第16話 キッチン・カー




わたしたちのおはなしを、めぐちゃんは

眠りながら、なんとなく聞こえていたらしくって。


夢を、みました。


ぼんやりと、お花畑みたいな

すてきなところで、楽しくしていて。


ふんわりとした、気持ちで

にこにことしている、そんな夢ーーー。


だったのですけど、その、お花畑から

おうちに帰って来ると。



もう、その道が

なくなってしまっていて。


それで、地図をさがしているーーー。


そんな、夢。







なんとなく、めぐちゃんは感じます。


.....そう、いつか、ルーフィさんは

戻ることに、なるのね.....。



旅人って、いつかは去ってしまう。




でも。好きになったり、いいなぁ、って思う気持ちは

自分では、どうしようもないもの。





かわいらしい、めぐちゃんの想いは...どうなるのでしょう?












次の朝、わたしは少しお寝坊して(w)。

目覚めたら、めぐちゃんはお部屋にいませんでした。


「あら」と、時計をみたら8時半。


ルーフィのお部屋を訪ねてみたら、彼もまだ寝てて(w)



わたしは、階段を下ってダイニングに行くと

おかあさん(ここでは、めぐの)は、「めぐは、学校へ行きました」って

にこにこしてたので(ちょち恥)。



すみません、とだけ挨拶して。

ルーフィは起きたかなー、って。



ねぼすけ魔法使いは、ようやく起きてきて「あーあ、おはようMeg。いい朝だ」(w)



「めぐちゃん、もう学校だって。」と、わたしが言うと



「...そうだろうね、もう9時近いし。キミの学校、朝早いね」なーんて。



のんきなイギリス人め(4w)。






「ちゃんと着替えて、顔洗っといでルーフィ」と、わたしが言うと


「あーい、ママ」なーんて、ルーフィはまだ寝ぼけてる(3w)。




わたしはママじゃない!っ。(6w)。



....でも、ルーフィのママってどんな人かしら。(?)。


そーぞーだと、ルーフィーに似てて、背が高くて

すらっとしてて。

お鼻が高くて。

ユーモアたっぷりの、ほがらかな人かな?

