第14話
そう、確かに....クリスマスはひとりでのんびりしていたし、正月は家に帰って、家族と過ごしていた筈だった...。しかし、このスマートフォンの中では、僕はそのどちらも、薗子と過ごしていた事になっている。
ムービーを見ると、音まで鮮やかに、ふたりの記憶が刻まれていた。
2限目は古文だった。メールが着信しても困らないように、マナーモードにしておき、胸ポケットに入れておいた。
しばらくすると、着信ランプが光る。
その子@mail>冗談じゃないの?そう。だったら言うわ。私は榊薗子。17歳。桜台高校2年。あなたの通っている県立東高校の隣町ね。住所は青葉区柿田867−1。両親と一緒に住んでるわ。まだ思い出せない?
薗子からのメールを読みながら、僕は回想してしまっていた。
確か、桜台高校は、僕の町から電車でひとつ、東側の町、駅のすぐ北側にある進学校だ。今時には珍しく、古風な紺のセーラー服が制服の、規律厳しい女子高校....連想はできるが、どうしても榊 薗子と言う名前が実感できない。
....僕は、どうかしてしまったのだろうか。
メールによると、僕と同じ17歳だ、と言う事になる。
僕は、古文の授業そっちのけでメールを読んでいた。
いままで、蔑んでいたこんな事も、自分がする側になると
その理由が分かった。
いつでもどこでも、通じあえているような感覚。
掌の小箱から、感覚に直接訴えてくるような錯覚。
その相手が、恋人だったら...もう、授業どころではない。
そういう気分を、垣間見たような感覚だった。
ただ、その子は僕を良く知っているが
僕は、その記憶が無いのが淋しかった。
ひょっとして、恋してみたいと思う心が
こんな、ハプニングを呼んだのだろうかとも思った。
2限が終わり、僕は屋上へと階段を駆け上がった。
雨はもう止んでいたから、雨上がりの少し蒸し暑い空気が
夏、を感じさせる梅雨の終わり頃....
丘の上から見える、遠い水平線と岬、眼下に広がる街並み...。
いつも、見慣れている風景だったが、しかし、僕は気が流行る。
アドレス帖のその子の電話番号へ、コール。
呼び出し音が....5回....10回.....。
回線はつながらず、留守番電話サービスにつながったので
僕は電話を切った。
本当に存在しているのかどうか、まだ信じられずに
電話を掛けて、その子の声を聞いてみたくなったのだ。
だが....回線はつながらない。
....授業中かもしれないな。と、僕は思い
諦めて、教室に戻ろうか、とも思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます