第23話 5 別れの予感




だんだん、世の中が平和になってくると

そろそろ、わたしたちの旅も終わるのかなー


なんて、わたしは思う。


少し、淋しいような気もするけれど(笑)



たぶん、わたしをここに呼んだのは

おばあちゃん、なのかな。



めぐを助けたいを思う、お祈りが

わたしとルーフィに、なんとなく通じたんだわ。


今思うと、そんな感じ。


この世界の、歪んだ時空がもとに戻れば

私たちは、たぶん

自分たちの世界に戻れる。


でも、めぐ、とはお別れになるのね。



そうすれば、めぐ、の

ルーフィへの気持ちも、叶う事もない、んだけれども。





神様との契約通り

ルーフィが、この歪んだ時空を元に戻して

魔界との扉を閉じれば


めぐは、死を免れるから


天使さんも、たぶん、めぐから離れ

天に戻るだろう。



そうすれば、すべて、元通りの世界に戻るはず....








そんなわたしの空想とは別に

日常は流れていった。




いつものように。




めぐは、学校へ行き


図書館に行き



そして、一日が過ぎる。



ルーフィと、魔王との仕事(笑)も

終わりに近づいて



魔界への扉を、ルーフィは閉じる事に決めた。



もう、欲を増長させた変な政治家や、財界人は

いなくなった。


この国の中だけで安定して、潤沢な資産が

得られれば


欲の為に、争う事はなくなる。




だから、悪魔くんに食べて貰うほど

人の攻撃心は生まれなくなって


それは、開拓心や、闘争心のような

高級な心に転換していって。



魔界や、動物界に墜ちる人も減った。


その代わり、天界へ上るひとが増えたので


今度は、神様が住宅事情に困る(笑)ほど、になって


ひとの寿命も長くなっていった。





そんな時、ちょっとした異変が起きた。





いつものように、めぐはハイスクールに行って

帰りに、図書館に行った。


特別、変わった事も無いけれど

でも、めぐ自身にも

ルーフィたちのしている事は伝わっているから.....。


いつかは来る、と分かっていた別れの日が近づいていて

めぐは、なんとなく憂鬱だった。



その日は、図書カウンターの仕事が手すきだったので

その、めぐの憂鬱な表情を気にした、主任さんは

「3階に行っておいで。音楽でも聴いてくれば」と、言ってくれた。


いつもなら、そういう気遣いを嬉しく思っても、仕事中に音楽を聴くなどは

性分としてできない子、めぐ。


でも、この時は、なぜか「はい、言ってきます」と言って

3階に上がった。



それだけ、辛い別れが待っているのが、嫌だったのだろう。






吹き抜けの階段で昇った3階は、がらん、と空虚な感じ。


平日昼間の図書館は、たいていそんな感じなんだけれども

めぐには、その空間の感じが

自分のこころのように感じられてしまう。




「ルーフィさん......。」と、言葉に出して名を呼ぶと

涙っぽくなってしまう。


どうして?と思っても、わからない。


ルーフィと、一緒に暮らしていると

ふつうの女の子でいられるのに

離れていると、わけわからなくて

淋しくなってしまう。



そんな気持は、はじめて体験しためぐだった。





壁面のラックから、CDを手にとって

めぐは、ひとり用カプセルで音楽を聴く事にした。


音楽は何でも良かったのだけれども

ポリー二の弾く、ショパン名曲集だった。


きらびやかなピアノのタッチが刺激的で、普段はあまり

聞くことのないディスクだったけれど

弾けるようなスタインウェイの音が、気持を変えてくれそうな

そんな気がして。



カプセルに入ると、CDをプレーヤーに掛けて、スイッチを入れた。

ボリュームをかなり大きくして、音を浴びるように聴いた。


カプセルは、みみもとスピーカーと、椅子に低音スピーカーがついていて。

ちょっとは、音が周囲に聞こえる。




音楽の中に浸る事で、やがて来る別れを忘却したかった。



これも、目前の3次元時間軸にある空間、未来のそれを

予測して、イメージが一杯になってしまって。



つまりは、イメージの中の4次元空間に拘束されて、憂鬱になるのを

3次元の音楽、規則的な時間軸に沿う音葎で

現実に戻そう、と言う試みなのだろう。







途中で曲が、練習曲10-3、「別れの曲」になった。


別れ、と言うイメージはあまり感じられない

むしろ、暖かく感じる曲で



....そんなお別れ、できたらいいな....。と、めぐは

ちょっと思ったりもした。







ポリー二の硬質な音は、きらびやかで

クラシック、と言う感じがしないところも

結構、こういうときはいいものね、と


すこし、めぐは気持が軽くなった。




音楽っていい。



そんな風にも、思って。








残留者



そんな、めぐの気持ちに

天使さんも、気が付いていて


言葉を交わすことが、できたら

いいのだけれど、と


思ったけれど。


めぐ、は

天使さんと、お話のできる事に

まだ、気付いていなかったから

天使さんは、静かなる隣人のまま

見守るだけでした。



「それで、いいのでしょうけど」と

天使さんは、空を仰ぐだけ.....



その時、天使さんは気配を感じた。



「あなた、は、たしか.....」


そう、見える訳ではないけれど。



いつか、図書館で

イライラおじさんに憑依していた悪魔くん、だった。




「魔界に帰らなかったのですか?」と

天使さんは思ったけれど

悪魔くんは、黙して語らず。


ただ、悪魔くんにしては

バイタリティーが感じられず、静かで

好戦的でないところも、不思議な雰囲気だった。

静かに微笑んでいるような、感じだった。





人間界で悪魔と呼んでいるから、と言って

悪者な訳では、もちろん、無い。



例えば、人間界でも


知らない国の人を想像で、怖い、と思ったりするのは

よくあることだ。



アジアでは、ヨーロッパ人を白い悪魔と言ったり


ミドル・イーストではアメリカ人を悪魔と言った。



それは、自分たちと違う人から身を守るように

動物さんだった頃に覚えた知恵で


知らない者は、まず警戒する方が

危険はないから、で



そのうち、知ってる人になれば

仲良くなれるのだけれども。



そういう訳で、悪魔くん、と言う日本語の書き方も

イメージが良くないのだけど(笑)


例えば英語ででいもん、とかくと

そんなに悪い感じはしなかったりする。



この、悪魔くんはそんな感じで

ふつうだった。


ただ、魔界に帰らずに

人間界に居ると


もう、帰れなくなったりするかもしれなかった。



「なぜ、わたしたちに...?」天使さんは

悪魔くんに告げたが


何も語らない。


言葉が通じないのかもしれなかった。



それでも、なぜか

かかわり合いを持ちたいのか

こうして、人間界に戻ってきて

めぐのそばに、戻ってきた。



理由は、わからない.....






ルーフィとMeg、つまりわたしは

図書館のめぐを訪ねていった。


なんとなく、日課になってしまっていて。

5階のパーラーで、レモネードなどを頂いて

くつろぐのが楽しみだったりもした。



今日は、1階の図書カウンターに

めぐがいないので

階段を昇って、2階の資料室、それから

3階の視聴覚室に昇ると


ルーフィが、彼、悪魔くんに気付いた



「あれ?なぜ今、こんなところに....」

ルーフィの感覚だと

悪魔くんは、みんな魔界か動物界に

散ってしまったはずで


そろそろ、魔界への扉を閉じる事になっていたのだ。



遠くからの気配だと、それはやはり

魔界の者だ。



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