ただのダンジョン探索者ですがオリジナルスキルのせいで魔王と呼ばれています~スキル【複製転写《コピーアンドペースト》】でモンスターのスキルを習得しまくったら最強になった件~
第32話 自信満々なお姉さまと余裕綽々な男
第32話 自信満々なお姉さまと余裕綽々な男
土壁からわずかに顔を出してみると、ちょうどグリーンエアツリーが右枝を高く上げたところだった。
すぐに顔を引っ込め、グリーンエアツリーと初遭遇となる静月たち3人に指示を出す。
「いいか。絶対にこの壁の外に出るな。体の一部でも出したら、そこがあっという間に吹っ飛んでいくと思え。」
大げさに聞こえるかもしれないが、実際に一度グリーンエアツリーが起こす暴風を体験している俺からすれば、今から起こる風は本当にシャレにならない。
静月たちにも俺が本気で言っているのだと伝わったようで、3人とも黙って頷いた。
わずかに、風の音がし始めた。
穏やかなそよ風。
しかし、ここで「何だこんなものか」と飛び出してしまっては、あっという間に暴風に巻き込まれて窒息死だ。
じっと、シェルターの中で嵐が過ぎるのを待つ。
「思ったより、風強くなくない?」
ララが呟いた。
「これからだ。」
俺は、風の音に耳を澄ましながら答える。
「この優しい風の音が、すぐにえげつない轟音になる。今はいわゆる、嵐の前の静けさというやつだな。」
【グラウンドウォール】で出現させた土壁が、グリーンエアツリーの攻撃に耐えられることは実証済み。
酸素を奪われようと、こっちにも【ガスコントロール】がある以上、死ぬことはない。
問題は、どうやってグリーンエアツリーを倒すかだが…。
肝心の攻撃役である早倉さんは、土壁の中に入って以降ずっと目を閉じて座っている。
時々矢を射るような仕草を見せていることからして、頭の中でいかにグリーンエアツリーを倒すのかシミュレーションしているのだろう。
俺より早倉さんの方が、圧倒的に探索者としての経験値が高い。
早倉さんの頭の中にどんな作戦があるのかは分からないが、きっとグリーンエアツリーを葬ってくれるはずだ。
徐々に風が強まってきた。
もう、風の音から優しさは感じられない。
響いているのは、唸るような轟音だ。
この風でもまだ、一番の強さには程遠い。
どんどん風は強まるが、初体験の3人に思ったほどの不安は見えない。
静月もララもロロも、それぞれ土の壁にもたれかかって座っている。
3人とも、落ち着いた表情をしているようだ。
「怖くないか?」
俺の問いに、ララが笑顔で答えた。
「怖いは怖いけど、この中にいれば安全なんでしょ?」
「ああ。」
「なら、大丈夫。」
「そっか。」
何だかんだ、信用してもらってるんだよな。
さて、攻撃に関して俺が考えることはない。
防御に関しても、今更何かすることはない。
静月たちの様子を心配する必要もない。
こうなれば、今の俺に出来ることは一つだけだ。
なぜBランクダンジョンにAランクダンジョンのモンスターが出現したのか、早倉さん曰く「脳筋」な頭をフル回転させて考えることだ。
とはいっても、まともな結論は出そうにないが。
まさか、グリーンエアツリーが街中を通ってこのダンジョンに入ってきた訳もないしな。
頑張ればただのうさぎに見えないこともないアミュンラビットならまだしも、家ほどでかい大木が街中を移動できるはずがない。
目立ちすぎる。
同じ「目立ちすぎる」という理由で、誰かが運んできたという可能性もなし。
そもそも、このサイズと強さのモンスターを、生きたまま運べる人間がいるとは思えない。
何か…他の可能性は…。
必死に考えるが、この異常事態をすっきり説明できる結論は浮かばない。
「柏森さん。」
早倉さんの声に、俺の全力の思考は中断される。
「時間と風の強さから考えて、そろそろ暴風が吹き止むと思います。【ガスコントロール】の準備をお願いします。」
確かに、風の強さは最高潮に達しているようだ。
早倉さんは、せっせと弓矢を準備している。
迷いのない手つきからして、グリーンエアツリーを確実に倒す計算が出来ているのだろう。
「あ、風が止んだよ。」
静月が言う。
早倉さんが、ハンカチを取り出して上に放り投げた。
ハンカチは吹き飛ばされることなく、そのまま落ちてくる。
暴風は完全に止んだようだ。
「【ガスコントロール】!!」
俺は土壁から出る前に【ガスコントロール】を使い、正常な空気を作り出した。
「全員、きちんと呼吸出来るか?」
4人とも頷いた。
これで、グリーンエアツリーが酸素を奪おうと何ら問題にはならない。
後は、早倉さんに任せるのみだ。
「俺の傍から離れるなよ。離れた瞬間、死だからな。」
「死…。」
「そう、死だ。ただ、ここにいれば安全だから。」
早倉さんは、既にグリーンエアツリーに狙いを定めて弓矢を構えている。
「いけそうですか?」
俺の声に、早倉さんはにっこり笑って答えた。
「大丈夫です。あれだけ大きい的なら、外すなんてありえません。」
早倉さんは自信に満ち溢れている。
そのことを感じた俺は、もう勝負が決したかのような安心を覚えた。
グリーンエアツリーが左枝を高く上げた。
酸素が奪われた…のだろう。
でも、俺たちは平然と呼吸している。
「どうしてここに現れたのかは知りませんが、相手が悪かったですね。」
早倉さんが、自信満々に矢を放った。
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モニターから麻央たちの様子を観察していた男が、不機嫌そうに指の関節を鳴らす。
「まさか【ガスコントロール】も所持していたとは。う~ん。『魔王』たちの全力の戦いには興味があるけど、生き残られたらそれはそれで困るんだよね。」
モニターの前で右手の人差し指をクルクル回しながら何やら思案していた男は、ため息をつきながら肩をすくめて言った。
「はぁ、仕方ないね。アレを使おう。こんな早い段階で使いたくはなかったけど、管理局に報告されるよりはましだからね。」
男は両手を広げ、天を仰ぎながら言った。
「Sランクダンジョンでもトップクラスに恐れられ、ソロでの討伐は絶対不可能と言われているモンスター。実質Sランクダンジョンで戦えるレベルに到達しているのが奇術師だけである以上、もう討伐は不可能だね。」
男が余裕綽々な笑みをこぼす。
「出でよ。十二竜の一角、ルビードラゴン。」
その瞬間、ボス部屋全体を大きな影が覆った。
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