第224話 おでんわ

おでんわ




「出る?」と、おばあちゃんは

めぐの様子を見て、そう言う。



出たくないような、でも

声を聞きたいような。



そんな、複雑、相反。



そういう気持ちは誰にもあるけれど



めぐのような女の子も、そうみたい。





いい声って、なんとなく

安心できたりする。




お散歩している時、かわいいにゃんこが


「にゃー」と、寄ってきて

すりすり。




そんな時の声って、かわいいと思うけど




そういう音響心理的に、魅力を感じる声って

誰にもあるもので。




自然に、心を惹かれる声は

周波数特性、と言って

物理法則で定義できるので



最近では、会話できるコンピュータの

声に、それを使ったりする。


それは、簡単なもので

赤ちゃんの声を好むように、人間は出来ている、と言う事だと


進化生物学、動物行動学の論者は言う。




つまり、年少の者を庇護するプログラムである。






例えば、音楽でエレキギターの歪んだ音が

人を魅了したりするのも



同じ理由である。




真空管のギター・アンプは

電圧制御素子で、NFが緩いので、出力を超える、つまり歪んだ時に

人間の声に近い特性になると


電子工学、音響心理学、人類行動学、社会生物学等の共同研究からはそう言えるが





それが、赤ちゃんの声に近いと言う推察は

面白いものだ。






科学的な定義をすると



めぐが、ルーフィの声に安堵するのは

そんな理由である(笑)。







とりあえず、めぐは


自分の世界に帰るのを、思い留まった。



生物の限界



そうした報酬系と呼ばれる

快い、情緒と行動(縮め、情動と呼ばれる)は


生物が生き延びた結果である。



生き延びる為に正しい行動を

快く感じるようにプログラムされているので


そう感じるだけ、だ。



誰がいつプログラムしたか?と

問われると



長い生物の歴史の中で、自然に

そうなってきた、と

考えられている。




しかし、人間の社会は

自然環境とは異なる。



そうした、生命の営みが

快い、と言う


その感覚だけを楽しむ人間も多く




過程を楽しむのが趣味であるので

その帰結も自然であるが




生命を得て、生命を継承する機能であるところの快さ、である。




継承せずに快さだけを求めるのは不条理であり



その機構からして、心の機能に問題が生じる。





単純にモデル化して見ると



その快楽報酬系は

人工的な麻薬によって得られるそれと


類似である。



つまり、依存が生まれたり、禁断症状が

あったりする。




そんな理由で、この種類の人間は

抑制系に問題が生じたりする。



故に、めぐのような女の子は

防御を必要としたりする。




人間になぜ発情期がなくなったのか?と言う

進化生物学的な問いを求めるまでもなく




宜しくない事だ。




魔法使いルーフィは、しかし

人間ではないので

危険はない。




ともあれ、それもまた

人間の恋愛対象としては


不都合であったりもするが(笑)。







そんな理由で、めぐは電話の

彼の声を聞きたいと思う。




それで、幸せなら


それもいいのだけれど。


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