第118話  海風


海風



でもすぐに、快い海風、頬を撫で

めぐは、楽しくなる。


モペッドが、岬の道を登り


渚に沿って、愛らしいエンジン音を響かせて走ると


なぜか、心躍る。


乗り物は、不思議だ。



カーブが来ると、車体を傾けて。


魔法の絨毯みたい。



そう、めぐは思ったり。


魔法の絨毯だって、3次元空間を

浮いているなら、物理法則に沿っている。



カーブでは、遠心力と言って

当たり前だけど、曲がる方向の外側に向かおうとするから


内側に傾いて、それに耐える力を

重力によって得る訳である。




モペッドも同じで、傾くところが

なんとなく、楽しいと

めぐは思った。



その、カーブを曲がる力は

後ろのタイヤが地面を蹴る力で、得ている。


タイヤの断面が丸いから、傾いたままエンジンが駆動すると

斜めに力が加わる。



それで、曲がったまま進める。




時折、砂混じりのコンクリート道路は

タイヤを滑らせようとする。



「きゃあ」


「おっと」



と、モペッドのふたりは前輪が滑って驚くけれど


そんな時、慌てないでいれば大丈夫。



ずっと前輪が滑り続ける事はそんなにないし




そこでアクセルを戻すと、慣性で

前輪に力が加わる。




そのままアクセルを開き続ければ、

後ろのタイヤが地面を蹴って

前のタイヤを持ち上げるように、斜め方向に力が加わる。



モペッドは、楽しい乗り物だ。






気づかずに、いつもタイアは滑っているのだ。



そして、ゴムがよじれながら

カーブを曲がっている。



F=mghcosθ



タイアのゴムは、人知れず

身をよじり、擦り減らしながら

モペッドを、走らせてくれている。


ありがたい。魔法のようだと

ルーフィは思ったりもする(笑)。


その実、ルーフィは魔法によって存在している訳だし

そのご主人様にしても、魔法でもう

200年も眠っている。



魔法のエネルギーは相当なものだ。







モペッドが、右カーブからひだりカーブへ。


傾いているめぐ、ルーフィ。


その質量が、モペッドのタイアに与える位置エネルギー、それが

カーブを曲がるエネルギーになる。



たとえば、質量mの物体が

重力g、高さhで得るエネルギーFは

F=mghである。



傾いている場合、傾きθとの関数で表されるので



この場合、F=mghsinθである。



その力が、モペッドのタイアを傾け

地面に押し付ける。

斜め向きの力は、反対にタイアを

外に押し出そうとする。


エンジンは、前にタイアを回そうとするので


その合力で、モペッドは曲がる。




カーブを右左。



その中立点では、ゼロになる。




グラフを書いたら、魔法陣のようだろうと

ルーフィは思う。



ルーフィの魔法も、そうした

物理法則に大方沿っている。


たとえば、さっきの式は3次元空間の話なので


4次元や、0次元に

モデル展開すると


Fや、mは如何様にも作れる。



そうして物体を移動させたりもできるし




たとえば、3次元空間の

相対性理論、アルバート・アインシュタインの唱えたそれは



光の速度で、ふたつの座標を決めているので


そのふたつの距離を、光の速度を

超えて進めば、時間が逆戻りするとか

あるいは、空間が歪むと


数学的に言われている。




それは、光が真っすぐ、3次元空間を進む場合であるし




光の速度で距離を定義したから、そうなる訳だ。




実際には、短い距離では

測定できないし



光の速度で指定できる座標なら

真っ直ぐに進もうとしても、必ず歪む。



重力場が複数あるし、3次元だけの

宇宙はありえないからである。




つまり、マイケルソン・モーレーの

実験くらいの距離でも

空間は歪んでいるし


地球上くらいの距離で、時間を

3次元的に戻そうとしても

実用にはならないのだ。



ルーフィたちのしているように、4次元や2次元、0次元の時空間に

モデル展開して、エネルギー変換する方が簡単なのである。




18世紀からあった魔法、ではあるが


継承されることなく、現代に至っている。






弛みなく、地球が回るのも

実はそうした、超次元エネルギーが

源である。




それを知ることなく、人々は生きていても


一向に構わない(笑)。



そういうものだ。




ルーフィとめぐが、物理法則や

科学技術を知る事なく



モペッドのドライブを楽しむように。






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