第40話 動かぬも作戦
麻央たちが、村花大臣からの呼び出しを受け、管理局に向かう数時間前。
《BD-120ダンジョン》に異常を起こした張本人である例の男が、暗い部屋の中で腕を組んで座っていた。
男の後ろには、つい先日、麻央たちの勇姿が映し出されたモニターがある。
「これは確かなんだな、赤堀。」
男が、目の前に座っていたもう1人の影に言った。
「赤堀」と呼ばれた影が頷き、体を前のめりにして口を開く。
「間違いありません。大臣の村花が、このメンバーに即日連絡を取ったという情報を、管理局など複数から得ています。早ければ、今日にも彼らが《B-120ダンジョン》に向かうかと。」
男が「う~ん」と、忌々しげに唸った。
麻央たちを倒しきれなかった時点で、自分たちにとっての不都合が生じることは分かっていた。
だが、村花大臣の行動の早さは予想を超えてきたし、集められたメンバーの強さも想定外だ。
どうしたものかと、男は思考を巡らせた。
「どうしますか?」
「そう急かすな。今、考えているところだ。」
相変わらず前のめりの赤堀を静止すると、男はさらに深く熟考した。
これだけのメンバーとなると、彼らに倒せないモンスターはそういない。
おまけに、柏森麻央のスキルが相手のスキルを自分のスキルにしてしまうものだと、赤堀から報告を受けていた。
うかつに強いモンスターをぶつければ、「魔王」をより強化してしまうことになりかねない。
「どう考えても、時間はないか。」
「魔王」対策にしろ、最強パーティーによる調査対策にしろ、今日いきなりでは有効な手を見つけることは出来ない。
《BD-120ダンジョン》に痕跡を残していない以上、下手に動く必要はないと男は考えた。
「赤堀、引き続き『魔王』を中心に監視しろ。進展があったら教えてくれ。今日のところは、こちらが下手に手を出すべきじゃない。」
「分かりました。」
一礼して、赤堀は部屋を出ていった。
部屋に残った男は、スマホを取り出し、『D-GUIDE』を開いた。
画面に、男のステータスが表示される。
「大丈夫だ。俺には、このスキルがある。」
男はそう呟くと、目をつぶって大きく息を吐いた。
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「ここだな。」
石狩さんが、《BD-120ダンジョン》の前に立ち、みんなの方を向いて言った。
「では、移動中に話した作戦の通りにいこう。みんな、準備はいいか?」
全員、真剣な顔で頷いた。
石狩さんの言う「作戦」はこうだ。
Bランクダンジョンレベルのモンスターが出た時は、前回俺たちがやっていたように順番で戦う。
A、Sランクダンジョンレベルのモンスターの場合は、俺がベストなスキルをコピペした上で、全員が一斉に戦う。
時間があまりなかったため、【
初対面の4人とも、かなり驚いていた。
ここにいる6人とも、オリジナルスキルを持っている。
オリジナルスキルの所持者なんてそうそういるもんじゃないけど、なぜか俺の周りに多いため、中々レアな感じがしない。
ただ俺のスキルは、スキルそのものがステータスを大幅に向上させたり、ステータスの数値に対して異常な力を発揮したりする訳ではないため、特殊といえば特殊だが。
「いくぞ。」
石狩さんが、ダンジョンのドアを開けた。
順番にみんなダンジョンに入っていく。
俺も大きく深呼吸すると、暗闇の中へ一歩踏み出した。
特に変わった感じはしない。
今までに攻略したBランクダンジョンという感じだ。
「嫌な空気がある、ってことじゃなさそうだな。」
周りを確かめながら、藤塚さんが言った。
体に付けられたカメラから、俺らと同じ風景を静月たちや村花大臣も見ているはずだ。
「よし、先に進もうか。」
入り口付近には異常がないことを確認し、さらに奥へ歩いていく。
すると、ばさばさと羽ばたく音がした。
モンスターが姿を現す。
といっても、Bランクダンジョンレベルのモンスター、ポイズンホークスだ。
「最初は、俺の番だったな。」
石狩さんが、一歩前に出て剣を抜いた。
ダンジョンの暗闇の中で、剣が銀色の光を放つ。
「聖剣」と呼ばれる男の戦いを、これから目にすることが出来る。
俺は、ごくりと唾をのんだ。
「さて、毒吐かれる前にやっちまうか。」
石狩さんが、地面を蹴って素早く駆け出した。
速い。めちゃくちゃ速い。
ロロの速さもなかなか目で追えなかったが、スキルを使っていない石狩さんの動きにもついていけない。
「しゃ!!」
声に視線を動かせば、石狩さんがあっという間にポイズンホークスの前へたどり着いていた。
剣を振り上げ、勢いよく振り下ろす。
「
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