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第8話 もうひとりの「わたし」


優しいな、と

わたしは、ルーフィのご主人のことを

そう思った。



どこか冷たい人、って

そんな風に誤解していた。



そんな自分が、また恥ずかしくなって。

「あの、わたし、何かできる事ないでしょうか。

ルーフィを助けに行きたいんです!」「そうだね....どうしたらいい、と思う?」




ご主人は、静かにそう告げた。




そう聞かれて、ちょっと困った。


時間量子の流れ、それに触れてはならないものに

ルーフィは飛び込んで、そして消えた。

強いエネルギーが弾けて,飛んだ。














...時間の流れ、次元。


「ルーフィは、どこか違う次元に行ったのでしょうか。」


と、わたしは呟くように、彼に尋ねた。



「そうだね、君が念じてみれば、答えは見つかる筈。

いつも、そうだったんじゃないかな?」




ルーフィのご主人はにっこり。


その瞬間!



spark☆!















わたしは、思いがけずに

どこかに飛ばされた。


さいしょに、昔のフランスに飛ばされた時みたいに。


でも、こんどはルーフィはいなくて

わたしひとりだったから


ちょっと怖かった。



こころの中で、ルーフィの姿を思い浮かべた。


きっと、会えるでしょう、そう思って。












つよいひかりが歪んでいるような

川の流れを見下ろしながら


暗い空間を飛んでた。


そんな感じ。



よく見ると、その光の川は

ちいさな、つぶつぶだった。














..そう、ルーフィが言ってた。


「時間量子」。


その川なんでしょう。




ぜったいに、触れてはいけないと彼は言ったのに。


わたしの、ぼんやりのせいで。



ルーフィは、どこかに飛んでいってしまった。



かなしくなった。


泣きたいわけじゃないのに、涙が頬を伝った。














恥ずかしくなった。



ちいさな子みたいに、泣いていて。


わたしのせいでルーフィが怖い事にあったのに

ルーフィのご主人様を怒ったり。



わたしって、なんてひどい子なんだろうと


思い起こすと、とても恥ずかしくなった。


顔があかくなった。「そんなことないよ、君はとってもすてきさ、Meg」


びっくりしたわたしを、背中からふわりと抱きとめてくれた


温もりにふりむくと、空間を漂いながらルーフィはWink。




「ルーフィ!無事だったの。」



わたしは、振りかえりながらルーフィを見た。


夢じゃない。幻想でもない。


やさしく抱きとめてくれている彼。


涙がぽろぽろ、とこぼれた。



どうしてかわからなかったけど、泣いてた。













「....初めて。」つぶやいたわたし。



「なに?」と、ルーフィ。



「....だって、わたしの名前、呼んでくれたの。」



「ああ、そうか、ははは。君っていつも、なんか面白いなあ」


って、ルーフィはまるで、いつもの感じでそう言うの。



うれしい、よかった、けど、なんとなく



どこか抜けてるみたいで。










そんなわたしたち。いつでも、ずっと、こうならいいな。


なんて、思った、自然に。



「名前で呼んでくれて。嬉しい。」

わたし、なんとなくどきどきしてる。


どうしてか、ルーフィに名前を呼ばれると


それだけでうれしくなれる。


だって、今までは...










「君」とか「キミ」、「あの」とか


そんな感じだった。




Meg,Mergarett,だから。


ありふれた花の名前だけど、かわいいお花だし

ちょっと気に入っている。


だけど、ルーフィに呼ばれるとなんか、うれしい。どうして?



どうして、いままでは呼んでくれなかったの?って

聞いてみたい、けど


聞かないほうがいいような...気もする。「そっか、君はお花の名前だったんだね」と

ルーフィはわたしのそばで、ささやく。



急に、なんとなく恥ずかしくなって


わたしは、ちょっとルーフィから離れた。



ごめんなさい...って言った、けど


聞こえたかな、ちいさな声で。



頬が熱い。



どうしてだろ、それまで平気でルーフィのそばに居たのに


急に。


なんか、恥ずかしい。



わたしって...変な子だ。



そう思うと、もっと恥ずかしくなってくる。



ルーフィは、にこにこ。


どうしたの、Meg?って。



ほほえみ。


うれしい。


ずっと、こうしていたい。






時間を忘れてしまいそう。




....そうなんだ。




時間って、忘れること、できるんだもの....



