第168話  やぎのチーズ



やぎのチーズ



やぎのチーズは、ふつうのパルメザンチーズ、みたいに固めるタイプと


モッツァレラみたいに、伸ばすものと。



いろいろあるらしい。


「バターも作れるんですよ」と

シェフは、楽しそう。


食べるものが好きなひとは

みんな、いいひと。



そんな、コマーシャルを思い浮かべそうなほど


お人のよい、シェフ。



食べてもらうのを、見てるだけでも

なんとなく、幸せ。



めぐは、そんなふうに思う。



ちいさな坊やが、食べてるのは

特に、そんな感じがしたり。





ごはん食べて、眠っちゃって。


自然のままのふるまいを

見ていると、ちょっと嬉しくなって。



それも、不思議な気持ちだけど。



優しい気持ちって、誰かが

居ると・・・・。



とっても優しくなれるんだよね。




シェフも、そうなのかしら(笑)。




お昼休みの、ディナーの仕込み時間に


見ず知らずの坊やに、ごはんあげても


何にもシェフの得にはならない(笑)


それどころか、お金取れないから損(笑)。




でも、男ってそういうものだし。



それは、ルーフィーも一緒で



男ってそういうふうに、何かを守るようにできている。



たいてい、それは

守るべき、弱い立場のひとだったりするけれど



そういうひとが、喜んでると嬉しい。



それは、めぐが

坊やにごはん食べさせてると

しあわせ、ってのと

同じ気持ちなのかな。






ルーフィーも一緒で




そのために、向こうの世界から戻って来て。




こっちで、魔法事故(笑)。



魔法が一部、使えなくなってしまった。












坊や



育児室、と言うのは

図書館に来る、赤ちゃんのために

ある小部屋で


あまり、使われる事はなかった。



そこに、寝ちゃってる坊やを連れてって



寝かした。



赤ちゃんには、ちょっと大きいけど。




すやすや眠ってる坊やを見てると


ルーフィーも、なんとなく

優しい気持ちになってきて。



・・・・・もう、戻れなくなっても

いいかな?





なんて、ふと、思ったりする。




元々ルーフィーは、どこに戻る訳でもない。



旅先に、長逗留して

それが生活になってしまうような。



時間旅行する魔法使いって、そんな生活なのだ。





「坊やも、たぶん・・・・・。」と

ルーフィーは、つぶやくようにそう言って。





めぐが「はい。」と、その言葉の

継ぎ穂を求めた。





「次元の裂け目に落ちたのかな?

昔から、神隠し、なんて言うでしょう。

あれが、こうなるのね。」




地球は、時速1700kmで自転しながら

太陽の周りを、時速110kmで回っている。



すごいスピード。



その上に立っていても、そんな気持ちにはならないけれど



物理的に、そう。



たとえば、台風が渦を巻くのも



その回転のせいだし、海流もそう。



宇宙自体が、渦なので


つまり、縦・横・高さ、みたいな感覚の3次元空間は


大きな空間では、歪んでしまう。




そういう空間同士が歪みあって


裂け目が出来ると、別の時空間に

つながる。





それを昔は「神隠し」なんて言って。




この坊やは、偶然


向こうの時空間から、こっちに

落ちてきた。



そんなところなんだろう。



「じゃあ、坊やはもう戻れないの?」


と、めぐはすこし、悲しくなってしまった。


お母さんにも、もう会えないで

生きていくんだろうか・・・・・と

思って。




ルーフィーは、言う。



「できない事はないけど・・・・」






ふたつの世界



「でも、この坊や、そんなに淋しそうじゃないね。」と


ルーフィ。




「そういえば・・・・。」と、めぐ。





クリスタさんは、なんとなく思う。


「この方も、生まれ変わりの前は・・・・なにか、理由があって。

生まれ変わりを望まれたのかしら。」




にゃご、がそうであるように。

でも、前世の記憶は忘れているはず。



それでも、遺伝子に脳細胞の設計図があって

前世代の特質が遺伝されるように


前世の記憶は、知らず知らずに影響したりする。




それで、クリスタさんが連想したように

次元の裂け目に落ちたとしても


別に、平然としているような

そんな坊やだったりして。




「そうかもしれない」と、ルーフィも思う。



「それでも、やっぱり、おかあさんが探してるね・・・。」と

めぐ。




「そうだよね」と、ルーフィ。「でも、帰るなら・・・・

僕の魔法が使えるように戻ったとしても。


坊やに見られたら、それでまた終わりだね。


めぐちゃんが、魔法の修行して。

向こうに連れて行ってあげるしかないんじゃない?」





めぐは、ちょっと困った。「まだ・・・・飛べるくらいだし・・・・。」





ルーフィの想像だと、坊やは「あちらの世界」の人だから

「こちらの世界」のめぐの魔法を見ても、どうと言う事はない。


異なる世界の住人同士だから。



ルーフィの魔法をめぐが見ても、大丈夫だったように。






「そっか・・・・」と、めぐは考える。



「魔法、ちゃんと使えるようになるかしら?」


と、ルーフィに尋ねる。





坊やはまだ、すやすやと眠っている・・・・。

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