第196話 ココカラ、デナイデ。

ココカラ、デナイデ。




楽園の妖精のような、めぐの問い掛けは

魅力的だったけれども


それに応えるのも、ちょっと無理だった。


ルーフィの御主人様を、目覚めさせると言う

仕事が待っている。



それは契約だ。





言葉では告げられなかったルーフィ。


でも、その表情で


めぐは、悟る。




ここは心の世界。


隠し事はできないのだった。








めぐがそう思うと


瓦解するように


この、夢想的な超11次元宇宙から


めぐと、ルーフィは


もとの3次元宇宙に戻った。





一瞬の白日夢、だったのだろう。




でも、それでめぐの気は済んだ。



気持ちは、そんなものだ。



愛の本質



愛は、文学的なものだ。それは、幻想によって生活を豊かにするものである。



例えば進化生物学では、生物として

継承してきた機能は


必然の結果であると定義される。





生きて行くために、それが有用だったから

機能が残る。



その機能を持っていたから生き延びた。




そう考えられている。



例えば、人間の神経は

電気的伝達と、化学的伝達で


情報を伝えている。


面白い事に、この構造は

海の生物とも似ているし



もっと単純な生物にも似ていたりするところから


情報を伝達する必然が生じて

それを、伝える機能が優れた方式を

持った者が生き延びた。



そう、考えるのが比較進化論である。




チャールズ・ダーウィンが有名な論者であるが



こうした機能によって、人も動いている。



その機能として最も重要な事は


生き延びる事。



つまり、子孫を残す行動。




そのプロセスで重要なのは、

相手を選ぶ事、つまり選択だ。



それを、文学的には恋と言うのであり



適当と思われる相手を求める気持ちである。



そうして、同じタイプの仲間を助ける事で


存続を計る事を好むのも

正しい行為で

それを博愛、などとも言う。






そんなふうに、人間の行動は

生物学的に正しい行為を

好むように出来ているのである。





しかし.....。



魔法使いルーフィは、人間に似た存在ではあるが


子孫を残す必然がない。


つまり、機能的には恋する必然はない。


しかし、優しく博愛的なところが

誤解を招くところ。


でも、めぐの誤解は絶頂に達してしまった。




初めての恋と言うものは

往々にして幻想に終わるものである。





めぐの場合は、格段に悲劇的だ


何と言っても、恋しい彼が

人間ではなかったのであるから。






とにかく、その事で

めぐは、全ての事がどうでも良くなった。




18歳の女の子である。


それは当然だ。







三角屋根に着陸しためぐは、もう

帰りたくなってしまって。




黙って、飛び去った。



おばあちゃんに言って、もう帰ろう。




散々な夏休み!と

めぐは心でつぶやいて。


気がつくと、おばあちゃんの居るリゾートホテルの

部屋に居た。





気持ちが集中していると、瞬間移動も

全然失敗しない。



その事に驚くと共に、淋しさも感じた。



魔法使いルーフィ に恋して、魔法使いに憧れた。


才能もあった。



でも、結果として

それは悲劇を増長するだけだった。


めぐの恋心は、あくまで人間の青年と恋する気持ちだったのだ。




やっぱり、自分だけの彼でいてほしい。



それは、たとえ、めぐが魔法使いになって


人間を捨てたとしても


変わらないと、いまのめぐは思う。





だから、ルーフィとの恋は、もう終わり。



涙を堪えて、笑顔を作ったけれど


ベージュのドア、チャイムを押して

おばあちゃんの笑顔を見ると


もう、めぐの抑制は効かなかった。



涙が、頬伝い


何も言葉にならなかったけれど


おばあちゃんに、抱きついて泣いた。


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