ゆったりとした気持ちでいる、って


こういうことなんだ。



わたしは、ルーフィのご主人さまの言ったことが

わかったような気がした。





時間どろぼう、って喩えられたような

そういう人たちって。



わたしは思った。




なにかに夢中になったり、ひとを好きになったり。



そういう事にめぐりあえば.....。



イメージしてごらん、とジョン・レノンは言った。


はっきりとは分からないけど、愛をイメージして

彼は、ふんわりとした時間を思い出して、と言ったのかもしれない。



そんなふうに思った。




「あのね、ルーフィ」



彼は、微笑みながら、どうしたの?と答える。



視線を交わす、それだけでしあわせ。


逃げ出したくなっちゃう。


相反、アン・ヴィヴァレント。なんて

学校で習ったような心理用語を


こころの中で反芻しているわたし。


彼は、ただ微笑むだけ。



「そう!」


唐突に閃いたわたしを、ルーフィは予想していたように


にこにこと笑いながら。





「こんな気持ち、それが魔法なんだわ、それを忘れたくなくて、

みんな、絵や小説や音楽...そういう形で伝えるの。



それも、魔法なのね。」



ルーフィは、やさしくうなづく。



だから、みんな。


それを大切にするひとたちって、そういう時間を大切にするんだ。



時間どろぼうさんに盗まれるないように。そんな気持ちを。







「そう、みんな、そうして

自然な時間を思い出してもらおうとして、作品に願いを込めたり」


ルーフィは、ささやくように。




....いつも、そう。恋していたい。



でも、いつかは忘れちゃう時がくるのかしら。



想像すると、ちょっと怖いような。

そんな日が来てほしくないって思う。






でも、わたしもルーフィに会う前は

やっぱり時々は時間に追われたような気になったりして


早足になったり、早口になったり。




そんな時、ちょっとしたきっかけで

ゆったりとした時間を取り戻せたとき、ああ、わたしって

愚かだったのね....



そう思うときもあった。



そんなきっかけが、みんなにあるといいなって思う。

ジョン・レノンも、ミシェル・ポルナレフも。


そんなふうに思ったのかなって、ちょっと思った。

ルーフィは、囁く。


「ここは、異世界。そう、ご主人様の夢が存在する、4次元の世界に僕らは居るんだ」



そう、わたしは忘れていた。


闇の中に、時間量子、と言う粒々が流れていて。


光る、粒々で。


時折、スピードが早い粒々があったり。

流れに淀みがあったり。



「それが、4次元の証。時間量子の早いものは、それだけ時間を逆転して進んでる事になるんだ。ニュートリノが光の速度を超えた、と3次元の世界で話題になったように」

ルーフィは、科学的に答える。



そうなんだ、と

わたしは思う。


ここへ来て解った事は、ご主人様は未来を悲観して眠りに入った、と言う事。


眠りを解く鍵は、人々が

自然な時間の流れを思い出してくれること。


今までのタイム・トラベラーたちは音楽や映画、小説でそれを形にしたんでしょう。


優しい気持ちを思い出せば、いつか、自然な時間を思い出すでしょう、と。



ルーフィは、真っすぐな瞳で「僕らは、それを過去や未来へ飛んで。みんなに優しい気持ちを思い出してもらえば、それでいいのさ」


それが、鍵?になるのでしょうか。


今はわからないけど、そうしてみよう。


わたしは、ルーフィの言葉に深く頷いた。時間旅行、長かったようでこちらの世界では夢の一瞬。


気づくと、いつもの月曜。企画会議に出席するため、お家から坂を降りて。

路面電車に乗って、編集部のある古いビルに、わたしは向かっている。


滞りなく企画会議は進み、わたしは、こないだみたいにカフェに。


と、編集長さんにまた、出会う。


「やあ、Meg,ごきげんよう」と、編集長さんは、にこにこ。


よく見ると、Roofyそっくりのぬいぐるみ(と言うか、中にRoofyがいない、ふつうの)を持って、にこにこしている。

ほっぺをふにふに、とつまんで

喜んでたり。


Roofyは、ささやく「なんとなく気分わるいなぁ、僕じゃないって分かってても」


わたしは、なんだか可笑しくなって。

笑ってしまった。


きょうも、いいお天気。



「それでねぇ、キミの企画」


編集長さんは、おどけているのか

ふつうなのかわからない表情で、お仕事の話をする。



ちょっと気づかなかったけど、

こないだ話した、SF、って事にした時間旅行のお話コラムのこと、と分かって

「はい、あの企画ですね」



編集長は、にこにこしながら

「早速、飛んで見てね」





「は?」

わたしは、あまりに突飛な

編集長の言葉に戸惑った。



編集長は、ふつうに「うん、時間旅行記者、としてライティングしてね。旅費、経費かかんなくていいでしょう」


なんて、ヘンな理解の仕方をされてしまった。


ので、時間旅行は仕事(?)に

なってしまう事になるけど....


