第5話 トゲ無いバラはただのバラ

 デッドツリー5体、スニーズフラワー6体の計11体を撃破し、【催涙花粉】もコピペした俺は、いよいよこの《DD-199ダンジョン》のボス部屋にやってきた。

 ボス部屋の主、その名をブラッディローズという。


 真っ赤なバラのようなモンスターで、【ステムバレット】というスキルを持ち、茎から鋭いトゲを飛ばして攻撃してくる。

 そのトゲには血が止まらなくなる成分が含まれていて、1度刺されば血まみれになってしまうことからその名がついたモンスターだ。


 なかなかに強そうなモンスターだが、これでも《DD-199ダンジョン》はDランク。

 SSランクダンジョンなんかになったらどんなボスが出てくるのが、恐ろしくて仕方がない。

 とにかく今は、身の丈にあったダンジョンで強くなるのが大切だ。


 「トゲだから貫通攻撃だよな。【粘膜シールド】は効果が半減するから、避けて避けてカウンターがベストかな。」


 確認を済ませると、俺はボス部屋に入った。


 他のボスモンスターと同じく、部屋の中央にブラッディローズが構えている。

 普通の植物でいう根っこのような太い部分が4本あり、それを足のように使って移動するようだ。


 ブラッディローズの茎には、しっかりと鋭い緑のトゲが生えている。

 回復スキル未所持、回復アイテムはドロップしたポーション2つしか無いため、あれに当たるとかなりきつい戦いになる。


 「避けて避けて、カウンター。」


 呟きながら軽くその場でジャンプすると、俺はいつ攻撃が来てもいいように用意を整えた。


 ブラッディローズがその花を大きく膨らませる。

 そして、茎に生えていたトゲが一気に5本放たれた。


 「【ジグザグジャンプ】!!」


 トゲの飛ぶ方向を見極めながら、俺は左右に飛び跳ねる。


 「右左右左右!!」


 トゲの見極めは完璧。

 全てを回避した。

 しかし、ブラッディローズの茎にはまだトゲが残っている。

 また花が膨らんだ。


 「【ジグザグジャンプ】!!」


 次は一気に8本。

 しかしその全てを、俺は見切っている。


 「左右左右左右左右!!」


 モールス信号のように唱えながら、俺はトゲを回避した。

 ブラッディローズの茎に残るトゲは残り7本。

 次の攻撃を回避すれば、こちらのターンだ。

 花が膨らんだ。


 「【ジグザグジャンプ】!!」


 トゲの飛ぶ位置はさっきと逆だ。


 「右左右左右左右!!」


 またしても、俺は全てのトゲを避けきる。

 後ろを見ると、ボス部屋の壁に合計20本のトゲが深々と突き刺さっていた。

 ちなみに言うと、ボス部屋の壁は防弾ガラスくらいの硬さらしい。


 「こんなの刺さったら、出血多量以前に即死だろ…。」


 呆れつつ、俺は攻撃に入った。


 「いくぜ!!」


 ブラッディローズに、出来る限り走って近づく。

 走る速度もレベル1の時より速くなっているようだ。

 やはり、確実に成長している。


【ラビットファイヤー】なら遠くからでも攻撃出来るのだが、近くから撃った方が多くのダメージを与えられるため出来るだけ接近したい。


 「ここの辺だな。」


 ブラッディローズまでの距離は約5m。

 2、3発で十分なダメージを与えられるはずだ。

 俺はブラッディローズに向けて手をかざす。

 すると、ブラッディローズの花が一際大きく膨らんだ。


 「お前の茎にトゲはもう無いぞ!!」


 …と、俺が勝ち誇ったのもつかの間。

 何とびっくり、茎に新たなトゲが生えてくる。


 「マジか!!」


 至近距離すぎて、今の【ジグザグジャンプ】の速度では避けきれない。

 俺はトゲが放たれるタイミングを見計らって跳んだ。


 「【跳躍】!!」


 俺がさっきまで立っていた場所を、すごいスピードでトゲが通り過ぎていく。

 危ない危ない。

 とっさに【跳躍】を使っていなかったら、開始数日にして俺の探索者生活、いや人生が無事終了の運びとなっていた。


 まだ茎にトゲがある以上、【体当たり】なんてもちろん使えない。

 地面に着地すると、またトゲが飛んでくるタイミングを見計らって飛んだ。


 「【跳躍】!!」


 そして空中から、ブラッディローズにかわいいうさちゃんをプレゼントする。


 「【ラビットファイヤー】!!」


 しっかりとブラッディローズの体を捉えたうさぎ型火の玉は、その体に火をつける。

 するとブラッディローズの闘志にも火がついたのか、トゲをめちゃくちゃに乱射し始めた。