なーんて。



どこの時代の人かなぁ。そういえばルーフィーも魔法使いだから....。




......ルーフィも、あたしの時代の人じゃないから。

他の時代に、いつか、帰るかもしれないんだ.....。



ここは異世界、だけど。



めぐ、も、わたしも。


ルーフィから見ると、旅先の人....。なんだ。




ちょっと、わたしは胸騒ぎ。



ルーフィは、わたしのことを好きって言ってくれたけど

それは、ずっと前の事。



本当の、ルーフィが生まれ育った時代に

いつか帰るのかしら....。



そう考えると、めぐちゃんの気持が

なんとなく分かったような、そんな気もした。




.....めぐ.....せつないよね、さびしいよね.....。





「あーあ、これでいい、ママ」と、ルーフィはユーモアたっぷりで

にこにこしてるので。



そんな、シーリアスな気持も

吹っ飛んじゃうけど(4w)。




それでいいのかもね....。

いつか、別れる時が訪れるとしても。


その時までは、楽しくしていたいもの。






わたしたちだけで、ダイニングに行くと

お茶帽子をかぶった、ティー・ポットと


クロワッサンド。


クロワッサン、20cmくらいの大きいものだけど

三日月型の、甘くないほう。

三角のは、甘いの。


切れ目を入れて、レタスと、ハム。お好みでベーコンをローストしたもの。


それに、マスタードとか、オランデーズ。


オランデーズって言うくらいだから、オランダのソースなんだろうけど。


オランダで食べたことないもん(笑)。今度、行ってみよう。




それは、なかなかの美味。



サラダにトマトジュース、オレンジ。



「豪華なブレックファーストだね」と、ルーフィ。


「もう、ランチじゃない?これ。」と、わたし。


10時半だもん(笑)。


寝坊しちゃた。めぐは、もう学校で2時間目かなー。


「ハイスクールって、もいちど行ってみたいなー。」とわたし。

夢だけど。



「遅刻だね、これじゃ」と、ルーフィ(w)。



「うるさいわね、遅刻なんてしなかったわよ。なによ、寝てたくせに」と、わたし。

ほんとは、時々してたけど(笑)。



「んー、ここ、静かでよく寝られるし。ゆうべ、ちょっと夜更かしだったし、」

と、ルーフィ。



わたしは、ゆうべ、お屋根で話してた内容を思い出してた。


めぐちゃんの気持ち。わたしの気持ち。

ルーフィの気持ち。


みんな、しあわせになれる方法ってないのかなー。



時間と空間が、違うんだし。




ま、いま考えてもしかたないか....。




それで、ルーフィに渡した浴衣のことを思い出して



「あ、そうだ。おばあちゃんにお礼、言わないと」



「そうだね。」



ゆうべは遅くに、プレゼントしていただいたから。

お休みになられてると思って、ごあいさつは控えて...。



わたしは、クロワッサンドを、オーブントースターですこし

温めた。



なんたって、自分の家(笑)だから勝手が分かってて

B&Bに泊まるより楽。



ちょこっと塩味、バターの風味がふんわりして。


焦げないくらいに温めると、おいしい。


お弁当に持ってったりしたっけ、ハイスクールに。

冬、石炭のストーブであっためると、バターの香りで

おいしそう、って。


クラスメートのみんなも、喜んでたっけ。


女子高って、そういう時はいいな。






目玉焼き、フライド・エッグとは微妙に違う日本風。

油少なめ、ふわふわ。


これを、イギリスパンにはさんで、クロック・ムッシュ。

ハムといっしょに。


それも、おいしいね....。



ルーフィは、紅茶にミルクをいっぱい入れて。


冷たいミルクに、紅茶を入れると

ミルクっぽくならなくて、クリーミー。


紅茶好きっぽい頂き方、よく知ってるのはイギリスの人らしい。





「これ、図書館の5階で作ったら受けそうだね」と、ルーフィ。



あ、そっか。こういう家庭料理っぽいの、好き嫌いないし。

軽いし。



「キッチンカー、なんてのも楽しいかな」って、ルーフィが言うので


ちょっと、夢が広がっちゃう。



そういえば、サンジェルマンのホットドッグも


時々、キッチンカーで来てたっけ。


シトローエンで。



フランスだもんね....。





めぐとわたしと、ルーフィと。


そんな暮らしができたら、しあわせかしら...。なんて


夢がひろがっちゃった。


守護する者



「のんびりしていていいね」と、ルーフィ。


「田舎だもん。」と、わたし。


畑耕して、温泉行って。


ごはん食べて、寝て。


そんな暮らしだと、いらいらしないから

悪魔くんがくる、なんて気にしなくてもいいね。



「まあ、やっぱり都市生活って少しヘンなんだよ」と、ルーフィ。


「そうかも」と、わたし。




狭いところに、人がいっぱい。



そういうのが都市、だと思っていたから

それは、たしかにイライラするかもね。




おうちのそばに、畑があって。

ごはんたべて、畑行って。

帰って来て、寝て。


そんな生活だったら、ひとに会うこともないから

ぜーんぶ、思い通り。


しあわせかもしれないわ...。なーんて、思ったりもするのは

わたしが、カレッヂに行って、それから

お仕事してるから、かもしれない。



ハイスクールの頃なんて、そんな事思いもしなかったもん。




ブレックファースト・ランチ(3w)を楽しんで。


それから、わたしとルーフィは


おばあちゃんに、浴衣のお礼をしなきゃ、って

畑へ行ってみた。



正直、わたしにとっては

長く一緒に住んでいるおばあちゃん(と、おんなじだけど

ここは異世界なので、違うひと)なんだけど。



お庭から、サンダルで

とっとこと...と、わたしはトマト畑の方へ歩いた。


ルーフィには、ちょっとちいちゃいサンダルで

かかとが出ちゃって、なんとなくユーモラス。



「ガールフレンドのとこに泊まった男の子、みたい」と

わたしが笑うと、ルーフィは涼しい顔で


「その通りじゃない」と、言う。



「そうだけど、そうじゃなくて....。」と、わたしは笑いの意味を説明

するのも変なので、黙っていた。



「ああ、女の子とね。夜、愛し合うってこと?」と

あけすけにルーフィが言うので、わたしは恥ずかしくなった(*^。^*)