経費どうやって落ちる?(笑)「でも、現地までの旅費は落としてくださいね」

と、わたしはにっこり。


編集長さんは、わかったわかった、と

ニコニコ。


それなら、どこだって行く!


「でもさぁ」ぬいぐるみのルーフィは呟く。


「過去や未来に行ってお金、使えないでしょ」


現実的に、それは無理(笑)

魔法でなんとかならないの?(笑)


彼は、女の子だなぁ、と

ため息(笑)。


「時間を飛び越えちゃったら、通貨だって変わってるかもしれないし。そもそもお金使う必要あるのかなぁ」って。


そっか。

お買い物したって、持って帰れないな(笑)。

でも、美味しいもの食べたりしたいし...(笑)


ぬいぐるみの格好で、ルーフィは、やれやれ。と腕組みをしてた。



不思議な縁で、こういう事になって。


時間を旅する事になった。

とりあえず過去の人々が、時間旅行をしてた、って事が分かれば。

わたしたちの仲間かもしれないし。




でも、どこに行ったらいいんだろ、って

わたしは思う。



ルーフィは、うんうん、と頷く、でも

ぬいぐるみの格好のままなので、なんとなく滑稽で

わたしは微笑んでしまう。

魔法を解くと、あのカッコイイ彼になるんだけどなぁ。

「どうして、見られたら困るの?」



それは、お約束だからさ、と(笑)ルーフィは笑う。


お約束、まあ、プロトコールなんて言葉だと馴染めるかな、と付け加えて。




コンピューターの世界の人にお話を伺ったりすると、そういう言葉を口にしたりする。


コンピューター同士は約束事で動いている。




そういう事なのだそうだ。


機械の、未来的な通信なのに

意外と、昔ながらの約束事、なんて言葉が出て来るのは

ちょっとおもしろい。



人間同士はけっこういいかげんで

約束事を守ると言うよりは、約束事を上手く応用している、そんな感じになっていると思う。


わたしだって、取材費用を編集長さんに、さっき言ったみたいに

余計に貰ったりする。

それが当たり前だし、人間同士の約束ってそんなものだと思う。


魔法使いさんそうなのかなぁ。



ルーフィに、聞いて見ようとすると

彼は、それに答えようとする。


「魔法使い同士は、掟、って言うのかな。自然に守るね。元々魔法って微妙なものだから、心に乱れがあると使えなくなったりするんだ。だから掟破り、なんて事すると魔法に歪みが出たりするんだ。」




