Rail Lady  Lissa

第310話 Lissa's wish

呆気なく、リサのおじいちゃんは

天国へ行ってしまったので


リサは、病床で


ごめんなさい、ごめんなさいと

泣きながら、あの日の事を

謝った。




「わたし、遅いけど

国鉄に行きます」


おじいちゃんは、薄れる意識の中で


それはいいんだ、と

手を振った。


言葉を発する事は、もう出来なかったので

その意思は、リサに伝わらず.....



振った手は、リサには



さようなら、と

機関車の上から、白い手袋で

振った手のように、思えた。





甚だ不条理だけれども、思い込みは

そういうものだ。











リサは、大学へは行かず

国鉄に就職すると決めた。



しかし。





学校での反応は、良くない。





「もう、国鉄への推薦枠は、他の人に

振ってしまったわ。


あなたが志望すると、誰かが困るのよ」と

就職担当の教師は、告げた。



リサは勉強もできたので

推薦なしでも、受験はできる。

合格もできたろう。



けれども、この地区での採用枠は

決まっていて。



各学校に、割り振られて

誰も落第しないように、と

推薦採用が行われていた。




それは、国有鉄道ならではの思いやりで



リサがもし、採用されたら

誰かが泣く事になる。





そして、名機関車乗りだったおじいちゃんの

孫、と言う事だから



誰か、クラスメートを泣かせる事になるだろう。






「大学へ行ってからじゃ遅いの?」と


教師はリサの意思を理解しなかった。





それは、リサの思い込みで

罪滅ぼしをしたいから


そうしないと、救われないような

そんな思い込み。





でも.......



誰か、クラスメートを泣かせる訳にもいかない。





リサのおじさん、北の方の町で

車掌をしている、(おじいちゃんの3男だ)は



「こっちに来れば、国鉄に入れるぞ」と




朗報を。





リサも、ずいぶん考えた。





親元を離れるのは辛い。

まだ18歳である。




どうしようか、と

迷っているうちに、こんどは

リサの父が、病床に臥した。




どういう偶然か、おじいちゃんと同じ病気だった。





リサは、のんびり大学に行く気持ちにもならなかった。



ミシェルは、これから高校。


お金も掛かる。




母ひとり置いて、北の町に行く

気持ちにもなれなかった。







何もかも諦めかけたその時......




ふと、新聞を見たリサは


「市交通局職員募集」の


一般公募を見た。



路面電車の運転士。





「これなら......」リサの心に

光明が射す。




同じレールの仕事なら。



おじいちゃんも、許してくれるかもしれない。




実際、国鉄職員になっても

女子の機関車乗りは、前例が無く



成れるとは知れなかった。




試験も、難しい。





路面電車の運転は、これまでも女子の

採用例があった。





そんな理由で、リサは......



路面電車の運転を志した。






そう、思い込みが原因だったのだけれども。

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