「そんなにはっきりいわないの!」と、わたしが言うと


ルーフィは「キミが言ったんじゃん」と、平気な顔。



まあ、イギリス人ってそうなのかなぁ。ルーフィは魔法使いだし。

見た目青年っぽいけど、ほんとの年齢はおじーさんかも(笑)。




でも。


そんなことを連想すると、めぐ、とわたしと、ルーフィ。

3人でなかよく暮らすなんて、夢っぽいなぁ、とわたしは思ったり。



ふつう、おとうさんとおかあさんになって。こどもが生まれて。


おかあさんふたり、って、ちょっと不思議だもん(8w)。



まあ、めぐ、とわたし、は、生きてる時空が違う

同じひと。



でも、めぐ、は嫌だろな、そんなの。



わたしも嫌(笑)。




でもそれは、わたしたちがそういう家族、に慣れているからで

アラブに行けば、お父さんがひとりでお母さん数人、なんてのも自然だから


たぶん、慣れ、なのかな。



不思議。



生まれつきそういうものだと思っていた家族の形が

地域で違う、とか.....。



歩きながら、そんなことを考えてたら、ルーフィが「静かだね」と言うので


「わたしは、いつもうるさいみたいね」と、言うと



「そうそう、Megらしいね。生き生きしてて。」と、ルーフィはにこにこ。


「家族、ってものを文化的に考えてたの」と、わたしが言うと


「うん、さすがは作家さんだなー。次のレポートに書いてみたら」と

ルーフィは軽快でたのしげ。




おばあちゃんは、さて、どこかな.....。


トマト畑に、麦畑。

きゅうりに、とうもろこし、スイカ。


西洋種のウォーター・メロンより大きい、アジア種のスイカは

おばあちゃんの夏の楽しみ。




農機具小屋も、ログハウス仕上げだけど


温泉のお風呂よりは、かなり旧い。



年季が入っていて、煤けているけれど

そこが、なんとなくわたしは、気に入っている。



おじいちゃんが建てた、ので

思い出もいっぱいの、農機具小屋には

トラクターもあったりするけれど

今は、乗る人もいない。



「おばあちゃん!」と、小屋で

収穫したきゅうりをまとめていたおばあちゃんを

わたしは見つけて。



思わず、そう言って。   あ、このおばあちゃんは

めぐのおばあちゃんだった(5w)と


気がついて「ごめんなさい、お世話になっています。

浴衣をありがとうございました」と言うと



おばあちゃんは、にっこりして「いいの。あなたは、めぐ、の

お姉さんだと思ってるから」と。



ルーフィは「僕にまで、ありがとうございます」と。



おばあちゃんは「うんうん、ルーフィさんね。めぐ、を

可愛がってあげてね。お兄ちゃんの代わりが出来て

喜んでるわ。甘えん坊だもの。あの子」





....ちょっと、お兄ちゃんとは違うけど(w)甘えっ子は、そうかも。



わたしは、甘えん坊だったのかしら(3w)。


そうかもしれないわ。



「それにしても、和裁、お達者なんですね」と、ルーフィが尋ねると



おばあちゃんは、晴れた空と白い雲を見上げて

「はい。わたしは、旅人でしたから」と、意外な事をおばあちゃんは

告げた。




.....旅人。



わたしたちみたいに、時間旅行をするのかしら....。と

一瞬思ったけど。



まさか、ね.....。



「どちらに旅をなさったんですか?」と

ルーフィが言うと



おばあちゃんは「いろいろ、行きました。遠いところ、近いところ....。

高いところも」と、おもしろい表現をした。


高いところ.....。

エベレストかな?(w)とか。


登山家だったのかしら。なんて思ったけど



「めぐは、とってもデリケートな子だから。

幼い頃から、怖いこと、とか、

あぶないこと、とかを

先まわりして避けてるような、おもしろい子だったの。

あの子が、家に人を呼ぶ、って

よっぽど気に入ったのね、あなたたちが.....。」


おばあちゃんは、作業の手を休めて

わたしたちにガーデン・チェアを薦め


クワス、と言う

北欧に伝わる炭酸のお茶で、おもてなし。


すこし甘めの紅茶、スパークリングして

刺激が心地よかった。



「おいしいです」と、ルーフィが言うと



「イギリスにもあるでしょう」と。



