第39話 利害の一致

「それでは、村花大臣よりお話をいただきます。」


 紹介を終えた職員さんが、手に持っていたリモコンを操作した。

 部屋の正面に会ったモニターが、「ピッ」という音を立てて明るくなる。

 そこに、椅子に座った村花大臣の姿が映った。


「みなさん、おはようございます。ダンジョン担当大臣の村花です。」


 モニター越しに、村花大臣が挨拶する。

 録画とかではなく、リアルタイムのようだ。


「お忙しい中、要請に応じて集まっていただけたことに、改めて感謝申し上げます。」


 村花大臣は、深々と一礼した。

 顔を上げると、右手にタブレットを持って話を再開する。


「迅速な対応が必要と考えていますので、早急に本題へ入らせていただきます。昨日のうちに、みなさんへ現状をまとめた資料を送らせていただきました。何か不明な点や、質問などはありますか?」


 手を挙げたのは、「聖剣」石狩裕だ。


「ちょっと聞きたいんだが、ここまでのメンツである必要はあるのか?」

「と言いますと?」

「自慢する訳じゃないが、俺、浅川、藤塚、四桜は全員がSSのトップクラスだ。正直、やりすぎな気がするぞ。」


 自らのことを「トップクラス」と称しながら、それがちっともおかしくないのは、ひとえに石狩さんの実力による。

 正真正銘、彼らは現役最強なのだ。


「確かに、出現したのはグリーンエアツリーとルビードラゴン。A、Sランクダンジョンのモンスターです。みなさんの相手としては、物足りないかもしれません。」


 AランクダンジョンとSランクダンジョンの間に大きな差があるように、SランクダンジョンとSSランクダンジョンの間にも圧倒的な差がある。

 適正レベル上は399と400しか変わらなくても、モンスターの強さ、数、種類が明確に違うのだ。

 Sランクダンジョンのモンスターなど、SSランクダンジョンの探索者たちがパーティーを組んで戦えば、苦戦するはずもないのである。


 もちろん、村花大臣もそれは分かっている。

 それでもこのメンバーを集めたのには、何か理由があるのだろう。


「ですが、前回ルビードラゴンが出現したからといって、今回も同格のモンスターが現われるとは限りません。前例のない事態ですので、SSランクダンジョンのモンスターが現われる可能性もあります。ですので、打てる限りの最善手を打とうということです。」


 念には念を、ということか。


「もちろん、急なお願いですので不満もあるかもしれません。ですが、探索者のみなさんは正常なダンジョンで探索したいでしょうし、私たちとしてもダンジョンを適切に管理したい。双方の利害は、確かに一致していると思います。」


 極端なことを言えば、SSランクダンジョンで40体のモンスターが出現するとして、その全てがボスモンスターという事態が発生する可能性もある。

 さすがにSSランクダンジョンのボスモンスター40連戦は、このメンバーでも不可能だろう。

 要は、何としてでもこの事件の原因を解明しなければ、話は全く進まないということだ。


「まあいいじゃんか、石狩。俺たちがパーティーを組めば、まあ死ぬことはねぇ。取りあえず、ダンジョンに潜って原因探ってくりゃいいんだからよ。」


「絶壁」こと浅川さんが言うと、石狩さんは「まあな」と肩をすくめた。

 やり取りの様子からして、ここにいる4人の猛者たちは知り合いのようだ。

 これなら、エゴとエゴのぶつかり合いでパーティー崩壊みたいなことにはならなそうだ。

 俺が場違いなのは相変わらずだけど。


「ほかに質問はありませんか?」


 誰も声を上げない。

 それを確認して、村花大臣は話を続けた。


「では、今回の調査に当たって身に着けていただきたいものをお配りします。」


 大臣の言葉に合わせて、職員さんがパーティーメンバーに選ばれた俺たち6人に小さな物体を配った。

 手のひらより一回り小さいくらいで、黒色をしている。


「こちらは、どんな状況でも鮮明な撮影ができる小型カメラです。上半身の邪魔にならない位置へ、取り付けてください。私や管理局の職員が、リアルタイムでその映像を確認しつつ、解析を進めます。映像の確認は、実戦担当に選ばれていないお三方にもお願いします。」


 静月、ララとロロが呼ばれたのは、そのためだったのか。

 写真といえば早倉さんが撮ったものしかないし、調査をするなら映像は必要だよな。


 全員が取り付けたところで、村花大臣は言った。


「パーティーの作戦に関しては、実際に戦うみなさんに一任します。戦闘における制限は特にありません。では、よろしくお願いします。」


 村花大臣は立ち上がって、もう一度頭を下げた。


「それじゃ、行くかね。」


 最初に立ち上がったのは、浅川さんだ。


「作戦は?」

「行きながら考えりゃいいだろ。」

「そうだな。取りあえず、現地に向かおう。」


 会話しながら、残りの3人も立ち上がった。

 俺と早倉さんも、まだ少し戸惑いながら立ち上がる。


「よろしくお願いしますね。私たちに遠慮せず、全力で戦ってくださいね。」


 四桜さんが近づいてきて、俺たちににっこり笑いかけた。


 これから最強探索者たちと調査に向かうという緊張感のある時に、すごくどうでもいい話だが。

 四桜さんが「ダンジョンの天使」と呼ばれるのは、ただ単に回復がすごいからではない。

 探索者の中で、トップクラスに「かわいい」からなのだ。

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