ふうん、と わたしは

解ったような、そうでないような気持ちで。


「恋すると、勉強が出来なくなったりするみたいな感じかなぁ」なんて、ふと思って。



ルーフィは、楽しそうに笑顔で「そうかもしれないね」と言い

ショパンが仔犬のワルツを書いた時、隣に恋の存在があって。だから軽快で嬉しそうに聞こえるね、と話を継いだ。



わたしは思う。そういえば、ショパンのお友達のシューマン、クララを奥様になさって。

いい曲を書くんだけど。


でも、ブラームスさんはクララに恋していて。

その気持ちが、曲に現れてるみたいな、そんな気がする。


約束事を守らないと、すっきりしないから

魔法使いさんは、魔法が乱れたりする。

音楽家さんは、心の動きが曲に現れる。


すっきりしないと、ダメかなやっぱり(笑)なんて。



「ねぇ、ルーフィ」

声に出して言ってみたくて。


周りに誰もいないのをたしかめてから。


何?と

彼は、爽やかな声で。

でも、見た目がぬいぐるみのままなので

ちょっと、そのギャップで

笑ってしまう。



何を笑ってるのさ、って

彼はちょっと不満げに(笑)。



早く旅に出ようよ、このスタイルは疲れるのさ、なんて。


「どこに行くの?」と

わたしは、ルーフィに尋ねる。



うんうん、と

彼は頷く。

ぬいぐるみのまんまなので

可笑しくって笑っちゃう。



あんまり笑ってると、不審人物って思われるよ、って彼は言う。



でも、可笑しいんだもの。


ちっちゃな子が、おままごとしてて

お人形さんに話かけて、笑ってたりするけど

あんな感じに見えるんじゃないかしら。



「それは可愛い子供だからで、大人の君がそうしてたら変だよ」と

彼は言う。




わたしは大人だったのね(笑)。



そんな事、思った事もなかった。


ハイスクールくらいから

ずっと、気持ちは変わってない。



でも、周りから見るとそうなのね。



「うん」と

彼は、さっきみたいに空間に円を描いた。

半透明のスクリーンみたいに、どこかからの視点のわたしが映る。


真後ろとか、斜めからとか。


カメラみたいに。



彼が、ひょい、と

それをスライドさせると

同じアングルで、ハイスクールの頃のわたしが映る。


「すごーい、どうなってるの」と、思わず声にしちゃった。


彼は、静かに静かに、と言った。



魔法だもの。



見比べると、やっぱり違ってる。



大人っぽくなってるのかな、淋しいような、怖いような...


ふわり



「おとなっぽくなるって、いい事なのかなー」

と、わたしがつぶやく。ルーフィは、にこにこ。


「いいと思うよ。思わなくてもなっちゃうし。それは

仕方ないけど、すてきな時を過ごしていれば

すてきなレディになる、と思うよ」


英語じゃないけど、なーんとなくスマートなのは

やっぱりイギリス、紳士の国だからかしらって

わたしは、そんな彼をすてきに思う。

でも、言葉には出せなくて、

思ってるだけなんだけど。


そんなとこは、ハイスクールの頃と

変わっていない、って思う。


でも、なんとなく、少しづつ

変わっていくのかな。



どんなふうに?


ぼーんやり、イメージしていたら。

気持ちがふんわりしてきて、ふわふわ

浮いてるみたいな気持ちになった、午後の

カフェテラス。



「あ、ほんとに浮いてるね」と、ルーフィが言うので


あれ?と思うと


白いキャストのテーブルが、遠く感じた。



空間を飛び越えるんだわ、また.....。



でも、ルーフィと一緒なら、大丈夫!




flyin'.........



一瞬、のようでもあったし、長い時間みたいだったかも

しれないけど


気付くと、マロニエの小径。そこは、わたしの

通っていたハイスクール。



静かな、丘にある学校。

女子校だったんで、気楽だったけど(笑)。


男の子って、ちょっと怖いと思ってた

わたしには、ちょうど良かった。



「どうして、ここへ?」モノ・ローグ。



トート・バッグの中にいたルーフィは

「さあ、来たかったんじゃない?」



来たかった...?まさか。



携帯電話を見ると「圏外」。



また、時間を飛び越えたんだわ.....。


違う世界



思い出の中の学校と、どことなく違う。

そんな気もしたけれど、でも、そんなものかしら。


マロニエの並木も、チャペルも。

レンガの壁も、一緒なんだけど....。


赤いおやねのスクール・バス、泉のある中庭や

石垣のある裏庭の向こうには、ずっとずっと平原が続いてて。


ピーター・ラビットみたいな野うさぎさんが

ときどき、あそんでたり。


キャベツ畑もある。


「ほんとに、ここかなぁ....。」って、わたしがつぶやくと


ルーフィは「ああ、思い出と違う、って事かなぁ。そうかもしれない、けど。」



制服、なんて無いから

みんな、好きな服着てた。


今は、何時頃かな?と、時計台を見ると、2時。


そろそろ、お庭そうじの時間かしら。


そう思ってみていたら、ぱらぱら、と

生徒たちが降りてきた。


タータンのスカートの子もいたり、ジーンズの子もいたり。

女の子ばっかりなので、気は使わなくてよかったけど。



マロニエの並木から、それを眺めてるわたしたちって。

「なんか、探偵さんみたいね」



ルーフィは、ぬいぐるみの格好のまま、トートバッグの中で

「コメディだなぁ、どう見たって」


そういえば、ぬいぐるみ持ってくる探偵、っていないわね。

新しいパターンかも。


そう思って、にこにこ。



そしたら。


外階段から降りてきた子の、背格好に

どこか、見覚えがある。



少し、小柄で、やせてて。



「....あれ、わたしかなぁ....でも、なんとなく...髪型も違う。」



さっき、ルーフィが見せてくれてたわたしの姿は、

記憶の中の私、そのものだった。

長い髪を束ねて、素っ気無かったけど。



でも、今、そこに居る「あの子」は....