「はい、よくご存知ですね」と、ルーフィはにこにこ。



ヨーグルトもあるのよ、と

農機具小屋の隣にある、離れで

作っているヨーグルト、それとチーズを

もってきたり(笑)。



「そうそう、めぐの話だと

悪魔が憑きにくいように、お考えのようですね。」と

おばあちゃんは、穏やかな語り口のまま、ハードな話を

いきなり始めた。


ルーフィは、すこし真面目顔で「はい。」



おばあちゃんも、ちょっとシーリアスなかんじで

「すこし、難しいわね....。めぐ、のRularも

それを望んでいるのでしょうけれど」と、わからない言葉で

おばあちゃんは語った。




「rularってなに?」と、わたしは聞くと


ルーフィが「守護する者、つまり、めぐちゃんに宿ってる天使さんのこと」




おばあちゃんは、天使さんを知っていた.....!?


善悪・基準



おばあちゃんは、かわらない、おだやかな語り口で


「ヨーグルトもね、クワスもね。

細菌が、牛乳やお砂糖を食べて

酸や、炭酸を作るのね。


それが、人間が食べて平気だから

重宝されているのね。


ヨーグルトを作る時に、入れ物を殺菌、するのね。


腐ってしまうから。


それで、ヨーグルトの菌を入れる。



おもしろいわね、どちらも細菌なのに...。」と


おばあちゃんは、意外に客観的で

ルーフィみたいな、科学者っぽい事を言った。



「はい、生物ですね、どちらも。」と、ルーフィは言った。




おばあちゃんは、頷いて


「そう。ひとに悪魔くんが憑く、と言うのと

天使さんが宿る、と言うのと

似てるわね....。それが、ひとにとって

良いか、そうでないか。


それだけ。


天使さんも、悪魔くんも

生きるために、そうしているのね。」と、

おばあちゃんは、ふんわりと、そんなことを言った。




「悪魔くんは、ひとのエネルギーを食べている、って...。」

わたしは、事実を反芻した。


している事が、人間にとって良くないと言うだけで

魔界では、それが普通なこと、なんでしょうね...。





「そう、ひとの良くないエネルギーを食べてくれるだけなら

いいのね。

そのために、ひとを争わせるのは、良くない事だけど。」と

おばあちゃんは、そう言って


「でも、それを止めさせるのは、難しいの。

人間も、争うのがもともと好きな人もいるのね。

そういう人に憑いて、エネルギーを食べるだけにして、と

願っているんだけど....。」と、おばあちゃんは言う。



不思議に達観した言葉。

魔界と天界に通じているような経験から来ていて。


おばあちゃん、は....。お使い様なのかしら。


神様の。




「お隣町に住む、気術使いの方もね、

東洋からいらして、この世界を守ろうと

なさっているの。」と、おばあちゃんは

わたしとルーフィが、昨日会ってきた

あの人の事、を言った。



「....それで、めぐちゃんにも天使さんが....。」と、ルーフィがつぶやく。



おばあちゃんは、黙っていたけれど....。そうなんだろう。




たぶん、わたしが

過去に呼ばれたような気がして、いつものカフェテラスから

飛ばされてきてしまったのも、偶然じゃなかった、のね...。



「ルーフィさん」と、おばあちゃんは彼の名を呼び


「はい」と、彼は答える。



「あなたは、魔法使いだから、魔界の人にも通用する

魔力を持っているわ。


魔界を司る者に、いまの、わたしたちの意思を

伝えてほしいの。


わたしたちは、魔界の人と直接会う事ができないから...。」



「...それで、彼らはわかってくれるでしょうか?」と、ルーフィは

真面目な表情で。




おばあちゃんは、すこし考えて「わたしにも、それは分からないわ。

でも、魔界を司る人は、天界を司る者と

同じくらい、魔界を大切に思ってるはず。


これまで長い間、3つの世界が蟠りなかったのは

彼らのおかげ、だもの。



今、どうしてこの世界が乱れてるのか....。それだけでも、分かれば。」



と、重い命題をルーフィに伝えた。











おばあちゃんの小屋から戻る、畑の中でルーフィは


「どーしよっかなー。」なんて

いつもの、軽い感じに戻って(笑)。



わたしは、ちょっとずっこけて(2w)