 いや、身悶えているだけか。


 とにもかくにも跳んで跳ねてでトゲを避けに避けた俺は、ハッと思い出す。


 「ああ!!コピペするのまた忘れてる!!」


 連撃連撃で攻撃を避けるのに必死になっていたとはいえ、ありえない凡ミスである。


 「【複製転写コピー&ペースト】ぉぉ!!」


 俺は手をかざし、叫んだ。


 「【ステムバレット】!!」


 [スキル【ステムバレット】を複製コピーしました。転写ペーストしますか?]


 「Yes!!」


 [スキル【ステムバレット】を転写ペーストしました。]

 [スキル【ステムバレット】を習得しました。]


 新しいトゲが生える前に、俺は勝負を決めにかかる。


 「【ステムバレット】!!」


 叫んでから、俺はふと思った。

 あれ?俺は茎なんて持ってないぞ?

 トゲはどうやって出てくるんだ?

 そして自分の体を見て、驚く。


 「おわ!!くそダサい!!」


 俺の服、正確には乳首とへその部分からトゲが生えていた。

 ほんとに、ソロで良かった…。

 誰かに見られてたら、いろんな意味で終わってた。


 「てかどうやって撃つんだ、これ…。」


 何となく、体に力を入れてみる。

 すると、スポンっと抜ける感じがしてトゲが放たれた。

 適当に撃ったためコントロール出来ず、3つとも外れに終わる。


 「このスキル、使えない…。使いたくない…。」


【ステムバレット】は封印しようと決意した俺は、また花を膨らませようとしているブラッディローズへ向き直った。


 「【ラビットファイヤー】!!」


 きちんとコントロールされた火の玉が、確実にブラッディローズにダメージを与える。


 「うおりゃぁぁ!!」


 万が一トゲが再生しても避けられるギリギリの距離まで近づくと、俺はうさぎ型火の玉を連射した。


 「トゲ無いバラはただのバラだぁぁ!!【ラビットファイヤー】ぁぁ!!」


 茎をぐでんぐでん揺らしながら、ブラッディローズが炎に包まれる。

 まるでちょっとしたキャンプファイヤーみたいだ。

 1分半くらい経ち、ブラッディローズは完全に燃え尽きた。

 ご遺体残らず完璧な火葬である。

 BOXに入れる必要は無いだろう。


 [ボスモンスター討伐を確認しました。ダンジョン攻略成功です。]



 [攻略報酬として経験値を獲得しました。]

 [攻略報酬としてスキル習得ポイントを獲得しました。]

 [攻略報酬として580円を獲得しました。]

 [攻略報酬としてアイテム《ブラッディローズの葉》を獲得しました。]


 [レベルが1上昇しました。レベルが11になりました。各ステータスの数値が上昇しました。]

 [スキル【ジグザグジャンプ】のレベルが1上昇しました。スキル【ジグザグジャンプ】がLv.2になりました。]

 [スキル【ラビットファイヤー】のレベルが1上昇しました。スキル【ラビットファイヤー】がLv.2になりました。]


 【ラビットファイヤー】のレベルアップはかなり嬉しい。

 今の俺の中では一番の矛だから、これで攻撃面の大きな向上が見込める。


 肝心のスキル習得ポイントは…

 おお!一気に500ポイントも獲得出来ている。

 これなら、このダンジョンを十数回クリアすれば【鑑定眼】に手が届きそうだ。


 「今日もまた、周回だな。」


 ダンジョン攻略は、派手に見えて案外地道なのである。


 ただ、この時の俺は知らなかった。

 何となくの考えで習得しようとしていた【鑑定眼】が、あんなに役に立つなんて…。


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 氏名:柏森麻央かやもり まお

 年齢:18


《STATUSES》

 レベル:11

 攻撃力:230

 防御力:230

 速 度:230

 幸 運:230

 体 力:230


《SKILLS》

 〈オリジナルスキル〉

 【複製転写コピーアンドペースト】Lv.1

 【体当たり】Lv.2

 【粘膜シールド】Lv.2

 【分身】Lv.1

 【跳躍】Lv.1

 【ジグザグジャンプ】Lv.2

 【ラビットファイヤー】Lv.2

 【催涙花粉】Lv.1

 【ステムバレット】Lv.1


 〈ノーマルスキル〉

 未所持


 スキル習得ポイント:2820

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