第4話 幼馴染のお祝い、哀れな枯れ木
「【ラビットファイヤー】!!」
俺の放った火の玉をまともに食らい、ファイヤーアミュンラビットがあえなく焼きうさぎと化す。
これで《DD-187ダンジョン》8度目の攻略成功。
今回の成功報酬でレベルが10になるはずだ。
「うーん。シルバースライムは出なかったけど、まあ10レベになったし今日は帰るか。」
焼きうさぎをBOXに放り込むと、俺はダンジョンを出た。
8度ダンジョンを周回したものの、シルバースライムは現れなかった。
ただ出現率はかなり低いらしいから、仕方がないといえば仕方がない。
キリのいいレベルになったし、今日は体を休めるとしよう。
「コンビニ寄ってくか。」
財布の中には、今日稼いだ6000円弱が全て小銭で入っている。
1回1回の報酬が数百円単位だから、小銭が増えてかなり重い。
それでも価値に変わりはないので、俺は記念すべきこの日を祝うコンビニ飯を買いに行くことにした。
「いらっしゃいませー。」
さて、何にするか。
ちょっと贅沢してもいいよな。
お、これにしよう。
俺が手に取ったのは、このコンビニが最近売り出している「料理人の味シリーズ」のハンバーグステーキ。
コンビニの商品にしては高いが、その分美味しいと評判だ。
言ってみれば財布の6000円は初任給。
少しの贅沢くらい許されるはずだ。
俺はさらにサラダと果汁100%のぶどうジュース、「デラックス寿司パック」という寿司の詰め合わせをカゴに入れると、レジに向かった。
並んでいる途中でふとスイーツコーナーが目につき、今日が自分の誕生日なことを思い出す。
「ケーキ、買うか。」
俺はいちごのショートケーキを手に取った。
会計を済ませ、家までの道を歩く。
途中、探索者の格好をした男女のグループとすれ違った。
モンスターの中には、夜行性で夜のみ出現するものもいる。
「今度は夜行ってみるか。いや、でも夜行性のモンスターは強いのが多いらしいしな…。」
いろいろと考えながら、俺はボロアパートに帰った。
テーブルに買ってきたコンビニ飯を広げ、ぶどうジュースをコップに注ぐ。
ケーキはまだ食べないので、冷蔵庫に入れておいた。
「さて、誕生日&就職おめでとう!!俺!!」
1人グラスを宙に掲げると、俺はぶどうジュースをごくごくと飲んだ。
続いてハンバーグに箸を伸ばす。
値段に違わず、なかなかの美味しさだ。
ジューシーだし、ソースも美味い。
さて次は寿司を…と思ったところで、電話がかかってきた。
「誰だよ…いいとこだったのに…。」
ぶつぶつ文句を言いながら、スマホを取る。
「もしもし?」
「あ、もしもし麻央?」
「ん?もしかして、静月か?」
「そうだよ〜。久しぶり。」
電話の主は、俺の幼馴染で唯一まともに話せる女性である、
俺が一人暮らしを始めて引っ越してからは疎遠になっていたが、小さい頃はよく一緒に遊んでいた。
「どうしたんだ?急に。」
「えっとね、今日は麻央の誕生日だなぁと思って。」
「覚えててくれたのか。」
「もちろんだよ。おめでとう、麻央。」
1人で暮らし始めてから誕生日もずっと1人だったから、誰かに祝われるのはすごく久しぶりな気がする。
「ありがとう。」
素直に、言葉にした。
「18歳ってことは、探索者になれるんだね。」
「ああ。今日、早速ダンジョンに行ってきた。スライムとか倒したんだぜ。」
「そっかぁ。すごいなぁ。夢叶ったんだね。」
「まだまだこれからだよ。」
俺はずっと、静月に「探索者になりたい」と言ってきた。
静月は俺の夢を知る、数少ない人間の1人だ。
「それでさ、俺すっげぇスキルを手に入れたんだぜ。」
俺は、【
しかし、そんな俺の声を静月が遮る。
「あ、ごめん。お父さん帰ってきちゃった。最近お父さん、なんかピリピリしててね。また今度、かけるから。」
「分かった。」
静月からの久しぶりの電話が切れた。
お父さんがピリピリしてる、か。
大丈夫だろうか。
まあでも、そこまで深刻そうな声ではなかったな。
スマホを置くと、俺は乾き始めた寿司を食べだした。
食って寝て、朝が来た。麒麟は来なかった。
新しい、希望の朝だ。