「なーによ、ヒーローみたいでかっこいいかと思えばぁ」と

ルーフィに向き直って。


見上げたルーフィの顔は、ちょっと緊張っぽい。



「ルーフィ?」疑問をわたしは感じる。



「...うん...。魔界を司る、って。魔王じゃない。

東洋で言えば閻魔大王だよね。

そんな人のところなんて、行きたくないよ。

帰ってこれないかもしれないし。」と、

ルーフィにしては、弱気な言葉が聞こえた。



「僕のご主人様なら、別だけど......。」


正直な気持



「ルーフィのご主人様って、そんなにすごい人なの?」

と、わたしは驚きを隠せなかった。


そういえば、絶海の古城に一人で篭っていて

長く、眠りについたまま。


そんな魔法を自ら掛けられる人、は

かなりの魔力を持っているのだろう。





「ご主人様は、来てくれるかしら。」と

わたしはちょっと心配した。



「そっか....。じゃ、とりあえず

魔王に手紙でも書いてみるか。」と

ルーフィは軽く言ったので、

わたしは、サンダルのまま転びそうになった(w)。


でも、めぐの時とちがって

ルーフィはわたしの肩を支えたので

ボインタッチ事故(2w)は、なかった。



「なーによぉ、ルーフィ、やっぱ、めぐのバスと、

わざとさわったんでしょう!」と、わたし。



「違うちがう、キミの方が背が高いし。

僕のそばにいたから」と、ルーフィは自己弁護する(w)


