第44話 天使さんとにゃご



天使さんは、もちろん神様のお使いだから

にゃごが、どんな感じで

人命救助(にゃん救助かしら笑)を

したか、は

理解していた。


特別、いい行いをして

神様に認めてもらおうとか。


そんなつもりでもなくて。



ただ、魔力のある者たちとの


毎日の争いの中で

荒んでいた気持ちが、ひとりになってから


生き物らしい感情を取り戻した。

そんな感じ、なのではないかと

天使さんは、感じ取っていた。


例によって、にゃごは寡黙である。


そのあたりは、悪魔くんだった頃からと

あまりかわらない。


でも、今のにゃごは思う。


悪魔になる前、人間界で

荒んでいた頃も、べつに

好んで悪いことをしていた訳じゃなかった。


周りがそうしていたから、そうしてた

だけ、だった。



環境は大切である。



いま、にゃごは

転生してよかったと思っている。


魔力はなくなったが、元々

悪魔になりたかった訳でもない。



いま、にゃごは幸せだ。




それだけでも、天使さんに出会えて

良かったと思っている。



天使さんを大切に思うから、幸せになれた。



でも・・・・・



天使さんは、このまま

人間界に居続ける事はできないから

そのことは、にゃごにも感じ取れていた。



天使として、人間界に居る事ができたのは

めぐ、の命を助ける為だったし

自らも、癒しを得る必要があったから。



でも、それが済んで。




いまは、にゃご、と共に

いつか、転生して

天国へ昇れる日を待っている。



そうして、にゃごの幸せと共に

生きていく事が、天使さんの願い。


でもあったのだけれども。


そのために、めぐが

魔法使いの能力を封印したのを知り



天使さんは、ちょっと、それが

きになってしまった。


ひとを幸せにするのが、天使。

なのに、ひとに気遣いをしてもらっているのは・・・・・



ちょっと、天使さんはそれを恥じた。



「めぐさんにも、しあわせになっていただきたいのです・・・・」








もちろん、にゃごは猫なので


普段、そんなに深く考えてはいない(笑)。




ごはんが好みでなければ、文句を言うし(笑)。


雨の日には、あそびに行きたくて

柱をがりがり、爪とぎしたりする(笑)。




そのたびに、おばあちゃんが

にこにこして、にゃごを愛でてくれるので


それが、とってもうれしいにゃごだった。



思えば、悪魔になる前、人間で

生まれたばかりの頃、そんな触れ合いが欲しかったような


そんな気もするのだけど。



長い時を経て、ようやくそれに

出会えた。


そんな気もする。




「なご」



「おや、ごきげんね、にゃご」




おばあちゃんとにゃごの会話は

そんなふうに、続く。




にゃごも、お年頃



よく言われるように、猫は

人間より早く年を取る。

でもそれは、人間

から見ると、そう見えるだけ。



にゃごも、もちろん猫だから

スピード感のある毎日を過ごしていた。



それでも、まだまだ子猫。

はじめて、お散歩をした時は

ちょっと、感動ものだったり。


おうちの縁側から、外に出るにしても


ステップがなにしろ、猫にとっては

大きいので、こまったりして。




最初は、おばあちゃんに

下ろしてもらって。



お庭を、ちょこちょこ歩いたくらい。


それでも、十分冒険だった。



お庭の石も、畑のトマトやきゅうりも

猫から見ると、大木や岩のようだし

しなやかな脚に、土の感触は

ちょっと、湿っていて。


にゃご。



ニガテだったりした。



きれいな芝生の上だと、足元が

爽やかだったけど。


あしのうらに土が付くの、ちょっと嫌だったりもした。



なぜか、おばあちゃんは

外に行く事をふつうに許してくれたので


お散歩そのものは、好きだった。


庭石を伝って、土に触れないように行き、ジャンプして木に昇ったり。


木登りも、楽しかった。



このあたりには、他に猫はいないらしくて


のんびりとお散歩ができた。


お空で、鳥の声が聞こえても

にゃご、が狩人でないと思うのか

のどかなさえずりを、聞かせてくれるのだった。




草原を見下ろしながら、梢でお昼寝するのは

とても、いい気持ちだった。


お昼頃になると、おばあちゃんが

呼ぶ声が聞こえて。



「にゃごー、ごはんよー」

その声は、どこかめぐの声にも似てる。



のどかな響きだった。






時々、草原の向こうにまで

お散歩する事もあったりもした。




にゃごは、キジトラだけど

茶色で、ちょっと本当に虎みたい。



おおきくなったら、虎になるのかしら?


