ふたりのMeg
深町珠
ルーフィーとわたし
第1話 はじまり
...ないてるの?
かなしくて、泣いてるみたい。
ここは、粗大ごみ置き場。
日曜の朝、雨。
ごみの日じゃないから、がらんとしてて
そこに、大きなわんこのぬいぐるみ。
雨に打たれて、うつむいてる。
よく、お顔を見ると
すこし汚れてて。
どんなにか、可愛がってもらっていたのでしょうに。
でも、どうしてか
今は、ただ雨に打たれて泣いています。
「かわいそうに...」
胸が痛みます。だから
わたしは、おうちに
連れてってあげて。
お風呂に入れてあげて。
とっても重かったけど、でも
ドライヤーをかけてあげたら
ふわふわ、の白いわんこに。
「よしよし、もう大丈夫よ。わたしのお家なら
あなたが好きなだけ居ていいの。」
ぬいぐるみ、お人形。
かわいそうで捨てられなくなってしまうので
作らないようにしているんだけど...でも、この子は。
にっこり。
笑ったみたい。
よかったね。
わたしは、ぎゅ、と抱きしめて。
ほんとは、わたしも淋しかったの。
「僕も」
空耳かしら?
「空耳じゃないよ。」
あなたは?だぁれ....?
「ありがと、優しいね君。僕は、ルーフィ。」
...わんこさん...!?
「僕も」
空耳かしら?
「空耳じゃないよ。」
あなたは?だぁれ....?
「ありがと、優しいね君。僕は、ルーフィ。」
...わんこさん...!?
いろんなものを、とっておくのは
わたしの癖。
思い出があって、手放せなくなってしまって。
旅先で入った、喫茶店のコースターや
すてきなカレンダーも、破くのがかわいそうで
ずっと1月のまま。
お花も、切ってしまうのがかわいそうなので
鉢植えばかり。
「...ふうん、優しいんだね。だから、捨てられてた僕を
拾ってくれたんだ」
「ルーフィは、どうしてそのお名前になったの?」
「屋根の上が好きだったからさ。roofって、屋根って意味だから。」
「お屋根?」
「うん。水平線が見えたり、夜は星がきれいで。
そうだ、夜になったら昇ってみようよ、屋根」
「一緒に?でも、ここのお屋根、急なの。三角お屋根だし」
「だいじょうぶ。僕に任しといて。それからね、人がいるとこでは
僕はただのぬいぐるみだから。」
「わかったわ。」
ルーフィは、楽しそう。
わたしも、夜が来るのが待ち遠しくなった。
「そのコースター、どこかで見たような」
ルーフィは、わたしのコレクション(笑)を見つけて。
「ああ、これ。旅先で入った喫茶店の。」
「ふうん、彼氏と旅した思い出とか?」
「ううん、わたしね、トラベルライターだから」
「火を付けるのかい(笑)」
「そうじゃなくて、かくの」
「背中を?」
「もぉ(笑)」
「ああ、紀行作家ってこと。」
「うん...」
ルーフィは、ユーモアが好きみたい。
イギリス生まれなのかなぁ、なんて
ちょっとわたしは、ルーフィのことが気になった。
「ルーフィは、イギリスから来たの?」
わたしは、ちょっと恥ずかしかったけど。
「うん、そう。なんで?」
ルーフィは、さらっと。
かわいらしいぬいぐるみさんなんだけど、ちょっと
面白い。
「なんとなく、ジョークが洒落てるなって」
「あ、そうかもしれないね。一緒だった人は
アメリカンだったけど...あ、そこのマグカップみたいな柄の」
硝子扉の食器棚に、珈琲のおまけのマグカップ。
アメリカンコーヒー、なんて洒落で
星条旗が印刷されてた。
そそっかしくて、よく食器を割るから
普段は、そんなカップを使ってた。
「でも、ちょっと恥ずかしいな、ルーフィに見られちゃって」
「そう?よくわかんないけど、まあいいや。」
ルーフィは、淡々と語る、そんな感じも
なんとなくイギリス人っぽいな、と
わたしは、なんとなくときめいてた。
「名刺なんて持ってるんだね。」
ルーフィは、テーブルの上にあった
わたしの名刺入れを見た。
フリーだと、結構大事。そこから仕事が
つながったりすることもあるから。
ライティング、好きだけど
でも、いつかはちゃんとした作家になりたい。
そんな夢を持ってた。
「じゃ、行こうか」
ルーフィは、部屋の片隅にあった
アウトドア用のシート、それと紙風船をちら、と見た。
「あれ、持って行こう」
「どこに?」
わたしは、ルーフィの気持ちがわからなくて。
「屋根にいこうよ。もう夜さ。」
気づくと、窓の外はすっかり暮れていた。
丘の稜線に建っているこの家からは
遠い岬と、水平線がぼんやりと見えて
すこし、夢想的。
いいムードね....
わたし、ちょっとふんわり。
さあ、と
ルーフィに促されて。
わたしは、部屋を出る。
屋根裏部屋への階段には、雑多なアイテムが
転がってる。
弟が小さな頃使ってたシルバーのゲームマシン。
父がどこからか貰ってきたゴムの木。
水やりが楽なので、のんびりさんの父にはぴったり。
それから、海外出張の時に父が使ったらしき
アイマスク。
みんな、今は用済み。
でも、やっぱり捨てられなくて
ここに住んでる。
そのことと、でもルーフィに
それを見られる事の恥ずかしさで
ちょっと、わたしは気持ちがふたつに揺れてた。
そのせいかどうか、屋根裏部屋の出窓から
外に出る時にサンダルをはいて。
思えば、それがキッカケ。
急な三角屋根に、ルーフィーを抱えて。
だって、誰か見てたら困るから。
ぬいぐるみが歩いてる、話してる、なんて。
魔法使いの館みたいに思われたりして。
先に、出窓の外にルーフィを置いて。
わたしは、サンダルを履いて
出窓を跨いだ。
そんな事、はじめて。
だから....
頭を外に出した時。
サンダルがつるり。
「いやぁーー!!、助けて、ルーフィー!!」
思わず、ルーフィーの名を呼んだ。
たぶん、これでわたしの人生も終わりだわ...
意外に冷静に、わたしはふんわりと
した気分で。
下には、おばあちゃんのトマト畑がある。
「うん、おちたら100%ジュースになれるな」
意外に近く、ルーフィの声を聞いて
わたしはびっくりした。
ルーフィの声は、わたしを抱きかかえた
イギリス青年のさわやかな口元から発せられていたから。
「....ルーフィ....?」
「うん、見られちゃったな。僕は、ルーフィ。
これが本当の姿なんだ。」
気づくと、ルーフィーは
さっきの、アウトドアシートに立って。
でも、シートはなぜか
魔方陣みたいな(よくしらないけど)光に輝いていて。
わたしの頭の上を良く見ると、さっきの紙風船がふわふわ。
気球みたいにわたしを吊り上げていた。
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