わたしと似ているけど、どこか.....違う。

髪型だって、短く揃えてる。



「どうしたんだろ」と、わたしが言うと


ルーフィは「ひょっとすると、違う世界に来ちゃったのかな」






多重次元



「違う世界?」 わけわかんないよぉ。


彼は、静かに

「うん、あるんだ。似て非なる世界って。

なんかの拍子に、次元の歪みを飛び越えたり。

大昔っから、神隠しとか、幽霊とか言われてるのは

それで説明が付く、とか言われてるね。」



ちょっと....それじゃぁ。「あの子は、わたし?この世界の?」



ルーフィは、静かに「そうかもしれない。なんとなく似てるみたいだし。」



その子を、クラスメートが呼んでる。呼んでる子は

わたしのクラスメートだった子のひとり、に

よく似ている。



「ここは、やっぱりother worldなのね。」と、わたしは

言葉を呑み込むように。



「どうして、こんなところに来ちゃったのかしら。」途方に暮れて、わたし。


「わからないよ。君の行きたいところ、ってイメージだったんじゃないの?」と

ルーフィは、まだ、ぬいぐるみの格好のまんま。



「だいたい、あんな大きなルーフィが、どうしてぬいぐるみになると

そんなちっちゃくて軽くなるのよ」と、ちょっとわたしは疑問。


「それが、だから次元の違い、って事。4次元の空間は

時間も空間も伸縮するのさ。だから重さも変わる」と、ルーフィ。



その説明だと、今まで居た町でも

ルーフィは、別の次元との間を行き来している事、になる。



そうなんだ.....。意外に身近だった、異次元空間。



「もどろっか?」と、わたしは、なんとなく怖くなった。


「どうやって?」と、ルーフィは言問い顔。でも、ぬいぐるみの格好だと

どっかヘン(笑)。


「いいかげん、元の格好に戻りなさいよ」と、わたしが言うと


ルーフィは「まだいいよ。だって、この格好だと

歩かなくて済むし」と、お年寄りみたい。(笑)。



あれ?


「帰り方、わからないの、ルーフィ?」



彼は、不思議そうに

「だって、君が来たのに。僕は魔法使ってないよ。」と。



どーしよう......。途方。



「ここに来たかった、って君の心が思ったから。来たかった理由が

見つかれば、帰れるさ、きっと。」と、ルーフィは意外に楽観。



わたしは、マロニエの向うに見え隠れする、「もうひとりのわたし」を

遠くから見ていた。



お庭の掃除を、結構丁寧にしているあたり、わりと

わたしっぽいけれど。


ほんとうにわたし?



「ハイスクールの頃さ、不思議な経験ってなかった?

