第49話 即興の作戦
間一髪で死を回避した俺は、再び早倉さんや静月と協力してマーダーコングをかく乱する。
それと同時に、すきを見て強い攻撃を撃ってみるのだが、見かけによらぬ俊敏性や反応速度のせいでなかなか大きなダメージは与えられない。
しかし、俺にとってマーダーコングは、決して倒せない相手というわけでもなかった。
俺の持っている【ガスコントロール】は、周りの空気を操作するスキル。
いかにマーダーコングといえども、酸素を奪われれば倒れる、もしくは動きが鈍くなるはずだ。
まあこれは、ほとんどのモンスターに共通して言えることなのだが。
しかし問題点もいくつかある。
1つ目は、【ガスコントロール】の効果範囲がまだまだ狭いということ。
効果範囲はその人、もしくはモンスターの体格に合わせて変動するようで、巨大なグリンエアツリーと人間の俺では大きく異なる。
部屋中の酸素を奪うなどという荒業は、今の俺にはできない。
そんなことをしたら、仲間の探索者たちまで死んでしまうから絶対にやらないけど。
そうなると、マーダーコングをシェルターから遠ざけつつ俺が近づくしかない。
シェルターから遠ざけるのは簡単にできる。
しかし2つ目の問題点として、俺が近づくのは簡単ではない。
いくら足元で【ガスコントロール】を使っても仕方がないので、巨体の頂上、顔の辺りまで行く必要がある。
素早く振り回される腕をかいくぐって接近するのはかなり難易度が高い。
さらには、マーダーコングが倒れるまでその位置をキープしなければならない。
【跳躍】で一時的に飛び上がるだけではだめということだ。
さらにさらに、【ガスコントロール】の効果時間中はマーダーコングの動きを止めなければいけない。
暴れられて地面に叩き落されたりしたら、倒れるのは俺の方になってしまうからだ。
これらの問題点を何とか解決する方法は…
俺は考えを巡らせ、マーダーコングをかく乱しつつ早倉さんに尋ねた。
「【ヘルフレイム・ネット】!!早倉さん!!マーダーコングってどれくらいの間凍らせられますか?」
「【
20秒か…。
微妙な時間だな。
マーダーコングを完全に窒息させられるかは分からない。
【ガスコントロール】で体力を削るのは、「窒息」という継続ダメージ付きの状態異常に追い込むようなものだ。
20秒で足りるかどうか…。
「動きを止めるくらいなら私も協力できるよ!!1分くらいなら!!」
シールドの中で四桜さんが手を挙げている。
そういえば【フリーズトルネード】というスキルがあったな。
これでマーダーコングの固定は可能になった。
固定できる1分20秒は、目一杯【ガスコントロール】の効果時間に使いたい。
そうなると、マーダーコングの攻撃を回避しながら近づきたいところだ。
これにはマーダーコングを超えるスピードが必要だ。
「スピードか…」
シールドの中で戦況を見つめるララとロロが視界に入ってきた。
確か、最初に会った時ロロのレベルは51で速度は780だったはず。
そこへ【
レベル100を超えたロロの速度が単純計算で1400近くになっているとして、それを5倍すれば7000。
十分すぎるほどにマーダーコングと渡り合える数値だ。
「ロロ!!」
「は、はい!!何でしょう!!」
突然自分の名前が呼ばれてびっくりするロロ。
声がわずかに上ずった。
「俺を運んで飛べるか!?マーダーコングの肩まで!!」
「えっと…行けます!!」
思いのほか、すぐに答えが返ってきた。
まさかこの一瞬で作戦を理解したわけでもないだろう。
それでも、危険なタスクをこなせると即答した。
ここまで観戦ばかりだったし、出来ることがあるなら何でもやりたいという気持ちが伝わってくる。
「早倉さん!!徐々にポジションチェンジをしましょう!!」
「何をするつもりですか?」
「説明している時間はないんです!!でも…」
俺は目一杯の誠意と覚悟を込めて叫んだ。
「絶対に誰も死なせませんっ!!」
その言葉に、早倉さんが深く頷いた。
「分かりました。信じます」
俺と早倉さんはマーダーコングの位置を保ちつつ、ポジションを交換した。
シールドの中に戻り、ロロに飛行をお願いする。
「【
「やります。やらせてください」
「ありがとう。俺が合図したら、四桜さんはマーダーコングの固定をお願いします」
「分かった」
即興で建てた作戦だが、不思議と絶対に成功する自信がある。
しゃがんだロロの背中に掴まり、マーダーコングを見据えて覚悟を決めた。
「【ガン・スピアー】!!麻央、ロロちゃん、頑張ってね!!」
静月にグーサインで応えて、ロロに合図を出す。
「頼んだ」
「了解です」
ロロは大きく息を吐き、顔を上げてオリジナルスキルを発動した。
「【
ここでマーダーコングを倒せば、石狩さんたちは丸々1戦分の休みを取れたことになる。
何としても、マーダーコングを窒息させなくては!!
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
大きな声と共に勢いよく飛び出したロロの背に乗って、俺たちはマーダーコングへと突き進んだ。
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