そのくらい、真面目に戦ってよ、ヒーロー(笑)。








めぐの学校が終わるくらいの時間になったので

わたしたちは、図書館に行った。


何もかわっていないような、第一図書室のカウンターで

めぐは、にこやかに貸し出し係をしていた。



わたしたちの姿を見つけて、にっこりと目礼。


言葉を交わさないのは、静かにしなくてはいけない

図書館だから。



それもあるけど、「ルーフィが好き」なんて

わたしに言っちゃって。

それで、ルーフィも一緒だもん。


ちょっと、ぎこちないよね、それは。



さらりの前髪に隠れた瞳は、ちょっと熱っぽく潤んでるみたい。

ほっぺも赤くて、かわいらしい。




うーん、強敵め(5w)。





吹き抜けのホールから、斜めのお日さまが射しこんで

ステンドグラスがきれい。


図書館っていいな、なんとなく好き。



インクの匂いとか、おちついた雰囲気とか。





カウンターに並んでいるひとに、見覚えのある後姿を見かけた。


あの、イライラおじさんだった。

よーく、集中してみると

頭の上に、悪魔くんの駆け出しくん(w)が

憑こうかなー、なんて、ゆらゆらしてるのが見えた。




ルーフィは、いつかの茶色の小瓶を出して

ひょい、とコルク栓を開けて


幽霊みたいな悪魔くんを、吸い込んだ。




そのまま、3階のシアターへ。


吹き抜けにある階段で昇って


開いていた小ホールに入った。


入り口のドアを閉じ、空中に魔方陣を書いて


その真ん中に、サンスクリット文字のような

メッセージらしきものを書いた。


それから、茶色の小瓶の栓を抜き



「こいつを、魔王に届けてくれ」と、ひとこと。



幽霊みたいな悪魔くんは、おばあちゃんの言葉の後だと

不気味ではあるけれど、怖い、とは感じなかった。





「お手紙?」と、わたしが尋ねると


ルーフィは「うん」と言って....。



「なーんとなく、予感だけど。

めぐちゃんに天使さんが宿ったのって、偶然なのかなぁ....。」



と、ちょっと気になる事を、彼は述べて

コルク栓を閉じた。








そのあとは、何も起こらずに

めぐのアルバイトは、順調に進んだ。



わたしたちが3階に来たので、めぐ、も

3階の音楽ルームに来て、CDやDVDを整理した。


手際よく分類ができるのは、図書と違って

コード番号が無くて、アーチスト名の順番で

並べられてるから。


誰にでも分かるアルファベットだから、簡単に

並べ替えが出来るの。



本だって、そんなに厳密じゃなくって

だいたい、分類で書架が決まるけど

その後は、著者名・本の題名で並べる。


分類コードを暗記しちゃえばいいのだけど

それは、なかなか難しい。



書架と、分類コードが一致してればね...。と

わたしは、前からそう思っていたけど

なかなか、蔵書の数と書架の分類が合わないし

良く、貸し出される本は、低書架と言って

入り口に近いところに置かれるのが普通。



「本も、見出しを書架に貼っておけばいいのにね。

イライラおじさんもひと目で分かるように」と、わたしが言うと



「あ、そうですね!こんど、作ってみますー。」と、めぐ。


そんな時は元気なんだけど、ちょっと表情は沈みがち....。




わたしは、ちょっと気になった。


ルーフィを好き、って思う気持ちは、たぶん、めぐ本人の気持ちだと

思うけど....。


宿ってる天使さんは、どう感じてるのだろう。


魔法使い、って

魔界に近いひと、に恋する、のを....。



恋って理屈じゃない。


だから、心配してもしょうがないけど、さ....。





どんかん魔法使いさんが、気を使って

あげるといいんだけどなー。



でも、わたしが居るとそうもできないか、と思って


わたしは、ちょっと、CDを聞きたい、とか言って


アーマッド・ジャマールの「Wish Upon a star」とかを

見かけたので、それを持って


ひとり用カプセルで、音楽を聴くふりをして

席を外した。





めぐが、壁一面に並んでいるCDラックに

カートから、CDを並べていく。



ばらばらになっていたCDを、最初にアルファベット順にして。

そうすると楽だ、と

覚えたみたい。




ひと気の少ないウィークディの図書館、視聴覚ルームは

格別、静かだ。



ひとの流れが途切れた。



ルーフィは、ミニシアターで上映されている

アニメ映画(笑)をひとりで見てくるって

とっとこ、ミニシアターへ。



10人くらいしか入れない、小部屋が

このフロアにいくつもあり、そのひとつへ。




CDの整理をしていた、めぐは

手を止めて、その、ルーフィのいる

部屋、へ....。





わたしは、ちょっと気になったけど。

でも、ふたりっきりで話す機会を作ったんだから、と

見守る事にした。



少しして、めぐが部屋から出てきた。

遠くて、表情はわからないけど

特に、変わった様子もない。




わたしは、やっぱり気になって(笑)

カプセルから出た。


アーマッド・ジャマールが「Dejavu」を

弾いていた。






ミニ・シアターの防音ドアを開けると

大きな音で、「トムとジェリー」の吹き替え盤を

ルーフィはひとりで見て、笑っていた。



?(2w)



わたしに気づいて、ルーフィは「あ、ああ、これおもしろいね。」



「さっき、めぐちゃん来たでしょ。何話したの?」と、わたし。



ルーフィは、画面を見たまま「うん、好きだって言われた。」



ちょっと、想像してたけど「それで?」と、わたしは

ちょっとイライラした(笑)

悪魔くんが憑いたのかしら。こんな時の女って悪魔にもなるかも(笑)。




「それでって?」と、ルーフィは

わたしの方を見た。

ちょっと、シーリアスな顔だったので、そのことに

わたしは安堵した。



真面目に考えてあげてたのね。




「めぐへの答え。」って、焦燥感に駆られて、わたし。


少し声が大きかったけど、トムとジェリーが大きな音だったから

良かった。



外に聞こえなくて。



「そんな事、決められないもの....。めぐちゃんは、かわいいけど。

キミの3年前、だし。こんなヘンテコな恋って、方程式なんて無いよ。

だから....。」



「だから?」



「めぐちゃんを大切に、思ってるよ、でも、もうひとりのね、Megも

大切さ。だって、同じ人なんだもん。」って、そう言ったとルーフィ。




「.....。」わたしも、返す言葉が見つからなかった。




こういうお話、聞いたことないもの(笑)。




「それに、いつか、僕らは帰らなくちゃいけない、って

お屋根で話してたのを、めぐちゃんは知ってたみたいで。

それでも、好きって気持ちはどうしようもなかったんだろうな。」

って、ルーフィは少し、複雑な気持を告げた。






素直な気持



めぐは、思い出していた。


はじめての、恋。


きもちを、伝えたい....。


それだけで、ルーフィさんに。



でも、いわない方がよかった....。






かえって、彼を困惑させてしまったような

そんな気、もする。


でも、言ってしまいたかった。








巻き戻し再生のように、情景を思い出す。






きのう、から?、ううん、ずっと前から。

夢見てたような、そんな気がするの。


遠くから、あたしの理想の人が

空駆けて、来てくれる。


そんな夢、ずっと見てた。



それが、ルーフィさん...?