見た事ない景色なのに、見覚えがあるとか。」と、ルーフィが言う。


「うん..でもそれって、既視感、って錯覚だって大学で習ったけど」と、返事すると



「そう説明されてるだけで、ほんとは分かってないんだよ。それが正しいって

証拠もない。」と、ルーフィ。



なるほど....。別の「わたし」が、別の「空間」で見たって事か.....。

それなら説明もできる。


「今の君はさ、能力がある。ひょっとしたら、どこかの空間に旅した事が

あったのかもしれないね、以前にも。『夢見た』と、思い込んでて。」と、ルーフィ。



「それって、二重身の事?」と、わたしはまた、習った言葉で言った。



「そう説明もされてるね。3次元で考えると。例えば、多重人格、なんてのも

その人に4次元の空間があるって仮定すれば....。」と、ルーフィ。



「怖いよ、そんなの」と、わたしはちょっと震えが来た。


だいじょうぶ。と


背中から声がして、気づくとルーフィは、あの

かっこいいイギリス青年の姿に戻って、わたしを後ろから

やさしくHugしてくれていた。


ルーフィ.....。ありがと。



過去へ



その子は、おとなしく

お掃除を続けて。

学校のチャイムが鳴ったので、ホームルームに戻った。


しばらくすると、みんな、楽しそうに

学校から帰る。

歩いて、並木道を行く子もいれば

スクール・バスに乗る子も居て。


「あの子」の姿が見えないね、と

ルーフィが言うので


わたしは、ハイスクールの頃の記憶を辿る。



「たぶん....学校の図書室に行って。それから、町の図書館に行くんだわ。」



「本が好きなんだね。」と、ルーフィ。



そう、ひとりで本を読むのが好きだったので

カレッヂに行って、本に関わる仕事がしたい、そう思ってた

ハイスクールの頃。


司書のお仕事をしてみたくて、町の図書館でアルバイトをしたんだっけ。



「じゃ、学校の図書館に行ってみよう。」と、ルーフィが言うの。


入れてくれないよ。


そう思うと、ルーフィは、右手をふんわり、と宙に泳がせると

きらきらした光の粒が、わたしにふりそそいで。




気づくと、わたし、ハイスクールの頃の姿。

少し、背も低くなったみたい。


「これって....?」



「うん、時間を少し呼び戻したんだ。ほら、4次元って時間も伸縮するから。

きみの空間だけ、少し回りと違ってるんだ」と、ルーフィ。


気づくと、ルーフィも少年っぽい姿になってた。

ブルー・ジーンズにスニーカー。

Tシャツに、デニムのジャケット。



「ワイルドだぁ」と、わたしが言うと


ルーフィは、ちょっと恥ずかしそうに「なーんとなくね。イメージさ」。


魔法なの?それも。


その格好で学校の図書室に入ると、誰にも気づかれる事もない。

イギリス人のルーフィも、ここでは別に怪しまれる事もなかった。

イギリス人は、海を渡って

この町にも沢山住んでいる。


けれども、ルーフィはイケメン(w)なので

図書室でも、めざとい女の子たちは、彼の存在に

「転校生かしら?」「すてきぃ」などと

ひそひそ。


おかげで、わたしも目立ってしまうので(笑)


書架に隠れるように。


「ほとんど探偵ごっこね」

冷や汗半分の、わたし。




「ホームズ君、かな」と、ルーフィはこんな時でもユーモラス。





書架の隙間から見え隠れする

閲覧テーブルに、「もうひとりのわたし」の姿は

見えなかった。


そうして、静かに様子を伺いながら書架の間を

歩いていると....。



Ouchi!


「あ、ごめんなさい」と、わたしは

反射的に謝ってしまったけど


当たった人も、同じように

「ごめんなさいっ!大丈夫ですか」と....。



当たった相手は、「この世界の」わたし、だった....。


彼女は、じっ、と不思議そうにわたしを見た、それで、少し

俯いて頬を染めて。


「....ほんとに、ごめんなさい...あたし、そそっかしいから....。」


ちょっと茶色っぽく見える、さらさらの髪は

短く切り揃えられて、可愛らしい。


わたし、の、分身(?)だと言うのに

なんとなく、わたしも、どきどき....しちゃった。


どうしてなんだろ、ヘンな感じ。



俯いたまま、黙っている彼女が

なんか、痛々しいくらいに愛らしくて

わたしは、抱きしめてあげたくなってしまった。

けれど、彼女はわたしが「もうひとりの自分」だとは知らないから


いきなりそんなことしたら大変だ(笑)。


ああーん、もぅ。もどかしいなぁ(w)。


とりあえず、お話しよっか。「あたし、マーガレット。みんなはMegって呼ぶわ」と

言ってしまって、あ、バレちゃったかな。と思ったけど


彼女は、顔を上げて。「.....はじめまして...。わたしも、めぐ、って呼ばれてるの。

不思議。あなたと、出会って。初めてな気がしないの。

どきどきする。どうして?....。」



その、彼女の、(というか、もうひとりのわたし)が、なんだか

たまらなく愛しくて、わたしは初対面の彼女を引き寄せてHugした。


「あ」


めぐ、は

ちょっと、ためらったけれど。でも、拒絶はしなかった。


「どうして.....?こうしてると落着くわ...あなたは誰なの....?」

彼女はそう、ささやいた。


暗い図書室の書架の奥、誰も来ないとこ。


ヘンテコなロマンス(笑)!しかも、相手が自分だなんて.....。



あなたは誰?と

尋ねられても、ちょっと困るわたし。

でも、名乗ってしまったので。


「わたしは、もうひとりのあなたなの。」と言うと

めぐは、わたしをじっと見て....。



「どこかで会ったような、そんな気がしたけど...そうなのねMeg。

あなたって、もうひとりのわたし.....。」


「驚かないのね。」その事に、わたしの方が驚いた。



ふつう、同じ顔の自分がもうひとり、いたら(髪型や、雰囲気は違ってても)

