第327話 夢想と予想

めぐがイメージしたのは

おじいちゃんが最後に乗った


機関車に乗って。


あの、おじいちゃんが

最後に降りた駅で



運転席から降り、花束を受ける

リサの姿だった。



たくさんの人々が訪れて

別れを惜しんでいるような

映像。





横断幕を見ると、


さようなら寝台特急



と、あるので




いつか、この列車自体が

運転を終える時、リサは


機関車乗りとして、その列車に乗務

するのだろう。





めぐの、予知能力かもしれない。




ただの、夢想かもしれないけれど(笑)。






その、夢想に

めぐ自身微笑みながら



ホームを歩いて、SuperExpressの


発車駅まで向かう。



通勤電車でひと駅だけど。




れーみぃは、微笑んでるめぐに気づき



「楽しそう。」って

長い髪が風に巻かれるのを

右手で押さえるれーみぃ。



その仕草は、なんともエレガント。



どこどなく、そういえば

お嬢さんっぽいれーみぃだった。



家の事とか、家族の事は

何も言わないし、高価なものを

持っている訳でもないけれど


慎ましい物腰が、上品さを醸しだしていて。






「うん、リサがね、あの寝台特急の

機関車を運転しているとこを

想像したの」と、めぐは



想像じゃなくて、予知かもしれないけれど(笑)。




それは、わからなぁい。






「きっと、そうなるね」と

れーみぃは、率直な言葉で。


どことなくアジアンな風貌のれーみぃ、は

ファー・イーストのアジアンが使う英語の

ように、単純な表現を好む。



本当にアジアンなのかな、なんて

聞いてみた事もないけど(笑)。



どうでもいい事だし。





通勤電車が、土曜なので

通勤するひとも少なく、所在なく

やってくる。



やっぱりメタルボディに、簡素な

ブルーのストライプが入っていて。



減速する時、メロディーのような音が

流れて。




電車がハミングしているようだ。







それは、モーターへの電力を

交流的に制御するシステムの音、なのだけれど


ドイツのエンジニアが、音楽にして

乗るひとに楽しんで貰おうと

考えたもの。







生活を楽しむ感覚は、ゆとりが

感じられて。



羨ましく思えたりもする。






機械工業品に、それを採用するセンスは。

遊びの精神だけれども




遊ぶのは、高級な知性である。


機能があって、機能とは離れたところで

楽しい、と思うあたりが遊び、で




人間などは、幼い子供でも遊ぶ事を

知っていたりするし



犬や猫くらいでも、誰でも知っているように

遊んでみたりする。




そういうゆとりが、工業品に出てきた事は

機械工業に余裕が増えた事だから




電車にそれを採用する、この国の国鉄は

楽しい会社である(笑)。







ホームに電車が止まり、ドアが

静かに開く。



ドアは、リニアモーターなので

滑車の、ごろごろ、と言う音が聞こえるだけ。


旧いタイプの電車だと、さっき乗った時みたいに

空気のシリンダーで開閉されるので

その音が大きくて、滑車の音は聞こえにくい。



リニアモータで静かになったら、旧いままのドアレールと

滑車との間のでこぼこが音になって、目だってしまうのは

なんとも面白い事で



旧い方がその滑車の音が気にならないのは

なんともシニカルな事だけれども


現実ってそんなもので


人間の感覚は、物理的な基準と一致しないのだから

それは仕方ない。




耳、それは元々

進化の過程で、環境にある外敵の音を聞き分けて

生き延びて来た動物が持っていた性質が残ったのだから


そういう傾向にある。


音量そのものも、小さい差を見極めるのは得意だ。

でも、一定に続いている音は段々鈍感になる。


それで、例えば川の流れとか、風にそよぐ草の音に

隠れた外的の足音とかを聞き分けるのに適してきた、と言う訳で



旧い電車の空気シリンダーの大きな音が流れている間に

滑車の音はあまり感じにくく、

静かなリニアモーターの動作中の、滑車の音は目立つ。



もっとも、寝台特急になると

滑車が足もとには無く、扉の上部についていて

レールが無いから無音なのである。


それは、眠っている人への配慮で

細やかな心遣いが、それまでの国鉄の車両設計にはあった、らしい(笑)。




そういうものを継承するのも、新しい、例えばリサたちのような

世代の務め、だったりもする。








「割と、混んでるね」と、Naomi。


「ひと駅だもん」と、めぐ。



「混雑、恐れ入ります」と、リサは

車掌さんの声色を真似して(笑)



「似てるー」って、れーみぃは楽しそう。



電車は、がらがら、と

ドアを閉じて。


東へ向かった。





ほんの500mくらいだろうか。


SuperExpressの発車駅に着く。



「速いね。」と、Naomiは感心する。


「レオナルド・ダ・ヴィンチは、馬の速度が旅に最適だ、って」めぐ。


「なんでだろ?」と、リサ。



「旅って、景色見るからじゃない?」と、れーみぃ。



ひとそれぞれ、めいめいに自由に感じる4人。


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