
目の前にいる金髪イケメンクソ幼馴染に問い詰める
「なにかな星」
朝陽はなんの悪気もなさそうにしながら、むしろニコニコとこちらを見てくる。
「貴様、何のために俺の至高の睡眠時間を奪い取った?」
「家が隣の幼馴染だし、本当は暇だったから!」
勢いよく答えた朝陽の頭を躊躇なく思いっきり引っ張叩いた。
「いってぇ。なにすんだよ星!」
「そんな身勝手な理由で俺の時間をつぶすな!」
「うるさい!いいだろ!まあ暇だったのも本当だけど、本来の目的は別にあるんだけどね」
「本来の目的?いったいなんだよそれは?」
「朝ごはん作って」
こいつは一体何を言っているんだろう。
人の家に勝手に上がり込んで、人の睡眠を奪った挙句に朝飯を作れ、だと?
「帰れ!っていうかおばさんに作ってもらえよ」
「お母さんいないし」
「はあ?いなくてもおばさんなら作っておいておくだろ?」
「違う違う、今日の朝だけいないんじゃなくて昨日からいないんだよ?」
こいつの言っていることが一つもわからず、頭の中は、はてなマークで一杯である。
「あれ?星もう忘れてるの?この間ウチの母さんと一緒に夜ご飯を食べに来たじゃんその時に話してたよ」
「この間の夕飯時?」
必死になって頭の中にあるであろう記憶を探し続ける。
「なんか段々思い出してきたぞ」
それは本当につい最近の出来事だった。
隣の家の日向家は偶にというか、結構な頻度で我が家に食事に来ることがある。
その日も食事に来た日向家。
時間が進むにつれて保護者二人はアルコールが回り口が饒舌になっていた。
「子供がいても一人さ~みーし~いー」
もうベロベロに酔っぱらった日向家現在家主の日向夏鈴さんはそう嘆いていた。
「いいじゃない相手はいるんだから、うちは一人よ」
そう、少し悲し気に零すのは戸張家家主の戸張小夜。俺の母親である。
「涼夜さんに会いたい~」
そう言ってグズグズと泣き出す母親。
父さんは俺が物心つく前に亡くなってしまった。
母は父についてのことはあまり話さず、一人でここまで育ててくれた。
しかし反動もあるのか、こうしてお酒が入ると悲しみだすのだ。
「それに、星とももう少しで離れ離れになっちゃうし」
「ああ、転勤だものね」
我が母は近々出張のため家をしばらく空けることのなったのだ。
職場で何度かごねたそうだが、結果は覆らず、俺もついていくか悩んだが、憧れの高校に進学できていたこともあり、母一人で出張することになったのだ。
母がいなくなるのは寂しいが、一人暮らしには憧れがあったため、内心では喜んでいたりもする。
「星君一人でも大丈夫なの?」
「大丈夫!うちの星は料理も家事もちゃんとできるから!」
そう自慢げに語りながら、近くにいた俺の肩に手をまわし近づける。
普通に恥ずかしい。
「いいなあ。うちもせめて料理くらいできれば秋晴さんのところに行けるのに」
秋晴さん、夏鈴さんの夫で現在出張中で日向家にいない。
「じゃあうちの星に作らせればいいじゃん!そうしたら星も寂しくないし。うん我ながら完璧ね」
母さんはまるで名案と言わんばかりに声高らかに提案する。
正直タダ働きもいいところである。普通に嫌だ。
「でも、いいの?星君大変じゃない?」
夏鈴さんが心配してくれる。
もっと言ってくれ!