もっと驚くと思うけど.....。



「うん。あたしって、お話を読むのが好きだし。いつか、お話みたいな恋、

してみたいって思ってたけど。それが....もうひとりのあたしとの恋、なんて!

ステキだわぁーーー。」


こっちの世界のわたし、は、ちょっと夢見がちで軽い、のかしら(2w)と、思ったけど

でも、ハイスクールの頃のわたしって、こんなだったかもしれないわ。


そう思っていると、書架の向うに居たルーフィが、こちらに歩いてきた。



「はじめまして、お嬢さん。わたしは、Roofy。Megと一緒に、隣の世界から来ました。」



「っちょっと、ルーフィ!、そんなこと言っていいの?」わたしは、慌てた。



ルーフィは、ささやき声で「魔法、とか、なんにも言ってないもの。それに、[めぐ]は

君じゃない?それなら大丈夫さ」


そういうもの?(笑)。


わたしたちを見比べて「わぁ!じゃ、ルーフィさんは執事さん?あたしもほしーなぁ、

ステキなカレシ、じゃなかった執事さん!、よろしくね、ルーフィさん!」と、めぐ。


...こんなに、わたしってかわいい子だったかなぁ?(3w)と、思ったけど。

そっか、ここは違う世界なんだわ。

いつもの時間旅行じゃなくって。

次元も飛び越えてしまった。


だから、ちょっとだけ、わたしと違うのね。



ルーフィは、にこにこ「はい。では。あなたとご一緒しましょうお嬢さん」と

すまし顔で言うので、めぐはにっこりと、うなづいて「はい!あ、そっだ。これから図書館の

バイトなの。ごめんなさい、行ってきます。」と

言うが早いか、踵を返して学校の図書室から飛び出していった。




「台風みたいな子だなぁ...あれ、ほんとに君?」とルーフィ。

でも、にやにやしちゃって。いつものルーフィじゃないみたい(4w)


「ウワキ者。」って、ルーフィのスニーカーを踏むふりをしたら....


ルーフィは、す、と避けて空振り(2w)。「いいじゃない、あの子は君なんだもん。」と

わけのわからない言い訳をする、ルーフィに

なんとなく、いいくるめられた気もする(w)



でも、そういえば。あの子ってわたしと似てるから

これって、ウワキじゃないのかしら....(?w)






それから。

めぐは、スクールバスに乗って

町の図書館に向かった。


わたしたちは、学生証を持っていないし

運転手さんって、意外と生徒の顔を覚えてる。

だから、わたしは別にしても(めぐ、に似てるから)。

ルーフィは、不正乗車(?w)で、捕まってしまうかなぁ。


そう思ってたら「こうすれば」って、ルーフィはぬいぐるみに戻って

バッグに収まった。



ま、いっか。わたしはMeg、だけど

こっちの世界だとめぐ、なんだもの。


同じ名前だし、たぶん...住所も一緒。

顔も同じ。

髪型は違うけど。


性格も....かなり違う(3w)。



「どうしてなのかなぁ、でも....なんか可愛くてHugしちゃったけど。」と、わたし。


「そういう趣味だったとは」と、ルーフィが笑っている。


「こら!ぬいぐるみはしゃべらないの。」と、わたしが言うと


ルーフィは「こっちの世界でもそうなのかなぁ」と。




....そういえば、そこまで気にしてなかった。

見た目、ふつうの3次元世界だけど。



どっかしら、違ってるかも。





次の、スクールバスが出る時間らしく

赤いお屋根のかわいいバスが、Uターン。


わたしも、ちょっとドキドキだけど。

スクールバスに無賃乗車(なのかなw)。



運転手さんは、太ったおじさん。

白い半袖のYシャツで。

ひとのよさそうな感じ。


なので、気にしていないみたい。


わたしは、ルーフィをバッグにいれたまんま

タラップを上って、スクールバスの後ろの方の席に向かった。


知らない子ばっか(あたりまえだけど)。


ほんとに、別世界なんだわ....。と、思った。

わたしの通ってた、ハイスクールなのに。



でも、どこかしら違う。


こんな事って、あるのね....。これが、「二重身」とか、「幽体離脱」なんて

思われてる事なのかしら。


こういう記憶が「既視感」なのかしら。




物思いに耽ってると、どこからか声が「めぐ!あれぇー、さっきのバス乗んなかった?」


知らない子(!?w)


