第357話 qualtett

リサの辿り着いた北の駅は、終着駅の

語感に相応しい海辺で


レールが、海に向かって途切れていて。


以前は船で貨車を運んでいたと言う

その痕跡が残る、最果ての駅。



今は、それでも最新の特急列車の行き交う

華やかな駅が2階につくられて

やや、ちぐはぐな印象もあるけれど

1階の部分は、昔のまま。


蒸気機関車が吐き出した煙りの跡が

黒い煤を屋根に残したり。


そんな雰囲気が、漂泊の旅には

好ましいと

リサは、思いながら

ふたつに分けて垂らした髪が


潮風に吹かれる心地良さを感じていた。





思い込みで、ちょっとセンチメンタル

になる事も


秋のせいだろうか。




それとも、少女的感性だろうか。






一方のめぐは、リサの事を心配していたので


自分が魔法使いだと言う事を


すっかり忘れていた。




「もし、リサがあたし達の事をイメージしてくれたら。」めぐは、魔法使いだから

そのイメージと通信する事ができる。



4次元の通信なのだから当然だ。

時間も空間も飛び越えて、イメージだけが伝わる。




「でも、お昼寝してくれないと無理かな」なんて、めぐは


汽車の中ででもリサが夢見て

くれないかなー、なんて(笑)思ったり。










「じゃ、4にんね。こっから乗ってぐ?」と

リサのおじさんは、愛らしいお国訛りで

めぐに話し掛ける。





Northstarの発車は、Upperfieldから、21時。


でも、そこまでは回送列車で行くので


それに乗って行ってもいい、と



そういう話らしい(笑)。




「4にんもいるなら、4人部屋もあるがらの。」



qualtett compartment car と

4人用の個室もあるのだけど


最近は家族旅行をする事も少なくなったらしく


個室として使われるのは稀、らしい。




そういう時はドアの鍵を掛けないで、ベッド単位で指定するとか。



そういう話らしい。






そういえば、家族4人で旅行、なんて

あまり、めぐも記憶がない。



とても小さな頃なら別だけど。





「ひとり用の方が人気”での」と

おじさんは言う。






そっか。



めぐも納得するけれど。


でも、なんとなく



納得しちゃうのも、淋しい気持ちもある。




温厚で、穏やかなおじさんのイメージでも

家族って、離れ離れが

ふつうになっちゃってるのかなあ、なんて。






「うぢは、鉄道の仕事だがら。

家族旅行なんて、しだごとねぇけど。」と

リサのおじさんは、豪快に笑った。

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