なんて、めぐは面白い事を想像するけれど

もちろん、そんなことはない(笑)。




時々、草原で

美人猫さん(笑)に出くわす事もあった。


けれども、にゃごは

どういう訳か、あんまり

美人猫さんが、それほど気にならなかった。



当然かもしれないけれど、にゃごは

天使さんと一緒で、しあわせだった。



それで、にこやかに

美人猫さんにご挨拶。



にゃごの、しあわせそうな感じは

美人猫さんにも伝わるのか


美人猫さんも「ごきげんよう」などと

ご挨拶を交わすのだった。



風爽やかな季節、猫たちには

恋の季節であったかもしれない。



猫は、人間と違って

恋の季節感があるから


その時期は、猫たちにとって

楽しい時期だった。


お祭り、みたいなものかもしれなかったり。



そういうわけで、パートナーのいない


美人猫さんなどは、紳士たちからの

お誘いが、ひっきりなしだったりする。




それで・・・・・ある時。




楡の梢でのんびりしていたにゃご、に


いつもの美人猫さんは、声を掛けた。




「そっちへ行っていいかしら?」




断るのも悪いし、と

にゃごは、無言でうなづいた。



しなやかな細い足首で、美人猫さんは


にゃごの隣に訪れた。




近くで見ると、確かに美人だな、と

にゃごは思ったりした。(笑)。








にゃご、モテ期(笑)



確かに美人猫だな、と

にゃごは思ったりしたけれど

彼は、もと人間、そのあと

悪魔になってから、動物界に転生した、と言う変わり種である。


猫や犬には、そういう者が多く、明妙に人間性のある犬(笑)と猫が

多いのは、そんな背景がある。



反対に、人間界でも人間性がない、攻撃ばかりする人、とかは

やがて、転生したら

人間ではなくなってしまうひと、だたりもする。


それで、転生した者が虫になって

時々、大発生したりするのは

悪い人が、たくさん転生した後、

だったり。(笑)。




そんなところから、にゃごから見る

美人猫さんは、ふつうの猫ちゃん

みたいに見えた。

生き物として、ありのままに生きるが故に愛らしい。

そんな、猫らしさを

にゃごは、好ましく思った。


美人猫さんは、でも猫だから

猫なりの生を生きている。


それだけに、にゃご、が

美人である自分に好意を抱かない事に

不審を思う(笑)。


美人ではあっても、そういう

自尊心はあったりする(笑)。


猫ゆえの不幸は、文化に乏しい事である。


人間ならば、人間性に訴える事も

できる。


人柄がよくて、好まれる人、とか。


もちろん、人間の美人は

人柄が良い事が条件である。



社会の中で、やがて家庭を持つ

のだから、それは当然であった。


上辺だけきれいにしても、それは

人間性が伴っていなければ


狐つき、などと言われて

いつか、狐に転生するであろう事を

見抜かれて、社会から逸脱するのであった。


人間界もまともだ(笑)。





美人猫さんは、そんな訳で

木訥としているにゃごが、文字通り

木の上でのんびりしているので


その事に多少の焦燥を覚えたり。



美人ゆえの不幸である(笑)。



「いつも、のんびりしてるのね」と

美人猫さんは、話掛ける。



いつも、自分から

話し掛けた事などなかった。


美人故、回りが

大切にしてくれたから、である。



なので、たどたどしく

話し掛け、その不安を

ときめき、とおぼえる

猫ちゃんは、それが誤解であったとしても



恋、に堕ちてしまったりするのも



それはそれで、恋は楽しいものである。



猫の恋は、人間よりずっと

シンプルである。


それは、家族制度や租税、などと言う

面倒なものがないせいもある。



人間界でも、そういうものがない

社会は、自由で明るいのと同じ、である。



ラテン諸国のように、人として

楽しく生きるなら、経済的困窮は

厭わない、そういう生き方もあったりするように。





イタリアの猫は、そうすると

自由で至上なのだろうか?



などと、にゃごが思っている訳では、

もちろんない

(笑)。



にゃごの心には、天使さんが居るので


美人猫さんが、猫として

魅力的であったとしても



それは、やはり

満ち足りたしあわせ、と

競合するものでもなかった。


生き物としての制度から自由な

天使さんの愛、は

やはり至上なのであったり。




それは、美人猫さんにとっては

やや不幸な事、でもあった。




シンプルな猫の恋、それとは異なる

にゃご、の恋に


強く惹かれたちもした。



美人猫としての自尊心が、後押ししているのも事実である。



シンプルな猫の恋心に沿って

にゃごに寄り添う美人猫さんは

片思いのような、甘美な感覚を

初めて味わった。


それは、美人猫さんにとって

高貴な感覚であった。




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