そっか.....わたしと「めぐ」を見間違えてるんだわ.....。


同じ顔だから当然か。



....どーしよ....冷や汗背中どーーー(4w)




その子は、親しげにわたしに手招きして「あれ?髪型変えたの?いつ?」



....しまったぁ(!)  こっちの「めぐ」はショートボブだけど。

わたしはロングを素っ気無く束ねてて。





....どーしよ....冷や汗背中どーーー(7w)






「あれ、かばん忘れたの?トートバッグしか持ってないじゃん」と、その子。




チャンス(!)「あ、忘れちゃった、取ってくるー」って、わたしは「めぐ」の口真似して

タラップを駆け下りて。



ハート、どきどき(10w)。




「たすかったぁ」と、わたしは

スクールバスを見送って。



「でも、適当に話してればいいのに」と、バッグの中でルーフィが笑いながら。




「そんなことできないよー。こっちの「めぐ」ちゃんのイメージもあるし」と、わたしが言うと



そっか、とルーフィ。「女の子だなぁ、そういうとこは」と。


「他は女の子じゃないのか、これ!」と、わたしは

バッグの中のルーフィ(のぬいぐるみ)の顔を、ふにふにしてあげた(w)。


「こら、やめろって!」と言うルーフィの声が大きかったので

遠くに居た女の子たちが、ヘンな顔をしてわたしを見てた(2w)。



ととととー、と、走ってハイスクールから出た。けど....。


どーしよう。これから。



「ふつうに路線バスとか」と、ルーフィ。



「そっか。乗った事ないけど...このあたりって、路線バスあるのかしら」と、わたしは

マロニエ並木沿いに歩いて、丘を下った。


風がさわやか。


束ねた髪を、解いて。


風と遊ばせると、いい気持ち....。


「ルーフィも、出ておいでよ。」と、ぬいぐるみになっている彼、に声を掛けるけど


「いいよ、歩くよっか楽だし。」と、彼はにこにこしている。



「おじさんくさー。」と、わたしは笑う。「魔法で行けないの?、図書館。」と言うと



「おばさんくさー。」と、ルーフィは笑う。



「こら!おばさんなんて言うな!」とわたしも笑った。次の瞬間、ルーフィは

左腕を掲げ、指先で円を描いて、それを投げる。



空間がふわり、と動いたような気がした。


しゃぼんだま、みたいな。


きらきら光る空間に、わたしたちは包まれて、すぅ、と動いた。



「すごぉい。これって魔法?」




「まぁ、魔法って言うか、科学かな。」と、ルーフィ。



....科学....。



考えているゆとりもなく、わたしたちは街中にある図書館の前に立っていた。


ブロンズのオーナメント、屋上庭園、それが大きなモニュメントになっていて。


立派な図書館は、見覚えがある。



「ここは変わっていないのね」と、わたしは少し安堵する。


「めぐは、もう来てるのかな。」

ひろーいエントランス。重厚な硝子と自動ドアが、するすると開いて。


それは、確か国内随一の貸し出し量を誇る公立図書館。


5階建てで、最上階はたしか、レストランになっていて

4階が学習室なので、時々勉強に来たような記憶もある。


3階はオーディオ・ヴィジュアルルームで、ひとり用のカプセルに入って

映画や音楽を楽しんだり、大きな画面で映画が上映されたり。


2階が、資料室。でも、穴場で

学生が多い学習室より、静かで

勉強したりもした。


1階が、一般図書室と、児童書。


1階に居るのかな、めぐは。



わたしも、学生の頃にアルバイトで司書のお手伝いをして

そのあと、資格を取ったんだっけ。


実務経験があると、資格を取るのに役に立って。



....でも、出版社で仕事があったから。今は、旅行記事を書いているんだけど。


図書館で、仕事をするのも良かったかな...。




そんな風にも、思った。



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