「拝啓で始まり 敬具で終わる」 季節が移り変わり今年もこの季節がやってきました お変りないですか
cats
回想
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拝啓
季節が移り変わり今年もこの季節がやってきました
お変りないですか
巷では流行り病がまだ終息せずまだ先も見透せない状況です
用心深い貴女は大丈夫ですね
貴女に似たのかこちらも大丈夫です
あの時から随分経ちます
あっという間と感じたり時が止まっていると感じたり
暫く会えていないのが心苦しく
近々時間を作って会いに行こうと思っています
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連絡が無いのが元気な証拠といいますが
会えるまでまだ少し時間が空くので少し近況を話します
話すと言っても特段ないのですが
相も変わらず1人です
仕事も変わりはありません
心身共に元気です
実は先日健康診断で引っ掛かり再検査を受けました
結果は要観察でした
ここ数年は必ず引っ掛かるので毎度の事かと
若くはないということですね
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最近不意にふと頭に浮かぶ事があるんです
といっても大した事では無いんですけど
でもなんか懐かしいなと
白いカリフラワーとハムカツと金平ごぼうです
そんなものと思うかも知れませんが
巷で手に入るものはちょっと味が違うんです
まして白いカリフラワーなんて今は無いです
今は緑のブロッコリーらしいです
流行り廃りなのか時代の流れなのか
ご心配無く元気です
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正直言って
記憶の奥にゆっくり押し込まれていきます
ページを上へ厚く積み重ねられていきます
2021年
⏬
2020年
⏬
2019年
⏬
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久し振りに彼からメールがきた
彼は数あるSNSの中で連絡をしてくる時は必ずメールだ
『ん? 久し振りだな なんだ』
一緒だけドキッとはしたが直ぐに落ち着きスマホを手に取る
良い知らせか悪い知らせか
この年になると選択肢はそれだけだ
「話したい事があります メールでは伝えにくいので電話で話したいと思います 都合のいい時を教えて下さい
『・・・』
そっちか
心の中で静かに呟く
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仕事が終わり車に乗ったのは既に20時を過ぎた頃だ
『遅くなったな 微妙か』
直ぐには出来ない
公園か何処かの駐車場で
一服してから腰を据えて
『いつものとこか』
エンジンを掛け走らせる
着いたのは木々に囲まれた公園
何かあると必ず此処にくる
『ふうっ』
スマホを手に深く息を吐きながら
スマホに視線を落とし考えながら
でも
指は動かない
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『なんだろ』
このままでいいのならどんなに楽か
メールで済むのならどんなに楽か
そうはいかないのか
そうしてくれないか
『ふうっ』
2度め
『ふうっ』
3度め
何度めかいい加減時間を重ねた先に
今までに一度も無かった深い深い
『ふうっうっ』
指はぎこちなくゆっくりと
消えた画面を立ち上げる
ロックされた画面を解除する
整理整頓されたアイコンの中から
電話のアイコンを探す
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〈トゥルルー トゥルルー トゥルルー〉
『出るか 出ないか』
『仕事中か 運転中か』
『出なくていい』
何らかの理由で出ない事を望んでいる
どこかで間違いなく
〈電源が入っていないか 電波の届かない所に〉
『・・・』
ほんの3秒が長く長く刻む
『それでいい』
先伸ばしになるだけだ
何も進まない事になる
『それでいい』
助手席に静かにゆっくり電話を置く
瞬間
〈トゥトゥルー トゥトゥルー トゥトゥルー〉
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『んなんだよ』
〈トゥトゥルー トゥトゥルー トゥトゥルー〉
『束の間かよ』
〈トゥトゥルー トゥトゥルー トゥトゥルー〉
『一瞬かよ』
〈トゥトゥルー トゥトゥルー トゥトゥルー〉
『もしもーし おぅ 久し振り』
もう既に
もう流石に
自然な流れだ
「すいません 忙しいとろ 今大丈夫ですか?」
久し振りに聞く聞き慣れた彼の声が
不自然に落ち着いている
『大丈夫』
聞き耳を立てる
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『ふうっううぅ』
疲れ切った指がぎこちなく電話を切った
『長くなったな』
疲れ切った目が時計を時間を探す
『ん? 10分? たったの10分?』
『30分じゃなくて 10分?』
その錯覚そのずれが話しの内容を表す
『疲れたな』
『そうか そうか』
『どうする』
『まずは何から』
ゆっくりとゆっくりと深く深く言い聞かせる
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『取り敢えず 久し振りに行くか』
何かを考えても何かを解決しようとしても
何も纏まらない何も答えは出ない
そういう言い分けだ
『いつ以来か あの時以来か』
決して近くはないがそれでも遠いわけでもない
なのに
『久し振りだな』
スマホのアイコンからカレンダーを探す
『・・・』
『ここだな』
登録したスケジュールを見つめ瞬く
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『変わらないか まだあるのか』
『懐かしいな この景色』
右を左を流れる景色をせわしなく追う
今日に限っては運転は慎重に
何かあったら話しにならない
『寄り道をしたくなるな』
『道草を食べながら』
万華鏡の中にいるような
わくわくなのか
こんな日に
暫く振りの慣れた景色に誘われている
『ふっ』
不意に思わず頬笑み声が出た
『またか いつも1人か』
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『ただいま』
⏬
「ああ」
⏬
『久し振り』
⏬
記憶が奥からせわしなく飛び出てきます
ページが下へ捲りあけげられていきます
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相も変わらず全部彼に任せっきりです
何も文句を言わずに大したものですね
人の振り見て我が振り直せということでしょうか
反面教師というやつですね
それには感謝していますから
諸々の事は求めませんのでどうか安心して下さい
彼には話しましたがせめてもの感謝と償いです
それでとんとんになるのかは分かりませんね
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ひとつどうしても聞きたい事があります
貴女は
貴女は
楽しかったですか
どのくらい
幸せだったですか
どのくらい
諸々満足でしたか
どのくらい
それが気になります
こちらは
こちらは
楽しかったです
とても
幸せだったです
とても
諸々満足でした
とても
只
ひとつ
もう少し
もう少し永くても良かったのではと思います
最後のお別れがとてもとても心残りです
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一瞬の
この一瞬の時間に
可能な限りの事をしなきゃ
可能な限りの事をしたくて
一瞬の
この一瞬の時間に
可能な限りしましたが
可能な限り出来ません
一瞬じゃ短すぎますよね
貴女にも短すぎますよね
ちゃんと挨拶をしたかったです
見えていましたか
香っていましたか
聞こえていましたか
こちらの
姿が
空気が
声が
教えて欲しいです
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貴女に会いたいです
明日会いに行きますね
敬具
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「拝啓で始まり 敬具で終わる」 季節が移り変わり今年もこの季節がやってきました お変りないですか cats @dum57567
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