「その辺は星が何とかしてくれるでしょ。ね?」
強めの圧をかけられ首を縦に振るしかなかった。
母には逆らえないのだ。たった一人の家族には。
「いい子ね。お小遣いも増やしてあげる」
お金がもらえるのならば問題はないのかもしれない。
「私も悪いからバイト代ってことで食費に色を付けて渡すわね」
というわけで俺の隣の家の晩御飯を作るという生活が酔っ払いによって決定させられたのだった。
お金が貰えるのなら何でもいい。
というわけですっかり忘れていたご飯を作るという仕事のため起こされたのだ。
「はいはい、わかりましたよ。わかりましたとさ。朝ごはんだろ待ってろ」
「わーい。星のご飯楽しみ」
「じゃあ下行くぞ」
「はいはーい」
重たい瞼を擦り、まだ眠たい体に鞭を打って歩きだした。
一階のリビングに着くと黒い髪を二つに結んでおさげにしている少女がすでに食事の席についていた。
「遅い!一体いつまで待たせるのよ!」
「お嬢様、日向家はお隣ですよ」
「そんなのわかってるわよ!いいから朝ごはん!」
こんな感じでプリプリと怒っている美少女は日向夕姫。
お隣日向家の娘で朝陽とは双子の兄妹である。
「起こしに来るならせめてお前が良かった」
そんな願望をこぼすと
「いやよメンドクサイ。それに私はじゃんけんに勝ったのだもの」
「お前ら俺を起こすのじゃんけんで決めたのかよ」
なんかショック。
「っていうか、朝飯くらい自分で作れよ。パン焼くとかご飯炊くくらいはいくらお前らでもできるだろ?」
なんて笑いながら言うと双子揃って黙り、明後日の方を向きだした。
「嘘、だろ?おい、こっちを見ろ!何とか言えよ」
一向に目を合わせず重たい雰囲気を作り出した。
「お前らまさか?それもできないくらいやばいのか?」
「しかたないじゃない!」
先ほどまでの沈黙を打ち破るように声を出す夕姫。
「パンを焼けばなぜか炭が錬成されるし、お米はべちゃべちゃになるかパッサパッサになるかだし!」
「俺もう美味しいご飯が食べたい」
悲痛に叫ぶ朝陽。
「だから俺を起こしたのな。ちょっと待ってろ」
そう言って台所に行き、昨日炊いていたご飯をよそい、冷蔵庫から卵を取り出し二人の目の前に置いた。
「はい、朝ごはん。じゃあもう一眠りしてくるわ」
リビングを出て自分の部屋に帰ろうとすると
「待って待って、ちょっと待って?これだけ?」
「これだけって朝なんてこんなもんだろ?」
「わかる、わかるけど。なんかもの寂しいというか、もう一手間欲しいかなーなんて」
「そう、そうよ!今日だけ、今日だけでいいから」
縋ってくる双子面倒にもほどがある。
「わかったわかった」
二つの卵を回収し、再び冷蔵庫を開き中からベーコンを取り出す。
フライパンに少しの油をひき、ベーコンを焼く。
片面が焼けたタイミングでひっくり返し、卵を割り入れる。
卵の白身が固まりだしたら、弱火にして蓋をかぶせ蒸し焼きにする。
少ししたら蓋を開け、半熟の目玉焼きのベーコンエッグの完成だ。
気持ち程度に袋の千切りキャベツもつければサラダ付きだ。
「ほら、これでいいだろ」
「おいしそー」
「さすが星ね」
「「「いただきます」」」
「ちゃんとした美味しい白米だ」
「ベーコンもカリカリ」
「「何よりも!!半熟の目玉焼き」」
「どうやったらこうなるのかしら?」
「すごい黄身が流れてる」
笑顔で簡単なものとはいえ作った料理を喜んでもらえるのはすごい嬉しい。
なんだかんだ悪くないな~なんて考えていると
「星、塩頂戴、あと胡椒」
「星、醤油くれ」
二人同時に声が発せられた。
「「ああ!?」」
また始まったのか。一緒に作ってた自分の分の朝食を食べながら彼らを眺める。
「目玉焼きと言ったら塩よ!半熟の黄身の味も楽しむためのシンプルな塩でしょ?」
「いーやわかってないね。卵かけご飯だって醤油で食べるだろ。卵には醤油って相場で決まってるね!」
よくもまあ目玉焼きの味付けだけで盛り上がれるな、と感心する。
この双子、事あるごとに意見を対立させては喧嘩をしている。
もう見慣れた光景である。
ボウっと眺めているとこちらに飛び火してきた
「「星はどっち?!」」
「どっちも美味しいし、気分次第。というか冷めるからさっさと食べな」
「「はい」」
そういうと双子は先ほどまでの騒がしさの鳴りを潜ませ朝食を食べ進めた。
「「「ごちそうさまでした」」」
「じゃあ片付けくらい手伝えよ」
「「はーい」」
そんなこんなで騒がしい顔だけはいい幼馴染たちとの変わった生活がスタートした。
まだ今日の昼も夜もあるが、差し当たっては明日の朝起こしに来るのがイケメンじゃなければいいなと思う。
少し変わった日常で 星結白熊 @Shirokuma4698
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