くだらないネタはさておき、今日もダンジョン攻略だ。
今のところ、スキル習得ポイントが2320ポイント貯まっている。
【鑑定眼】習得まで、あと5700ポイントくらいというところだ。
出来ることなら、早め早めにスキルを取って【
俺はスキル習得ポイントが貯まりやすいダンジョンを調べた。
いろいろ見た結果、今の俺のレベルでは《DD-199ダンジョン》が最適だと分かった。
スキル習得ポイントが効率的に稼げるダンジョンで、出現するモンスターは植物系のモンスターが多い。
植物系のモンスターには炎系の攻撃が有効なので、【ラビットファイヤー】との相性も抜群だ。
しかし注意点として、貰える経験値は少ないとあった。
「今日も元気に行ってきます!!」
俺はボロアパートを出て、D-GUIDEのマップを見ながら歩いた。
それにしても、徒歩圏内にこんなにダンジョンがあるというのは便利なものだ。
地域によっては、最寄りダンジョンまで電車で数十分というところもあるらしい。
そういう地域は俗に「ダンジョン過疎地域」と呼ばれている。
「ここだな。」
20分歩き、《DD-199ダンジョン》に着いた。
D-GUIDEのマップを閉じ、出現するモンスターとそのスキルを確認する。
出現するモンスターの1種がスニーズフラワー。
【催涙花粉】というスキルを持ち、その花粉を吸い込むとくしゃみが止まらなくなることからその名がついた。
花粉は全身を覆うシールド系の防御スキルで防げるとあるので、【粘膜シールド】があれば問題ないだろう。
さらに、デッドツリーという朽ち木のようなモンスターもいる。
ただこちらはスライムと同レベの低級モンスターで、すぐ折れる・すぐ燃える・すぐ崩れるの三拍子揃っている何ともかわいそうな奴。
一応スキルは持っているようだが、【体当たり】とさして変わらないので習得する必要は無さそうだ。
「さあ、本日も出勤致しますか!!」
俺はダンジョンの扉を開け、力強く1歩を踏み出した。
少し歩いたところで、デッドツリーが2体現れた。
「【分身】!!」
俺は体を2つに分ける。
そしてそのまま、哀れなデッドツリーに突っ込んだ。
「【体当たり】!!」
デッドツリーの体がバキバキと折れ、砕け散る。
登場からわずか数秒。
スキルを
さらに歩みを進めると、今度はスニーズフラワーが出てくる。
緑の茎に白い花を持ち、体長は80cmくらい。
こちらは、少し警戒が必要だ。
「【粘膜シールド】!!」
花粉を防ぐため、俺は粘液の膜で自分を覆った。
スニーズフラワーが小刻みに揺れ動き、茎をすくめる。
そして一気に、黄色い花粉を噴射した。
しかし、シールドに花粉が吸着されて俺には届かない。
しばらく舞っていた花粉が落ち着くと、俺は【粘膜シールド】を解除した。
スニーズフラワーは、次の花粉を噴射しようとしている。
俺は素早く、勝負をつけにかかった。
「【ラビットファイヤー】!!」
スニーズフラワーに向けて、うさちゃん火の玉が飛んでいく。
確実に火の玉がスニーズフラワーを捉え、その体は炎上した。
後に残ったのは、焼け焦げた細い繊維のみ。
「あ、【催涙花粉】をコピペしてない…。」
つい、デッドツリーの流れのままに倒してしまった。
「ま、次のスニーズフラワーでいいか。」
俺はまたダンジョンの奥へと歩き出した。
湧いてくるデッドツリーを焼き払い、文字通り木っ端微塵に砕きながら…。
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氏名:
年齢:18
《STATUSES》
レベル:10
攻撃力:220
防御力:220
速 度:220
幸 運:220
体 力:220
《SKILLS》
〈オリジナルスキル〉
【
【体当たり】Lv.2
【粘膜シールド】Lv.2
【分身】Lv.1
【跳躍】Lv.1
【ジグザグジャンプ】Lv.1
【ラビットファイヤー】Lv.1
〈ノーマルスキル〉
未所持
スキル習得ポイント:2320
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