第36話 天使さんと神様



天使さんは、ルーフィのつぶやきを聞いて


思う。



神様が、めぐさんの人生を

最初からやりなおしてもらいたい

と思うには、たぶん、わけがあるから。




恐ろしい魔物の記憶が、心の

どこかに残っていると


健やかになれない。

それに、めぐさんの記憶に

異なる世界の事が残っていると


そこに、次元の歪みの記憶があって。



ゆくゆく、後の世代に受け継がれて

いくと、

いつか、それが

異なる世界につながる事になったり。




そういう事を心配して、の事。



そうなのかしら。




もし、そうなら。



天使さんは、その夜


めぐや、ルーフィたちが

眠りについてから、神様にお伺いを立てた。


静かな草原、めぐの家の西側に広がっている

なだらかな斜面。

月明かりが照らし、緑の細い草を

つややかに輝かせていて。


時折、群雲がながれ

蒼い影を作る空間に

透明な翼で、飛翔い。



神は、寡黙にして。しかし、天使さんの

告げたい事を理解しているようだった。



「その娘は、能力を持つ、と言う訳か。」


天使さんは、微笑みながらうなづいた。




そうなると、結局魔界に関わりを持つ事になるから

次元の歪みについて隠す事は

なくなる。


時間旅行をすると言う事は、

自ら異なる世界に向かう事だから。



「しかし、そうなれば

お前の宿れる相手にはなれまい。」

と、神は憂慮した。


魔法、つまり魔なる世界の法典に

基づく能力を持つ者と

天界の者が共存できない、それは

当然だった。



そうすると、元悪魔くんの願いは

途中であったとしても

成就を見届ける事なく、天使は

天に戻る事になってしまう。


あくまで、めぐの

人間としての幸せを思って

神は、裁定を猶予したのだから。


「役目を終えたら、戻るのが定めであろう、天使よ」と

神様は、荘厳に。



「いえ、わたしは天使ですが

天には戻らないで、ここで

めぐさんと、にゃごさんと

共に暮らして行きたいと思います」



と、天使さんは、凛々しく、しかし柔和な表情でそう言った。





「なんと」神は絶句した。


天使としての永遠を捨てても

めぐ、とにゃご、の幸せのために

限りある生命を選ぶ、と言う

天使の思いは、神様にも

ちょっと不可解な言葉。


でも、ひとのしあわせを願うのが

本来、天使の勤めなのだ。



摂理である。

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