恥ずかしくって、顔、見られないよ....。




お家であってても、苦しくて....。

気持だけでも、お話して。


楽になりたかったの。




なので、図書館にルーフィさんが来た時に

おはなしできないかな、と、思って。



偶然、シアターにルーフィさんがひとりで入って。



わたし、シアターへ。






ドアを開いて。

静かに閉じて。




ルーフィさんは「トムとジェリー」を見て

楽しそうだった。


でも、わたしが来た事に気づいて。



「やあ、すこし、見てく?」

なんて、やさしく言ってくれて。



ちかくに行くだけでも、どきどきして。

恥ずかしくって。


こわれそうになっちゃう....。



言うんだ、言うんだ....。って、心の中で言葉が踊ってて。



一番後ろの席、左の角のルーフィさん。



ひとりだけ。だーれもいないシアター。



お部屋は明るいけど。




ひとことだけでいい。


そう思っても、ひざがふるえて....。


言葉にならない。




「....どうしたの、めぐちゃん....。」と、ルーフィさんは

やさしく、わたしに声を掛けてくれて。


なにかに、気づかれたみたい....。




「あ、あの...ルーフィさん?」声、ふるえてる。

でも、言わないと....!



「......す....き........。」




手紙



そんな、めぐの気持ちも

どう解決のしようも、ない。


それは、恋、って


時空を飛び越えた別次元から来た

3年後の自分がライバル(笑)


なんて、めんどくさい話には

対応できないから、で



だから、ルーフィにも

どうしようも無かった。



シアターで、トムとジェリーの映画が終わって


静かになった空間で

「それ、どうしようもないもの。

いつか、僕は帰って行かないとならないんだし」と

ルーフィ。



「どこへ帰るの?ご主人様のところ?」と

わたしは、気になっていた事を聞いた。



「いや、それは別にいいのさ。第一200年眠ったまま

なんだから、そこに行っても仕方ないし。

それより、今居るここは異空間だから、元の

空間に戻るべき、だと思う」と、ルーフィ。




「それじゃ、めぐちゃんの気持ちは...」




「どうしようもないね。最初からそうだもの。

それをめぐちゃんも知ってて、それでも

気持ちを伝えたかったんだろう。

そういうのって、理屈じゃないから」とルーフィ。




そっかぁ...めぐちゃんも、せつないね.....。





ふと、わたしはさっきの魔王への手紙を

思い出し


「あれ、なんて書いたの?」と聞いたので



「いきなり飛ぶなぁ(笑)まったく」と、ルーフィは

笑った。




それから


「魔界の住宅事情はお察し致します。悪魔くんの中から、

動物界へ戻らせるものを増やす為に、提案がございます。」と、ルーフィ。



「なんか、営業マンみたいね」と、わたし。



「元、営業マン、。」と、ルーフィは

テレビで見た台詞を真似していうので、わたしは笑った。


どんな時でも、ユーモアを忘れないね。





「御配下の悪魔くんたちと同様、人間界も

住宅事情が悪く、人が増えすぎたので

争いが絶えないのです。魔界の方々に

ご協力をお願いして、闘争エネルギーを

全部食べちゃってほしいのです。

闘争を煽らなくても、十分食べ物はある筈ですから。」と、ルーフィは楽しそうに言った。



「それで?」



「つきましては、人間界の闘争的なエネルギーを

食べてくれた悪魔様方々を、優先的に

動物界に転生して頂き、魔界、人間界

双方の共存を図りたく思う所存であります」と、ルーフィ。




「なんだか、数合わせの連立与党みたい」と

わたしは笑った。



「そういうなって。面白いアイデアだと思わない?」と

ルーフィ。



それで、政権奪取(笑)したら

金融緩和して消費税上げる政治家、みたいな(笑)



へんてこな手紙、まじめに読むだろうかなぁ、魔王って

アジアじゃ閻魔大王って言われてる、こわーいお方じゃぁ...

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